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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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68.【長く続いた告白の夜】

「ああああああああ!」

咆哮にしてはいささか頼りない。雄叫びにしては織り交ぜられている感情が複雑すぎる。女にしては筋肉質で、男にしては綺麗すぎる手で。異世界人と言われれば髪色に違和感があって、日本人といえば少しの思考の余地があって。

大樹を爆発させながらアキトを殺しにかかる数えきれない鎖たちの奔流が向かってくる。

人間としてのリミッターを、自我を飛ばすことで外した憐れな断罪者。

精神を落ち着かせ、乱れる呼吸を抑えつけ、震える体を叱咤して、穏やかな瞳で輝く剣を構えた。その剣の柄からは鎖が伸びており、その鎖はアキトの背にある魔力口に繋がっていた。

ーーー心臓をねらってるよ?

ーーー分かってる。

ご丁寧に狙いを教えてくれる声に静かに応じ、構えた剣の切っ先に魔力を集中させる。

意図的に使わなかったのだろうか。自身が忌み嫌ってきた血筋の力を。なら、その力で屈しさせてみせよう。シャリキアを、救うために。

「空間振動。」

声が、りんと駆け抜けた。続く爆音。森の咆哮と金属の弾ける音が全てを支配していた。

突いた刃の先から発生した爆発が、空間を滑り、轟き、嘶いた。その圧倒的すぎる力の渦に、近づいていた鎖たちは全てがその方向を失い、地面に力なく落ちるものと、粉々に弾け飛ぶものに変わった。

「な・・・デ。が・・・う、死・・・技か?・・・・・・して」

「そろそろ決着をつけようぜ!」

ーーー空間振動!

胸の内で叫ぶ。喉が張り裂けそうなほど、否、胸が張り裂けそうなほどさけんで、この暴風の中で力を叫ぶ。そして、

全身を迸る痛覚の脈動に思考が停止した。それがどうした。どうあがいても攻撃の手は緩まない。全方位から飛んできた様々な鎖が一瞬でアキトに絡みつき、顔面と四肢を貫く鉄の味に痛覚を添えた。

「なに・・・が!」

抜け出そうと力を込める時間もなく。立ち込める粉塵を照らす太陽が影を映し出した。巨大な影。鉄塊の重量に蹂躙された体は、もはや痛みというものを忘れていた。

喉が張り裂けるほどに叫び、砕けそうになる程歯を食いしばり、がむしゃらに叫ぶ。

アキトに当たって弾け飛んだ鎖が1つ1つの刃となり、回避などさせるつもりのない一斉掃射を行なった。全身を鎖が貫き、穿たれる体が揺れる。

「空間振動っ!」

どす黒い血とともに吐き出した詠唱が、剣の切っ先から飛び出し炸裂する暴虐の風刃が鎖を叩き割る。振るう金色を輝かせて、続く詠唱をしようと舌を伸ばした時、超高速で飛んできたラグナの背から伸びる鎖に滅多打ちにされた。

1つ1つの鎖が拳のようにアキトを穿ち、永遠の打撃を伝え続ける。

「し・・・ぬぁ!!」

「ふ・・・ざけん・・・なっ!!」

詠唱などしている暇がない。全身から空間振動を放ち、空いた包囲網の間に刃の切っ先を向ける。ノータイムで放出される暴風の刃は首を少しそらすだけで避けられる。けれど、隙は作れた。

「あああああっ!!!」

向かってくる鎖にありったけの空間振動を叩きつけ、近づけないラグナに一発槍のように引き絞った魔力を撃ち出す。ラグナの肩を撃ち抜くも、ダメージが感じられない。

「お・・・わり」

空間振動振動で弾け飛んだ鎖がアキトの傷口に入り込んでいたのを、ラグナの本能は見逃さなかったのだろう。

体の内側で荒れ狂う鉄塊の不快感ととてつもない痛覚が、アキトをとうとう倒れさせた。

ーーー嘘・・・だろ・・・まだ。


ーーーーー


魔力が飛び交う。私には入っていけない強すぎる領域で、耐え難い痛みを必死にこらえて最弱少年が戦っている。

「どうして、私の・・・ために・・・そこまで・・・」

本当に、意味がわからない。この絶望をどうにかしたくて月の資格を持っていた彼の元へ時間を奪ってまで駆けつけた。そのせいで大切な人が死んだのにも関わらず、2度もその元凶を救おうと死にかける。

「なんでっ!」

それなのに、なんで。なんで、こんな状況なのに、心が暖かいのだろう。

とんでもない悪党だ。仲間を殺された男が、その殺した張本人を命がけで守っているのを見て安心するなんて。だけど。

「あっ」

限界の限界。限界を超え続けた体が耐えられずにアキトさんが地面に倒れた。私には、やることがある。ここまで一生懸命戦っている人にこんなことができないとしてこなかったが、倒れてしまったらやるしかない。

虚空保管からさっき仕舞った距離を取り出して顕現させる。現れた距離に弾き飛ばされたラグナが木に叩きつけられ悶絶する中、こちらに視線を向けたアキトさんに必死に叫ぶ。

ーーーーー


シャリキアが、俺に必死に叫ぶ。

「殺してっ!私をっ!」

瞬間頭の中が真っ白になった。困惑とか、疑問とか、そんなのじゃない。とんでもない怒りが、脳内で暴れまわった。

やっと、やっとここまで希望を見せておいて、俺が倒れたせいでシャリキアはもっとひどい絶望に苛まれている。いや、もともと、そのつもりだったのかもしれない。

俺がアワリティアを倒した時間を虚空保管にいれたのなら、シャリキアの脳を破壊することで俺はあのリデアとレリィとともに馬車に乗り込んでいるはずだから。あの助けては、嘘だった?

「ふざけんなっ!ふざけんなよっ!どうしてお前はそんなに、俺を助けようとすんだよっ!!」

「・・・っ!」

嗚咽をこらえて、潤んだ瞳でこっちを見ている。

俺に助けてほしいと言って行動をともにする。そして、どこかのタイミングで脳を破壊させる。そうすれば俺は元の時間軸に戻れる。この逸れた世界から、元の世界へ。

「・・・・・・っ!俺に()()()()()()を言えよっ!」

「本当の助けて?じゃあ、助けてよっ!罪悪感でぐちゃぐちゃになりそうなのっ!だから、さっさと私を殺して、」

「っ!」

「私を、助けてよ。」

背後で、ラグナの気配が現れる。ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

「早くっ!」

「くそっふざけんなっ。」

もうここで、決まってしまった。ここでシャリキアを殺さないと、殺さないという選択肢は、無い。

ーーーならせめて、

「覚えとけ!本当の世界で、今度こそ、お前が幸せになれるようにしてやるミカミ・アキトが!だから、」

「なにを」


「黙って助けてを言いやがれ!」


ーーーー


もはや懇願の命令がシャリキアに届く。空間振動が、シャリキアを、ゆっくりと、嘘のように、真っ二つに、なぜか、感覚があった、この感覚が、人を殺したという、ことなんだろうか?


ーーーー


「信じて、貰えないよな。」

「信じますよ。」

朝日を背に、一晩中続いた開墾のストーリーを聴き終えたレリィが頷いた。

涙が光るアキトに手を伸ばし、頭を優しく撫でる。

我慢してきた涙が、更に溢れる。

長く続いた告白の夜は、起こらなかった物語を、知らなかった物語へと変えることになった。

あの手に残った人殺しの感覚を、忘れることなどない。


【長く続いた告白の夜】

シャリキア編終了。

興都編開始ーーー。

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