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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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58.【正義と悪意はかつて一緒に】

シャリキアが逃げ込んだ樹林に来たことを忘れてしまったラグナは、ここがカーミフス大樹林だということに気付いていない。

だから、出口を探すために動かなければならない。

必然。強者の魔力を気配で感じ取ってしまうアキトがシャリキアを見つけるのに、そう時間はかからなかった。

肌が粟立ち本能が訴える。手を出してはいけないと、この男は危ないと。

ラグナ・ウドガラドは危険だと。

そんなアキトの事を知らず、ラグナは思考する。在りし日の興城を。

代々、強力な顕現魔法と頭脳をもって産まれてくるウドガラド家に、異例の子供が生まれた。

名をアルナ・ウドガラド。何代も続くウドガラド家の中で最弱であり、最低な男だ。

王族の責務を丸投げし、好き放題に遊び尽くし、皇の暗殺計画が何回も建てられた。

簡単に代替わりが行われなかったのは、アルナの子供がまだ幼かった事と、ずる賢い性格のため。

アルナは無事に子を作り、育児をほったらかしにして遊び続けた。アルナの息子はそのおかげでアルナのようにはならず、皇となれる器に育った。

それが、ファルナ・ウドガラド。

そこまでは良かった。

アルナがメイドを犯し、子を作ったのだ。

それが、ラグナ・ウドガラド。

すでに地に堕ちていたアルナの評価をさらに下げるのを恐れ、国の上層部はその隠蔽工作を行い、ラグナを皇城から出さないようにした。

活発な時期の子供を王城に閉じ込めるような事をすれば、不安が溜まり爆発してしまう。

しかし、ラグナには優秀な兄がいた。

ラグナとの関わりを大切にして、疑問には答え、要望には応じた。

ラグナの起こした問題を一緒に収めに行ったり、兄として、人として最高の兄に接して、ラグナもしっかりとした人格を作っていった。

ある時は庭園で遊んだり、ある時はラグナのために吟遊詩人を呼んだり、ある時は割った壺の事を謝りにいったり。

数えきれない思い出を、ラグナはしっかりと刻み込んでいった。

しかし、ラグナは知らなかった。自分が親の隠し子で、皇城から出られない理由を。

ファルナは、言えなかった。

自分を慕ってくれる弟の心を砕くような事を、告げることなど、できるはずなかった。


ーーーーー


「そうしていまも、その2人は世界の謎を追っているのです。」

美声と奏でられる演奏が終わり、吟遊詩人の話に目を輝かせるラグナが歓声をあげる。

退屈そうな休日を少しでも紛らわせたいと、ファルナ自身が人脈を作り、一から吟遊詩人を招く状況を作り上げたのだ。

苦労したが、その弟の姿を見ていれば報われる。

賢者と剣士の冒険の物語を聞き、外の世界を見て見たいと思うのは、当然のことだった。

その日の夜に、空を眺めてラグナが呟く。

「外に、出て見たいな。」

「・・・・・・。」

「兄様。僕、外に出て見たいです。」

バツが悪そうに俯くファルナを見たラグナが、弱々しい声でだめですよね、と呟いた。

悲しさが織り交ぜられている弟の言葉に、ファルナはどうにかできないかと考える。

「そうだ!話してあげるさ。兄さんが、外のこと。出るのは無理だけど、話を聞くのならいいからさ。」

「ほんと!?」

「もちろん」

嬉しさに声を震わせ、ラグナが満面の笑みで聞き返す。それを力強く肯定して、笑ってやる。

目をキラキラと輝かせるラグナのために、次の日からファルナは様々な英雄譚、偉人伝、歴史書物を読み漁った。

皇城にはない本を街で探し、毎日読み聞かせた。

この国には、英雄譚が溢れている。心踊り、血沸き肉踊る英雄譚が、心が滾る物語が溢れている。

毎日聞かせてもなくならないくらいに溢れている。

ラグナは外の世界を夢見る心をここで埋めて、ファルナはその日の疲れをラグナの笑顔で癒した。


「ねぇ、この前話してた精霊大戦ってなんなのですか?」

「大きな戦いのことらしいよ。」


「大罪囚って?」

「とっても強い悪い人達さ。」


「精霊って?」

「力を貸してくれる存在。」


尽きることのない興味が質問に、尽きることのない知識が答えに、できすぎているファルナという子供は、この場でだけ無邪気に笑っている。

その時、控えめなノックの音が、2人の逢瀬に水を差した。

不安げなラグナに大丈夫、といって、自室のドアをあける。

目の前にいたのは、ファルナ専属の執事だった。

「顕現魔法の式典の打ち合わせを行いたいのですが、よろしいですか?」

「もちろん。お父様は?」

「3日前から帰っておりません。」

不安そうに聞いたファルナに苦渋の表情を浮かべた執事が答える。

アルナが街に行き帰ってこないことはよくある。しかし、この時期はファルナの顕現魔法を民衆に披露する儀式がある大切な時期だ。

皇がいない状況は異常なのだ。

「わかりました。少し待っていてください、準備します。」


ーーーーー


「ファルナ様に現れた顕現魔法は槍、名はエトラン・レーフ。」

「槍か。」

「いい名だ。」

「素晴らしい。」

皆が賞賛の言葉を並べ、祝福する。

段取りを決めていく会議中、ラグナのことが気になり集中できない。

胸騒ぎがして、何かが起こっている気がする。


「ファルナ様っ!!」


大声を出して飛び込んできた従者が、それを証明してくれた。

明日から旅行に行ってきます。予約投稿してるのでちゃんとアップされます。

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