76.【戦場の種明かし】
「アミリスタ頼んだ。」
「それは守ってって事?それとも、僕が使える時の事?」
「全部俺がやる。なんて言えればいいんだが、どっちも頼んだ。」
肌に感じるピリピリとした空気。アワリティア戦とは比べ物にならないほどのプレッシャーに膝が笑い、今すぐに逃げ出して、この胸につかえる思いを吐き出してしまいたい。けれど、アキトはその感情を捨てたくないと思って居る。だから、戦う。
「ふふっ。せめて震えを止めていいなよ。」
「怖いんだよっ!」
「分かってる。だから、どっちも頼まれた。」
そのアキトよりも男らしく、愛おしい少女の表情に見惚れ、
「ああ。」
この戦いでのパートナーとなるアミリスタに笑いかけた。
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「ヴィーネやっぱり・・・」
「ごめんなさい。私はまだ信用できない。あの男を。」
漆黒の戦線へと走るリデアとヴィネガルナ。心配そうに言うリデアに、重く、暗い表情でヴィネガルナが首を振る。リデアの心配そうな表情を酌んで、その男を守りに行かせてあげたい。けれど、アキトがやってきて起こったこの侵攻、アキトが予知したこの侵攻、全ての考え方が違うアキトの思考。その全てが、ヴィネガルナがアキトを疑う理由の全てだった。
「それに、あっちにはアミリスタがいるから。死にはしない、と思う。」
アキトと行動を共にするアミリスタ。ヴィネガルナのたった1つの意見でそれが変わるはずもなく、心配はせれどアミリスタにアキトを任せた。
「死にはしないって・・・」
「リデアがあいつに何を言われたか聞いてないけど、私の最初の友達を奪うようだったら」
そういって、ヴィネガルナは腰にさした宝剣の刃を光らせる。
リデアにとっても、ヴィネガルナの人を見る力は信用している。けれど、それは昔の経験から。人を分析する事でしか見れない。だから、アキトの本質を見抜くことができない。リデアにとってアキトは、初めてあの黒竜戦のことを認めて、励ましてくれた少年だから。
「リデア。ついた。」
短く告げられる言葉。それもそのはず。圧倒的なプレッシャー。喋ることはおろか、動くことさえきつい。そして、地面でぐったりと眠るウルガ。全身真っ赤のウルガに動く気配はない。
「っ」
胸を貫く痛み。ウルガの傷付いた姿を見て、何も動けない自分がいる。それが、たまらなく悔しい。ヴィネガルナの胸を満たす怒りと自嘲。
ぶちっ、
「ヴィーネ、ダメっ!」
耐え切れるはずがない。
ヴィネガルナの瞳に、紅がさした。禍々しいその紅と、光り輝く魔力の波動。引き抜いた宝剣を掴み、踏み出した。
アケディア、ベルフェゴール、ラグナ、シャリキア、つまり、カガミとイラという主戦力意外の人物は、戦闘を行なっていない。
イラは簡単にウルガを倒し、カガミと対するファルナは。
「行くぞっ!」
「きなよっ!」
顕現する皇槍。全ての魔力を奮い立たせ、とんでもない規模で暴風を操る槍。
「皇槍、エトランレーフ。」
「興味があるのか?」
そっと呟いたアケディアに、ラグナが聞き返した。アケディアの悪魔はグリムライガという槍へと変貌する。同じ武器同士興味があるのかと思い、そう聞けば。
「昔、見たことがあります。」
「どうだった?」
「レベルが違いました。」
「ほぅ。」
魔力を段々と増して行く皇槍たちの奔流。振るう槍。現れるは、巨大な刃たち。
全てを切り裂かんと迫り、蹂躙して行く最大火力の超連射。もたらされる爆撃の土煙と、腹の底から響き続ける地響きが、耳朶を叩き、平衡感覚を狂わせた。
「ああ。これはいい魔力だ。」
「な・・・ぁ!?」
「使いやすいな。」
立っていたのは、無傷のカガミ。あの殺意の乱舞の中で、なんの能力も使わずに、カガミは無傷だった。ここで決着を付けるつもりで放ち続けた最強の風刃たちは、避けられた。
簡単な事。ファルナが放った弱いただの風撃を、カガミは避けただけ。ふらりふらりと最低限の動きでかわし続け、進み続けたファルナの風撃がアミリスタ製の結界で打ち消されるのを見ている余裕さえあった。
そして、ある能力の装填も済ませていた。
「この前会ったの覚えてないかい?ファルナ。」
「アキト!」
「違う。カガミだ。まぁ、覚えていてくれたならいい。あん時俺が何してたかってのを考えて欲しいなって。」
なんの能力か、それは、ファルナが死んででも他の皆に伝えたい情報だ。どれだけの能力でも、アキトの頭脳でどうにかなるかもしれないから。
「時間切れだ。」
呟かれた言葉の主を見る。
あの時、アキトたちが食事をしていた時。カガミは何かの魔法を荒野に打ち続けていた。それは、脱走した魔物たちの攻撃も含まれていて。ここでアキトなら何か閃いたかもしれない。けれど、能力を使うために荒野に攻撃し続けるなんて、意味が分からない。
「まぁ、種明かししようじゃないか。」
「・・・」
「顕現魔法『その最強は世界を求める。』」