61.【違えた魔】
「しぃっ!」
鋼の重りを叩きつける。真紅の刃を振り下ろす。輝く力で切り裂く。
それを片手で平然と受け止めて、不敵に笑うカルバラから距離をとる。
厚い皮膚と鍛え抜かれた筋肉が刃を阻み、その一瞬で滴る血液が腕に赤を引いた。
最高の力で振られた剣の力を、たった一筋の傷に収めたのだ。それがどれだけ規格外か、それがどれだけ恐ろしいか。
「死んどけやっ!」
唖然とする騎士たちに咆哮を上げ、剛腕を振り下ろす。
「ぐぼ・・・ぁ・・・」
メキメキと音がなり、凹んだ鎧から血が噴き出す。
浴びる鮮血に心地好さそうに目を細め、構えた拳を鳴らして振るう。
ただの拳撃が鎧を貫いて衝撃を与えた。そのバカな現実に歯を食いしばり、
「ちっ、厄介なことになった。」
最期の突撃をかまそうとした騎士たちが立ち竦む。それは、戦闘態勢に入っていたカルバラが、急に方向を変えて跳躍したからだ。
まだ粉塵を巻き起こすその木の小屋に飛び乗り、後ろ髪を引かれるように騎士たちを見る。やがて諦めたように闇に消えるカルバラ。
ほっと安堵する者、取り逃がしたことに歯噛みする者、痛みに顔をしかめる者、他にも様々な表情を見せる騎士たちは、戦闘の音が聞こえなくなった小屋を恐る恐る覗く。
空いた風穴から見えたのは、血まみれで倒れる2つの幼い影、そして。
「すま・・・ない。少し無茶をした。」
苦しそうに呻いたファルナが立ち上がり、片手で頭を抑えて血を吐き出した。
「大丈夫ですか!?」
「ああ。それよりラグナを・・・」
探してくれと言おうとしたファルナの口が、動くのをやめた。
アルナが孕ませたメイドは、誰だったか。
心身に傷を負ったそのメイドは、その後姿をくらまし、居場所を皇族ですら知らない。
けれど、その血筋が、形作っていた脈動が、流れていた命の結晶が、受け継がれてきた軌跡を開花させてしまった。
「兄・・・さん。」
「!?」
「僕は、本当の弟じゃないの?僕は誰なの?城から出られなかったのも。」
奴らはラグナに何を吹き込んだのか。
これまで散々縛られていた所から解放され、新しいことだらけの世界を見渡した子供に。
どれだけ辛いことを吹き込んだのか。
「落ち着けラグナ!」
叫ぶファルナの声が届いていない。
カルバラが逃げたのも頷ける。この溢れ出る魔力を見れば。
「とんでもない物を持っていたな・・・!」
「兄さん」
儚げに呟いた弟の背から、濁った紫の魔力を纏った鎖が飛び出した。
無数の鎖の先には刃も付いていて、憔悴しきったこの救助隊にどうにかできる相手ではない。
というか、相手がラグナな時点で、ファルナには戦えない。
「兄さん・・・の・・・嘘つきっ!!」
轟音が小屋を切り裂く。はち切れんばかりに溢れ出す魔力たち、さらに絡まり合う鎖たち。そして、自我を保っていないラグナ。
収束する鎖が槍となり、騎士とファルナに飛び出した。
空気を斬り、疾風すら巻き起こす鉛の力が、容赦なく彼らを蹂躙していく。
ひしゃげる鎧とへし折れる剣。その威力はカルバラの比ではない。
「くっ、それを貸せっ!」
吹き飛んだ騎士を見て、ファルナが走る。
立ち竦む騎士の剣を掴み取り、近づく鎖たちを次々と叩き落としていく。
甲高い音が鳴り響く戦場で、深手を負った子供が刃たちを叩き落としていく。
騎士たちに当たるはずだった重槍は叩き割られ、バラバラになった鎖がラグナの背へと舞い戻る。
その間に、削れ始めた鉄剣を放り投げ、騎士の槍を受け取る。
投げられた槍を掴み取った行動には、任せたという投げかけと、任せろという力が込められている。
粉塵が舞う中で槍を回し、そのまま構える。
引きしぼる筋肉と感情の荒波を抑え込み、ラグナが蠢く鎖を放出する時に備える。
「嘘つきぃっ!!!」
さっきの2倍以上数の鎖が霧を割いて飛来する。
解放する。引きしぼる鍛え抜かれた力の奔流を、それに込められた熱い激情を、解放する。
「はぁああああ!!」
床がひしゃげる。木片が飛び散る。
銀の輝きを乗せて、きらめく刃で鎖を叩き落としていく。
時には刃で断ち切って、時には持ち手をで叩き割り、受け切れない鎖を肉を抉られながら止める。
ファルナを止めるものはいない。
止めれば成るのはただの足手まとい。それだけじゃない。ファルナのこの気持ちを、誰が抑えられよう。
堕ちてしまった弟を取り戻す兄の姿を。
守りに入っていたファルナが攻める。
騎士たちに向いていたターゲットはしっかりファルナが引き受けた。攻めない手は無い。
柱に槍を投擲して突き刺す。その槍に乗って反動で跳躍。引き抜いた槍と共に天井を駆ける。
「目ぇ覚ませ!ラグナ!」
木製天井をぶち壊し、破壊の音色と重なり合う崩落と共に飛び降りる。
ラグナの背から顕現する鎖めがけて飛び出す。
顕現する鎖を壊し続ければ、魔力をなくして倒れるはずだ。
城に縛られてきた屈辱と、外を知るための刃が一体化した顕現魔法。後に明かされる名は『パーニッシュ』。
縛られてきた弟を救うために全てを貫く皇槍、与えられた名は『エトラン・レーフ』。
2つの刃が、すれ違いを繰り返す戦いで入り混じる。
別にオタクじゃない!この前テニスの大会を見に行った時、審判のゼロツーの声にピンク髪の娘を思い出したけどオタクじゃない。友達に話したら馬鹿だろと言われました。
結論、ダリ◯ラ面白い。15話最高。