表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
58/252

56.【バットエンド?】

すいませんめっちゃ短いです。

ヤバイ。

たった1つその言葉が脳でこだましていた。

思考を埋め尽くすボキャブラリーのなさを感じる単語。それが、今は不安を和らげる唯一のはけ口。

砲弾のように走るアワリティアを目前に構えた、最弱の最後の言葉。

「させないっ!」

アキトを刺すはずだった黒刀が、リデアの金の魔力に阻まれる。

心強い助っ人の復活に頰を緩ませ、手にしていた最強クラスの武器を投げる。

エトラン・レーフを受け取ったリデアが金の刃をアキトに投げ、交換した武器を確かめる。

アキトが持っていたら豚に真珠状態だったエトラン・レーフをリデアが使えば、鬼に金棒、ガン◯ムにビームサー◯ルだ。

皇槍の感触を確かめるリデアが頷いて、握った『力』をしっかり構える。

「ちっ。まだどんな能力かも分かってないのに。」

苦渋の表情のアワリティアが見るのは、片手剣を握る最弱の少年。勝手な都合で能力を得ていないアキトから能力を探しても、見つかるわけがない。

剣の感覚に笑い、アキトが思い出す。1周目の討伐戦を。

黄金の刀身が煌めいて、照らす大魔石が勝利を示した。それは、今回とは違う。

今回は、その黄金の刃が勝利を示してくれるはずだ。リデアという希望の刃が、黄金とともに示してくれるはずだ。

「アキトは自分を守ってて!」

力強く言葉を残し、隠しきれない慈愛を贈り、滾る闘志を刃に乗せて、踏み込む地面のひしゃげる音にエトラン・レーフの魔力の音が重なった。

「頼んだ!」

足手まといの最弱がどき、竜を下した強者が走る。

舞う土埃を背後に背負い、風を斬る瞬足が黒刀の残像を見せる。

鳴り響く金属音の旋律が耳朶を打ち、少女と大罪の接触を知らせてくれる。

舞い落ちる土煙に巻かれる2人はアキトからは見えない。しかし、翡翠の魔力と黒の剣劇が、激戦をしっかりとアキトに知らせてくれる。

「それにしても竜伐」

「なによっ!」

最大限の威力で振り下ろされた魔力の奔流を避けて、量産される土埃を払い、笑うアワリティアに言葉を返す。

温厚な声とは裏腹に、強欲の長刀はリデアの命の脈動を絶とうと鋭く打ち込まれる。

首筋を掠める刃に旋律し、土埃に魔力をぶつける。

「月と絡むなんてどういう風の吹きまわしだ?」

「ツキ?アキトが?」

アワリティアの突拍子もない発言に聞き返し、皇槍を振りかぶる。

「あいつは月だ。言動でわかるだろう?」

「バカねっ!」

翡翠の殺意が粉塵を蹂躙し、アワリティアの頰を掠める。それすらも、アワリティアの考える戦略。

振り切ったリデアの無防備な首に黒刀を突き立てる。

周囲に撒き散らされたのは、リデアの真紅の血ではない。魔力刃同士が織りなす火花。

噴煙の中を照らした火花は、リデアが盾がわりに実体化させた魔力片だ。

「ケルトを、知っているだろう?」

「だからなによっ」

「やつの魔力を、私は持っている。」

「ぁ」

嘘のように真っ二つに叩き割られたリデアの肢体が、死体となって投げ捨てられる。

脈打つ血液が行き場をなくし、樹林を紅く染め上げていく。

「ケルトの風魔力。強いだろう?」

滴るクリファリカの血を指ですくい取り、アワリティアが微笑んだ。

残虐的で、嗜虐的で、被虐的で、

冷酷な瞳が、アキトを射抜いた。

しかし、アキトの意識はそこにない。今は、

「お・・・い。待てよ・・・待ってくれ・・・まだ」

まだ、しっかりと償いをしていない。この世界では償う必要はないけれど、アキトの知っている世界で、アキトは償わなければならないのに、死んでしまっては償えない。

無駄だと、脳の奥で、胸の奥で、精神の深淵で、いやというほど理解している。理解したくないのに理解している。

もう、助けられないと。

「まて、まて・・・まだ、なんとか」

血溜まりの血をかき集め、リデアの断面から溢れ出る血液を止めようと必死で抑える。けれど、血は集まりないし止まらない。

「っ!」

目尻の涙を振り払い、その場で蹲る。

脳が理解していた。精神が理解していた。身体だけが理解していなかった、理解したくなかった、認めたくなかったから。

けれど、もう理解してしまった。

どれだけ足掻こうと、どれだけ嘆こうと、もうどうすることもできない。

目の前で弾け飛んだ擬似のエトラン・レーフ。それは、彼女の命が完全に潰えた事を示していた。

背後で魔力が輝いて、焼き付けられる殺意の奔流が叩きつけられた。

「死ね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