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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第1章【その最弱は試練を始める】
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5.【圧倒的恐怖】

ズキズキと痛む頰に手をやり、まだ生きている事に驚いた。

あの冷たい殺意と、鉄拳は、自分を殺しても何ら不思議ではなかった。

流れ出す血液が、べっとりと頰に張り付いていた。固まった血の不快感、けられた頰の鈍痛。確保できない視界と、冷たい空気。考えられるのは、監禁だろうか。

「起きたか。」

奥から聞こえたその声は、先ほどの男で間違いなかった。自分で結界を飛び出して。湧き上がってくるのは、罪悪感と、あの男への恐怖。

「頭が冷えたようで良かった。」

「・・・・・・。」

「どうかしたか?」

首をかしげる男。自分から見れば、相手の輪郭を捉えるのがやっとだというのに、彼は抱いた疑問を細かい表情で見抜いた。凄まじい洞察力。膠着状態を脱するため、隠しても無駄だと悟り、疑問を伝える。

「殺さないのか?」

「ほう。」

「あんだけ殺意剥き出しで喰らい付いてきたのに、監禁なのか。」

「上から、圧力が来た。」

思ったより簡単に答えたのと、この男の上に誰か居るというのが驚きだった。あの男は、国を恨んでいた。俺と同じ、強くなろうとしない怠慢。つまり、この男の上という事は、この男より強いということだ。竜をも下した竜伐に、傷を負わず勝利した戦闘力。そして、それを超える親玉。ただでさえこの男を『倒す』ことができないのにも関わらず、そんな化け物がいれば、この森で自分は沈む。

「く・・・」

この男を、この森で『倒す』ことは、絶対にない。そして、垣間見える強大な戦力。

「圧力っていうのは・・・?」

「お前は貴重だから殺すな。それだけだ。」

貴重。その言葉が、やけに気になった。ただ、今そんな事に思考を割いている暇はない。

今の言葉で確信に変わった。殺すなと言われたなら、どうして監禁した。こんな面倒をするならば、捨て置けば楽なはずだ。

「どうして・・・監禁している。」

「・・・・・・」

恐る恐る、声を震わせながら問いかけた。自分の分かっていて、わかりたくない可能性を否定して欲しくて。このまま、穏便にすませたくて、

「ああ」

納得したように頷き、男が笑う。

「そんなことか。」

「・・・・・・」


「貴重だから拷問、いや矯正するのさ」


「・・・は」


「敵意を忠誠心に。」


一瞬で、脳を警鐘が駆け巡った。体が震え、歯が噛み合わない。

簡単なことだった。そのまま離して復讐なんてされれば、この男も困るだろう。だから、改変するのだ。矯正するのだ。ぶち殺すという醜い殺意を、創り上げられた、いかれた忠誠心に。

ーーーやばい、やばい、やばい。

「きょ、矯正!?」

「ああ。」

取り乱し、震える声で問いかけた。聞き違いだとか、幻聴だとか、甘い感情を持って。それを、いとも簡単に、冷淡に、ぶち壊した。何をされる。急速に目眩を感じ、指先の感覚が麻痺し始めた。

爪を剥がされる?痛みに絶叫し、滂沱する自分を押さえつけ、ひたすら爪を抉り取られる?

窒息させられる?酸素の無さに足掻き、水中で無呼吸の地獄を延々と見せられる?

指を切られる?溢れ出す血液に見向きもせず、涙の枯れるまで痛覚の限界を刻まれる?

この時だけは、自分の想像力が嫌になった。数秒で最悪の未来を導きだし、それを脳内で再生する想像力に。

「なに、そんなにビビるな」

ビビるな?無理だ。こんな時に冷静な奴なんて、もはや狂っている。人間の感情は、いつも正常から始まる。産まれたばかりの赤子は、純白の心を持つように。怖いものを怖いと思えないのは、精神が壊れている証なのだ。

「貴重な存在。ツキっていうんだがな。お前はそれだ。」

「ツ、ツキ?」

「ああ。だからお前は生かされている。」

生かされている。その言葉で、自身の命がこの男の手のひらの上にあると再確認した。

いつ殺されるか分からない恐怖と、いつ始まるか分からない拷問の2つに精神が揺さぶられ、摩擦してゆく。

「まあ、雑談はこれくらいにして、始めようか。」

「い、いや、ま、待てよ」

震える役に立たない足を叱咤して、どうにかしようと一歩踏み出した。バカでアホな危機管理能力と、ミジンコの心臓が、その最悪とも言える決断をさせた。

「動いていいなんて、俺は言ったか?」

パンッという破裂音が鼓膜に届き、硬い感覚が肩を押した。バキバキという振動に、遅れて膨大な空気の圧力が右肩から俺の体を石壁に叩き付けた。打撃に壁がひび割れて、石の刃が血を浴びる。

痛み、ではない。目で追うことすら敵わぬ指弾の威力に、圧倒され、恐怖した。

ーーー何て恵まれていない異世界召喚なのだ。


「やっと見つけた。」


金麗の声音が、重い空気を霧散させた気がした。


やっと1章が本格的に、始まります。次回もよろしくお願いします。

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