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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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79.【結界術師は心に刻む】

投稿復活初日からギリギリっていう奴です。この先不安。

「アミリスタ、ここを任せてもいいか?」

「どういう事?」

「倒さなくていい。戦い続けてくれれば、時間を稼いでくれれば。」

「分かった。」

アミリスタに戦線を丸投げし、火花の散る戦場から一旦退避した。理由はふたつ。ひとつはある違和感に気付いたから。もうひとつはただ単に足を引っ張るだけだから。アキトがいなくても、アミリスタならなんとか持ちこたえられるはずだ。相手は大罪囚にも引けを取らない化け物。持っている力は底が見えなかった。

「どれくらい時間を短縮できるか、だな。」

アミリスタのみでのラグナの撃破は恐らく無理。すぐにラグナを倒す策を考えなければならない。その時、燃え上がる炎の旋風がアキトを照らした。

「っ!なんかの合図か?」

余計な思考を振り払うように瞳を閉じ、頭の中に沸いたバカみたいな思考。

「やってみるか」

近くの民家へと駆ける。ここはイラの大罪悪魔契約で燃え尽きた場所。シャリキアも言葉にしていたように、この区画もすでに燃え尽きた建物の再建がすすんでいる。つまり、人のいない民家がほんの少しだけ造られている。この世界でいう水道、それは、魔力を流すことによって水のでるものを使っている。おかげでアキトも苦労していた。

まだ新しい木製の扉を剣で叩き切る。固い扉を簡単に切り、貴鉱石を通して魔力に変換、多少の倦怠感が消え、体に通常通りの間隔が戻ってくる。魔力は、体の中のさまざまな細胞と溶け合い、身体能力の向上や世界への干渉をすることができる。そのかわりに、魔力は体に溶け込み、必ずなくてはならないものとなってしまう。

「たのむ!」

そのただでさえ少ない魔力を顕現させる。金色に煌めく宝石、小指大のそれは、異世界水道から水をだし続けることも出来る。

金の宝石をおしあて、四角い黒のパネルがマナを吸収するのを見守る。輝く魔力結晶が吸い込まれ、蛇口から水が溢れ出す。

これで準備は終わった。あとはアキトの立ち回り次第。

背後の滴る水滴の音を確認して、ドアの向こうで繰り広げられている戦闘に耳を傾ける。

様々な形態に変化してその刃を伸ばすラグナのパーニッシュ、持ち得る結界で全ての行動を行うアミリスタのリンクフィールド。どちらも異色、どちらも戦い方が複雑。それ故、相手の戦術に自分の技を合わせるのに時間がかかる。慣れているラグナでも、アミリスタの結界で殴る脳筋戦術にはまだ充分対応できていないはずだ。

ーーーだから、アミリスタはまだ時間を稼いでくれる。

壁にそっと手を置き、打開策を考える。

静かだった。戦場とは思えないような静寂が辺りを包み、アキトに聞こえているのは流しっぱなしの異世界水道のみ。流れる水の音だけが、今ある音。考えるのに邪魔にはならない。


ーーーーー


ーーー君は今まで、どう敵を倒してきた?

うるさい。思考を遮るな。もう少しで分かるんだ。違和感の正体が。

ーーー違う。そんな違和感に頼ってもどうにもならない。分かっているだろう?

違う。この違和感で、この思考で打破できるはずだ。これまで破ってきた敵は、最弱が出来る限り、偶然成功するようなものだけ。だが、筋は通っていた。違う、俺が考えているのは、

ーーー敵を、ラグナを倒す方法。そのはずだ。


「黙れ!」


ドンッ、と重い音が鳴る。無意識に壁を殴っていた。

どうしてこいつは殺す以外の方法を提示しようとしない?カーミフスの時は、こいつのいう通りに成功した。だが、今回は、こいつのいうことを聞かなくても成功させてやる。


ーーーーー


「こんな幼女が竜伐とは、なかなか世界は残酷だな。」

「そっちこそ、キミ皇族でしょ?どうして興都を潰しに来るの?」


戦闘の合間、こう着状態へと陥った2人。交わされるのは皮肉。

息が上がり、手足の先が痺れている。アミリスタの結界の使いすぎ、魔法力の限界だ。その窮地に、

「待たせたアミリスタ。一旦引くぞ」

「っ、うん」

背後、戦線復帰したアキトがアミリスタごと戦闘から退避を指示した。駆ける2人の足元に結界が張られ、高速移動結界が2人を運ぶ。この結界を使ってしまったら、アミリスタにはもう魔力が残っていない。つまり、何かの処置なしでは戦闘ができないということ。それなのに決断した理由。それが、アキトへの信用。

