71.【小さなありがとう】
レリィとのあの夜に、アキトは知らなかった物語を告白した。
あれから半日。アルタリカの治療を終えてアキトは晴れて興都に来た目的を果たすことができた。けれど、一番やらなくてはならない事がのこっている。興都襲撃の阻止と、シャリキアを助けること。
「アッキー終わったかい?」
「アミリスタ。ああ、もう終わった。」
治療室から出てきたアキトを出迎えたのは、薄い紫がかった髪と、小柄な体躯が特徴的な少女。
「それでレリィとリデアは?」
「2人はアッキーほど傷が深くないから別の治療院だよ。」
手をひらひら振りながらアミリスタが言う。けれど、リデアはアキトより傷が深いのではないのではないだろうか。
アキトを助けるために、リデアはマナ使用量限界を超えていた。さらに外傷が加わって、アキトより傷は深いはずだ。と、そんな考えを読んだのか、アミリスタがじ〜っとこちらを睨む。
「リデアの方が傷は深いとか思ってる?」
アキトが頷くと、アミリスタが大きなため息をついて額に手を当てる。
「アッキーはさ、心の問題なんだよ。」
「何が?」
「アッキーは如何してかはわからないけれど、心に大きな傷を負ってる。弱ってるんだよ。」
「っ。」
脳裏によぎった白い影。
別にきつく迫られたわけでもないのに、レリィにあのことを話したように。アミリスタの表情には冗談で切り抜けられるような心配でないのが分かる。この少女たちは、竜を殺した英雄なんかじゃない。人の心を持った、たった1人の人間だ。
「じゃあ、俺はさっき心の問題をどうにかしたってのか?」
「気休め程度だけどね。」
自嘲気味に笑うアミリスタ。瞳の奥、紫紺の底には悲しい悲痛の表情が宿っている。
「いや。お前に心配かけるようなことじゃねぇよ。」
心の内を悟られないように、そっとアミリスタの頭を撫でる。丁度撫でやすい位置にある頭。見た目は完全に子供。だけれど、アキトの悲痛を感じ取れる、優しい少女。
「もう!子供扱いしないでよっ!」
「わかったって」
胴体を優しく叩くアミリスタの拳をそっと受け止めて、
「でも、ありがとよ。」
「・・・!どういたしまして」
明かせる心の中の感情を、小さな言葉に乗せたのだった。