73.【闇を纏う】
これから8月くらいまで不定期です。あと主人公が最強のやつとか読みたいですかね?
「カガミ!」
「イラ。どうした?」
呼び止めたのは憤怒の大罪囚イラ・ダルカ。大罪悪魔サタンを従える怒りの使徒。強引ではあったがなんとか仲間に引き入れたその大罪囚イラは、慌てた様子でカガミの元へと駆けてくる。
「お前は、何を企んでいる?」
何かに怯えているような、何かに感づいたような、訝しげな表情で、恐る恐るそんな疑問を口にした。この過剰戦力である興都襲撃連合は、興都を破壊、蹂躙し尽くし、あちらと同じように作り直す。という企みを聞いている。けれど、イラはカガミに聞いている。お前は何を企んでいるのか、と。
「何かを企んでいるように見えたか?」
あくまで知らない。そう見せて嘘を吐く。
「お前は俺と同じ。とんでもなくでけえモンを1人で打ち壊そうとしやがる。なのに、てめえの出番がなくなっちまうかもしれないくらいの過剰戦力で挑むってことは、この襲撃作戦にはよ、もっとでけえ目標があるんじゃねえのか?」
「・・・過剰戦力。まぁ、そうだろうな。」
諦めたように笑うカガミ。そこにはいつものおどけた雰囲気がない。それに言葉にし難い怖気を抱きながらも、イラはそれに耳を傾ける。
「今回通常どうりに事が進めば・・・、」
そう言って、カガミが3本指を立ててイラに示してみせる。
「興都は3日で陥落する。」
「そりゃあ、この戦力で叩けばそれぐらいできるが、」
カガミの手のひらが空を横に斬った。それに圧倒されたイラが口を閉じる。
「今回、イレギュラーがいる。そいつがいる限り、俺たちは興都を落とせない。」
「はぁ?そんな強ぇ魔力は興都にはねぇぞ?」
探った記憶の中に強者の存在がないことを確認して、カガミに問い返す。それを聞いたカガミが小さくため息をついた。
「それならありがたいがな。」
「?」
「そのイレギュラーがいたら、興都への被害はそのイレギュラーだけってことになる。イレギュラーつていう代償を払って、どうにか興都は続く。」
一瞬思考に意識を割いたイラが口を開く。それは、少し震えていただろうか。
「ってことは、そのイレギュラーって奴がいたら、そいつは倒せても興都は落とせないってことか?それじゃあまるで」
「ああ。この作戦は。」
「・・・・」
「ミカミ・アキトを殺すための作戦だ。」
カガミほどの実力者がこれほどの過剰戦力を用意し、なお互角と言い張る実力者、そして、その強さを誰も感じる事ができない。イラはカガミの実力を知っている。笑い飛ばしてもおかしくない。けれど、そのミカミ・アキトは、カガミ・アキトの半身。現実の身。
「安心しろ、ミカミを殺したら俺たちに対抗できる奴はいなくなる。」
「だがよ」
「まだ信じられないか?」
イラがその事実を受け入れていないと勘違いしたのか、カガミが指を立てる。
「ベルフェゴールを使った興都に侵入する方法。覚えているな?」
「ああ・・・」
「それくらい、予想できるかもな。」
理解ができない。そんな事を、魔力も持っていない人間が出来るのか?そんなに奴は強いのか?
「どうして強いんだ。」
「ミカミ。強いわけがない。あいつは発想と厄介な思想を持ってる危険な奴なんだ。今は、ただの『最弱』だ。」
圧倒的魔法力。魔道士が長時間詠唱で放つ魔法を連発し、影砲の最強火力と顕現魔法で持って単体で国ひとつ滅ぼすぐらい簡単に出来るカガミ。その実力はこの世界でも3本の指に入るだろう。ベルフェゴールという強大な悪魔から契約を持ち込まれ、どこまでも勤勉に生きてきた少女。全ての大罪囚の技を再現する事ができ、影の世界への行き来を可能にする異能力者。強力な顕現魔法を操り、底知れない力を蓄えているラグナ。そして、この世界のあらゆる見えないものを保管出来るシャリキア。さらに、火力重視最強クラスの刃バーサークとサタンを従える怒りの大罪囚。
そして、それに対抗できる。と、そうカガミは行った。ミカミを殺そうとする巨大な闇は、もう目前に迫っていた。
次回。興都襲撃開始。