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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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62.【忠誠心の元を知れ】

簡単に言えば、折れた。

エトラン・レーフという最強クラスの強度を持った槍とは違い、ファルナが使っていたのはただの槍。

鎖を叩き割り続けた乱暴な扱い方に耐えきれるはずがない。

くるくると回って地面に落ちる槍の切っ先。ファルナが持っているのは最早、ただの棒。

そして、鎖の前で叩き割れた槍。波打つ鎖たち。

佇むファルナを一方的な蹂躙が襲った。

「がぁ・・・はっ・・・!」

倒れこむファルナから血液が流れだし、すぐに血溜まりを作り出す。

「ファルナ様!」

荒れ狂う鎖たちが地面を叩き、飛翔するラグナが夜の闇に紛れる。

強敵が去り、自分たちは助かった。しかし、その代償がこの『死』だというならば、それは重すぎる。

「解復ポーションはあるだろう!?」

「ああ!」

懐から取り出したポーションをファルナの口に当て、小さく喉が動くのを確認して飲ませる。

口の端から少量が流れ出すが、今はそんなこと気にしている時間はない。

おうさまの初陣は、大勝利と決別をもたらして、決着した。


ーーーーー


微睡みの中の意識が少しの痛みを伝え、体にかかる布の感触が徐々に鮮明になってゆく。

瞳を刺す人工灯の無機質な光を手で遮り、曖昧な思考を起こすために両頬を叩いた。乾いた音に少し覚醒し、

「ラグナ・・・」

零れ落ちてしまった自身の弟が脳裏に浮かび上がった。

ウルガとの戦闘で魔力枯渇で倒れた後、満身創痍の体でどうにかして闘おうと身体に負荷をかけ過ぎた。ファルナの体はボロボロで、魔力操作の才能もしばらく使えない。

それ以前に、まず体が動かない。

腕くらいなら動くものの、上体を起こそうとしても力が全く入らず、激痛が体を苛むだけだ。




ファルナの重傷もだが、騎士の中の騎士と言われた精鋭たちが手も足も出なかった事実に、興国は戦慄すると同時に皇の代替わりを検討し始めた。

そんな混乱を収めてくれるはずの賢者シャーグリンは、魔導具を持ち帰ってさらに混乱を生んだ。

ただ暗闇を映し出すだけの望遠鏡を、『人の世界の最奥を覗く魔筒』と言い始めたのだ。

どれだけの人が異論を唱え、批難しようと、彼はそれを正常だと言い続け、積み上げてきた賢者としての功績を落とした。

これまでの叡智を知っているものならば信じたはずの人々も、原因の分かっていないファルナの怪我に動揺し信じようとしなかった。

興国の中の絶対的強者たちが次々に実力を落としていき、興国は滅ぶと言われ、賢者は愚者と呼ばれ、最強の剣士は最低の剣士へと名を落としてバルバロスへと投獄された。同じく囚われた愚者は黒竜戦で命を落とすが、それはまだ先の話。

けれど、興国が危機に瀕していることは誰でも分かった。




ファルナが動けるようになったのは、意識が戻って3日ほど経ってからだった。

死んでもおかしくない重傷を3日で治したことは興国の治癒術師たちを驚かせたが、その3日のロスをファルナは重く受け止めた。

皇が皇として機能していないこの状況で、自分がしっかりしなければならないと。

興国で現在ラグナほどの力を持つものと渡り合えるのはファルナぐらいだ。例外はもちろんいる。

大罪の咎人たちや冒険者のほんの一部だ。

それ以外ならグレンぐらい。グレンと戦ったらラグナは再起不能になってしまうだろうが。

とにかく、揺れる興国には力が必要だった。

守ってやることができる刃があると示すための刃が。

あるではないか。

犯罪者として逃亡し居場所の分からないものではなく、大罪囚でもなく、ツキのものでもない。

ファルナと互角の戦いをした人物が。

「お前は・・・」

暗い独房の奥から聞こえてきた淀んだ声。

かすれそうな声。しょうがない。この独房では3日に1度食事ができればいい方だ。

痩せこけた体で、しかし、その目の闘志を尽きさせることなく激情を心で煮えたぎらせている。

「ウルガ、とか言ったか?」

「・・・・・・」

「あのメイドの弟、ウルガ・マッカルト。」

他に誰もいない暗闇に、ファルナの声と浅い息だけが響いている。

アルナが犯したメイドの弟、ウルガ。それは、メイド仲間の中に面識のあるものがいたから判明した事実だ。

夫がいたそのメイドは、哀しみに暮れ廃人状態となり、ウルガの問いかけにも反応しなくなったそうだ。

最後に放ったのは殺せという懇願だった。

夫との生活の中で行うつもりだった初めての行為を乱雑に奪われ、皇族はそれを隠した。

それに憎しみを抱かないわけがない。

カルバラを脱走させ、その間に宝物庫から双剣を盗み出した。

憎しみに囚われた少年が、ウルガだった。

「それで、どうかしたのか?死刑宣告か?ご苦労なこったな、俺だけのために。」

「違う。」

おどけた仕草でケタケタと乾いた笑い声をあげるウルガの瞳には、隠しきれない皇族への憎悪が宿っている。

しかし、それを受けてもファルナは動じず、真っ向から否定の声を投げる。

笑いをやめたウルガの表情に話せという意図を感じ取り、


「俺の騎士にならないか?」


乱暴で乱雑で、感情を織り交ぜた一言を伝えたのだった。





超強力免疫侵食細菌兵器KAZEYOKOSIMA(風邪)をひいてしまいまともに小説が書けませんでした。すいません。旅行から帰ってきたらすぐこれですよ。

明日から頑張ります。

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