進む結界がやがて途切れ、着地した勢いのまま民家へと入る。アキトが細工したその民家は、もう水浸しになっていた。みれば、蛇口が半壊し、とんでもないスピードで水が噴射されていた。実体化させた魔力をまた戻して使っているため、キャパを超えた異世界式水道は壊れたのだろう。

と、そんな事を見ている暇はない。肩で息をするアミリスタ。それは、戦闘で相当消耗していると物語っている。

「アミリスタ。大丈夫か?」

「うん、僕はなんとか・・・。」

息も絶え絶え返すアミリスタ、どうしようにも戦線復帰はできないだろう。無論、させるつもりはないが。

アキトにはもう出来上がっている。なんとか可能性として出来るかもしれない作戦がある。これまでのアキトの戦術は、難易度は高かったが、出来ないものはなかった。けれど、今回の作戦は出来ないかもしれない。

「それじゃあ、お前はここで待ってろよ、俺がすぐに片付けて来るから」

「ちょっと待ちなよ!今なんて」

「お前に待っとけって言ったんだよ。」

大げさに反応するアミリスタを見ず、窓から外を確認するアキト。それは、アミリスタからすればただの自殺宣告だった。

黒竜討伐戦で、アミリスタが敷いた結界から、自分から出て行く者たちがいた。悪意を感知する竜はそれを感じ取りすぐさま蹂躙。そして、それでやられた者たちの仇を取るため、ここでのうのうと生きるくらいなら死ぬ、という感情の爆発で、黒竜はそれを駆逐し続けた。だから、アミリスタは容認出来ない。

「アッキー1人で行ったって自殺行為だよ。」

「馬鹿野郎、勝手に殺すんじゃねぇ」

「いてっ」

手刀をアミリスタの頭に落とし、そのまま薄紫の頭を撫でる。

アミリスタには俺が時間を稼ぐから逃げろ、と聞こえたのだろうか。いや、そんな力があればアミリスタに言ったかもしれないが、今それをアキトがした所で無駄死にだ。

「俺から死にに行くなんてしねぇ、何を心配してんだ?」

絶望を少しでも紛らわせようと笑いかける。

「だって、・・・」

小さく、聞き取れないような声で、アミリスタが続ける。

「黒竜戦で、みんな死にに行ったんだよ・・・。」

「っ」

リデアからも聞いた凄惨な黒竜戦。アミリスタも、その黒竜戦で深い傷を心に負っていたのだ。

守ろうとする相手が自分から死にに行く。守ろうとしても守れない。結界術師にとってそれは、どれだけ辛かっただろう。

「あーもう!くそっ毎回出てきやがって黒竜は!」

リデアの時も、アミリスタの時も、そして冷たい態度のヴィネガルナもきっと。みんな黒竜のせいで、

「こんなに知らない奴恨んだのは初めてだ!」

唖然とするアミリスタの両肩に手を置き、目線を合わせる。

「安心しろ、俺は自分から死にに行ったりしない。お前に何回も守られた、その命を投げ出したりなんかしない。」

何度も助けられたアミリスタの結界。今、レリィやリデアがいるこの興都で、自分から死ぬなんてごめんだ。

「これまでお前が守ってくれたんだ。こっからは俺に任せとけ。」

「ちょっと!」

アミリスタの頭を最後に撫でて、扉の方へ向かう。すでにアミリスタは動けないほど消耗している。

「この騒動が終わったら、お前の話でもなんでも聞いてやる。だから、待っとけよ。」

伸ばした手は届かない。けれど、アミリスタの心の中に、黒竜討伐戦のような罪悪感は無い。行かせてしまった、殺させてしまったというその感情は無い。あるのは、守りきったという言葉。彼が残したその言葉が脳で反復する。

「僕が、守った・・・」

結界術師は瞳に涙を浮かべ、自分でも分からない感情を胸に刻む。分からないけれど、それは多分、嬉しかったんだと思う。


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