60.【いつかきっと】
魔力印。つけられた相手の魔力を吸い、それを放出し続ける魔法印のことだ。
徐々に衰弱させることができ、さらに居場所が分かる。いわば発信機の役目をする魔力印は、様々な犯罪者に取り付けられている。
カルバラも例外ではない。
ファルナならその魔力を追って場所を特定することぐらい容易い。
「付いてくる者は少数で、実力はあって魔法があまり使えない奴がいい。」
仮にも警備がいたはずの地下牢から犯罪者を逃した者がいる可能性がある。
魔法適正が高く、魔力の強さを抑えられない人間が近づけば、魔力を感知して逃げられる可能性がある。
その場に揃っているのは剣を得意とするものばかり、この中から少し減らして救出隊を結成すれば、成功率は大きく高まる。
溢れ出る覇気を感じて、纏う覇気を流して、おうさまの初陣が始まる。
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ファルナ・ウドガラドの顕現魔法『エトラン・レーフ』は、幼少期の頃から強力な武器だった。
成長途中の子供ではあるが、暴風を巻き起こす斬撃ぐらいは生み出せた。
そう、小屋を半壊させるほどの暴風を。
「ラグナを返せ。」
「断る。」
短く返してウルガが床を踏み抜いて加速、勢いそのままに双刃を振り下ろす。
エトラン・レーフでそれを防ぎ、巻き起こす突風の槍で不可視攻撃をウルガに繰り出した。
吹き荒れる暴風の一部を集め、殺傷能力を持つほどの刃の風とする不可視の刃。見えない、聞こえない、感知できない。
はずだった。
「くぅっ!」
どこから現れたのか、灼熱が空気を焦がし、ピリピリとした熱さが肌を刺した。
それぐらいだったらよかった。
空気には多大な酸素が含まれていた。そう、ファルナの風にも、つまり、火に向かって酸素をぶち当ててしまったのだ。
「気付けよ皇族」
姿勢を低くしてダガーを振るうウルガ。そのダガーから氷結の盾が顕現し、続く爆炎からウルガを守り抜いた。
膨張した炎から承継反射で距離をとり、ことなきを得た皇を継ぐ者。
短く息を切らして槍を構える。
「行動が分かり易すぎる。ただ全力で戦うのは三流だ、しっかり作戦を立てないとさ」
「・・・!」
「強者は頭脳を持つんだ。」
炎に炙られた氷が溶けだし、魔力で生成された水がファルナの足元へと流れ、
燃えた。
その水は、ウルガの魔力。操ることは容易、つまり、即座に火にすることも。
「っ!?お前、なんで」
けれど、ファルナは止まらない。
自身がこの少しの痛みに喘いでいる間に、自分の半身とも言える弟は呑まれそうな恐怖と闘っているのだ。
それならば、まとわりつく炎など、全身を包む痛覚など、苦にならない。
炎を超えて、痛みを超えて、恐怖を超えて、皇槍を掲げて、咆哮を上げながら、突き進む。
「ぐあああああああ!!」
「くそっ、どんな痛覚してやがる!?」
無色になった魔石をダガーから外し、懐の魔石と入れ替える。
現れる魔石は炎を宿す魔力の塊。それを刃にはめる。
カタリとはまった魔石から紅が走り、幾何学的に折れ曲がる。刃を走る真紅の輝きは、やがて火となり業火になる。
「滅びろっ!」
片手に構えたダガーを振り上げる。軌跡をなぞる灼熱の輝き、業火の軌道。
爆炎が吹き荒れる。紅の乱舞が暗闇を照らし、ジリジリと照りつける炎の感覚。
それに、暴風を叩きつける。
「だからそれはダメだって・・・なんで!?」
叩きつけられた暴風が明らかに威力を増し、燃え上がる炎舞を見事に消してみせた。
くるくると皇槍を回し、荒れ狂う暴風が炎をかき消していく。エトラン・レーフが壊していく。
ファルナの魔法が、成長した。
たった数分刃を交え、互いの心に触れた。その一瞬で、ファルナの魔法が成長し、ウルガの魔力を打ち消した。
「返せっ!ラグナを、返せっ!」
炎の監獄を突破し、灼熱の余韻冷めぬまま、斬りかかるファルナの刃を双刃でいなす。
突き刺さる地面が破裂し爆壊、飛び散る木片が舞う。
どうして、先ほどまでの魔法がここまで成長するのか、おかしい。この成長速度はおかしい。
推され始めているこの状況がおかしい。
引き抜いたエトラン・レーフを再び構え、暴風を伴ったしの刺突を紙一重のタイミングで回避する。
燃えて焦げ付いた衣服をエトラン・レーフの斬撃がかすめ、徐々に布切れへと変わっていく。そこが、目的。
「おりゃっ!!」
墨だらけ、傷だらけ、そんな衣服を破り捨て、いや、破り脱ぎ、渾身の力でぶん投げる。
ファルナの周りで渦巻いていた暴風がそれを絡ませ、たった一枚の布切れが視界を塞ぐ。
驚愕するファルナの声、そして、
「頭脳がいるんだろ?」
爆散した木片達が宙に舞い、それが勢いよく射出された。
見えない状態でも使える範囲攻撃、自分への被害は考えない。考えるわけがない。
傷口を貫く痛みに顔をしかめるウルガの一瞬の隙、そこで繰り出す。
渾身の一撃を、
布切れを剥ぎ取ったファルナに刃を向ける。いま叩き込む、
渾身の一撃を、
互いが共鳴しあい、咆哮する。
もはや子供同士の戦闘ではない。
溢れ出る魔力が多すぎる。だから、
「が・・・ぁ」
「ぐ・・・ぅ」
光を失った2つの武器と影が倒れるのは、必然だった。
過去編の途中に過去編ってのはややこしいですよねすいません!
ファルナ達の話→アキトとシャリキアの話→興都です。
アキトとシャリキアの所はなかったことになってますが。