75.【鏡・カガミの意味】
始まるといってからどれくらい経っただろうか。2話くらいでしょうか?いや、次は本当に始まりますって、ちなみに、アキトがカーミフス大樹林で見た夢とカガミが見た夢はおんなじです。(終わる終わる詐欺の次は始まる始まる詐欺ですね。)
「本当に乗り込んできやがった!」
「どうやって!?」
ファルナの感知した魔力は、まごう事なき大罪囚の魔力。ただし、その数は2つ。さらに、それ以上の強者が、平然とそこに佇んでいる。全身を駆け巡る悪寒、それは、ファルナがこれまで見てきたどんな人間よりも、悪人よりも、魔獣よりも、強い。言葉で表す事ができないようなおぞましさに、測り難い戦闘力。
「おいっ!」
ばたん、とけたたましい足音とともに扉を開けた少年が入って来る。黒髪の最弱。アキトだ。
息切れと切羽詰まった叫び声。それは、もうこの状況を理解したからだろう。少し顔が赤いのは何故だろうか。きっと、走ってきたからだろう。きっと。
「あいつらはどうやって結界の中に・・・」
「きっと、アケディアの影の世界でしょうね」
息も絶え絶え、アキトがファルナに言う。
アケディアは大罪囚で2番目に弱い。それは、戦闘力の問題だけではないが、バルバロスでの能力測定は簡単だった。だから、影の世界なんていう不可解な能力を、ファルナは知っている。
「俺は、影の世界を見た事があります。夢ですけどね。」
それは、忘れることのない。あの夢。カーミフス大樹林で見た不可解なそれは、見たくないと拒み続けても、容赦なく、じっくりと痛めつけるように脳裏にそれを焼き付けてきた。そう、あれは、この世界ではない影の世界だった。そこにいたから、その存在がいたから分かる。
「それに、なんの関係が?」
「俺の見た影の世界は、この世界とそっくりでした。とんでもない戦争の痕跡で焼け野原でしたけど、あれはきっとカーミフス大樹林だった。」
「?」
ウルガにそれを説明しても分かるはずがない。この考えも、アキトがもし侵入するとしたら、と想定した答えだったから。
結論を、説明する。
「こちらから影の世界に行き、あいつらの支配下にあるであろうウドガラドに行きます。そして、そこからゲートでこっちの世界にくるんです。」
こちらのウドガラドでゲートを開けば、影の世界のウドガラドに出る。つまり、座標はそのまま、現実世界と影の世界だけをまたぐのがその力。つまり、あちらで簡単に侵入できるウドガラドで影のゲートを開き、そのままこちらの世界に来れば、結界など関係なくウドガラドに入れる。
「なっ、そんな方法が!?」
「ちょっと考えれば分かるような簡単なことですがね、俺にとっては。」
アキトは散々日本でこんな非現実を見てきた。だから、予想できた。そして、もう気づかなくてはいけない。こっちにも人が居るように、あっちにも人が居る。つまり、もう1人の自分も。
「こんな捻くれた発想をする奴なんて、俺は1人しか思いつかない。」
「敵が何者か知って居るのか?」
「ええ。」
数学の問題を国語で解くといったように、立ちふさがる壁を地面に穴を掘って越してしまうように、どこまでもバカで嫌な考え方をする、出来る人物。
ーーーああ、そうだ。
ーーーわかったかい?
そう。敵の正体は。
「影の世界の、もう1人の俺ですよ。」
ーーーーー
時は、少し前に遡る。
「なぁ、アケディア。この影の世界には、現実と同じように、同じような人間が住んで居るのか?」
「いいえ。精霊王の矛盾を破壊する精霊の力で、ある条件を満たさないと、人はできないようになっています。」
初めてそんな事を聞かれたとでもいうように、少し驚いた表情で、アケディアは語る。
「条件?」
「はい。現実でその人が大きな選択を迫られた時、その人が選ばなかった方の選択をした自分が、影の世界に行きていくんです。」
「つまり、反対の人間がそれぞれの世界に住んで居ると、そういうことか?」
「簡単に言えば・・・ですが。」
カガミはそれを聞いた時、いつもの表情を消した。おどけたような、何もかもを軽く考える貼り付けた表情を。
何か作戦を練る時、彼はいつもその表情をする。暗く、底の見えない表情を。
「なぁ、ルーレサイト。」
「?」
「ミカミ・アキトはきっと、あちらで大きな選択なんて、まだ迫られていないと思うよ。」
その少しだけ感情が見えた言葉は、どういうわけかアケディアの頭に残っていた。それは、含まれて居る感情が、彼には珍しい嬉しさだったからだろうか。
ーーーーー
「場所は?」
「ウドガラド興国大火災発生地域。」
カガミがアケディアに尋ねた質問に答えたのは、意外にもイラだった。
何もない。といってもいいほどの景色。あるのは、大量の木材が積まれた箱の密集して居る基地?のようなものだけだった。
「よく知って居るな。」
「昔ここを燃やしたのは俺だからな。」
「そうか、君はこちら側の世界の人間だったね、そりゃあ大国との諍いもあるか。」
納得したようにカガミがわざとらしく言うと、イラは不機嫌そうに鼻を鳴らして、暇つぶしだとでも言うように語る。
「俺がこいつに魅入られた場所だ。」
カガミが黙った。そう、ここは、イラの、罪になるほどの怒りが爆発した、そんな場所だった。そして、哀れ、こんな悪魔に魅入られ、興都の一角を燃やし尽くした。
カガミが堪えきれずに笑う。
「ちょうどいい。トラウマを克服できるな?」
「とらうまってなんだよ」
眼前に虹の奔流。
最強クラスの存在が、それに相対する。