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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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55.【風刃乱舞を死と共に】

「あ、アキト!?」

「ったく危ねえな。」

アワリティアの長刀から2回も自分を守った少年がいるのを見て、リデアは己の目を疑った。

なんの能力も、魔力も宿していない少年が、この圧倒的恐怖に立ち向かっていたのだ。

どこか危うい少年の心。それは、今に限っては役立っている。

「出てきてしまったのね。せっかく隠れていたのに。」

魔力の残滓を視界の端に捉え、虹の輝きに目を細める。

アワリティアは、アキトがリデアを回復させる作戦を実行した時から、アキトが隠れている事を知っていたらしい。

痛覚が恐怖に薄れそうになる意識を繋ぎ、抱えた少女の命の脈動が安心させてくれる。

失わずに済んだ、と。

「月の肩書きを持ってる大罪囚。」

「ええそう。私がアカネ・アワリティア。あなたと()()()()よ。」

「お前と同じなんてゾッとするな。」

崩れそうになる強がりの仮面を保つため、アワリティアの言葉に挑発で返す。

本来異世界召喚されたもの達はこんな思いをしていたのかと思いつつ、自分の遭遇した異世界召喚の理不尽さにため息をつく。

自分が弱いのは分かっている。能力がないのも100歩譲って許す。しかし、能力がないのに殺される理由だけを持っているというのは堪え難いものがある。

力をもらえないのですら酷いというものだ。アキトが読んでいたラノベにも、主人公が弱いものはあった。しかし、能力がないのは無い。

だから、この圧倒的恐怖を前にして、

「逃げないの?」

問われた言葉に返す。

「俺にとってお前は、絶対に敵わない相手じゃない。」

そう。アキトにとって、アワリティアは絶対に敵わないわけじゃない。

1度なら、アキトはアワリティアを倒している。どんな偶然だろうと、アキトはアワリティアを倒している。

だから、アキトでもアワリティアは倒せる。

「逃げるような相手じゃねぇ。」

正直逃げたい。許されるのなら、アキトの残っていた正常な心が許してくれるのなら、逃げ出してしまいたい。

醜く泣き喚いて逃げてしまいたい。

この最悪な運命から、尻尾を巻いて逃げてしまいたい。けれど、最良の運命は、最弱の本能は、最低の贖罪は、アキトに逃げることなど許さない。許すはずがない。

逃げられるとしたら、それは死んでこの世界から逃走ルートバットエンドのみだ。

「面白いわ。少しは楽しませてね?」

無邪気な心を装った、無邪気な殺意が顔を出し、構える黒刀が光り輝く。

触れるだけで弾け飛んでしまいそうな魔力が練られたその刀が、自身を殺すために振るわれる。

震える両手で少女を下ろし、笑う両膝を落とす。

「リデア、借りるぜ。」

転がっていた宝具の再現を手に取り、持ち主に一応聞いた。

「っ、戦うつもり?」

当然。帰ってくるのは引き止める美しい声。驚愕を孕んだ声音が、アキトの耳朶を叩く。

やめてほしい。そんなに戦うなという選択肢を迫られたら、間違って従ってしまいそうになる。引き止める声に従ってしまいそうになる。

燃えていない闘志に苦笑して、明らかに万全ではない体に不安が募る。

瞳を瞑り、視界と一緒に弱音もシャットアウトする。

「来いや、アワリティア!」

見よう見まねの槍の構えを取り、揺れるアワリティアが眼前へと現れる。

「っわ!!」

平均ちょっと上の反射神経が唸り、ふるったエトラン・レーフが爆炎をふく。

轟音の反動に吹き飛び、土の味を噛みしめるアキト。結果的に攻撃、撤退ができた。

無論、竜伐の少女の与えることのできなかったダメージをアキトが与えられるわけがなく、無傷の大罪囚が噴煙をかき分けて進む。

「大声で叫んだ割には戦力が見合ってないけど?」

「うっせえ!」

エトラン・レーフを振るい、地面を抉る翡翠の爆風で飛翔する。

それを確認したアワリティアがすぐさま迎撃体勢に入り、漆黒が死の刃を光らせる。

そのクリファリカに撃ち落とされる前に、更に空気を爆裂させてアワリティアへと加速する。構える槍を突きの姿勢に、風刃の魔を解き放つ。

クリファリカの刀身でそれを受け流し、地面に激突するアキトから魔力が吹き荒れる。

エトラン・レーフから放たれた刃はアワリティアに当たらずに、樹木を削るだけで終わる。

それを見届けたアワリティアが、アキトの頭蓋を踏み砕こうと振り向いた時、激痛に喘ぐはずのアキトが皇槍を振り上げた。

「お前っ」

「防ぐのかよっ!」

反動によろめくアキトが咄嗟にクリファリカを蹴って後退。飛ぶ風刃をクリファリカが吸収する。

緑の刃を取り込んだ大罪の悪魔は、風系統の魔力を刃として顕現させる。

奇襲で相手に攻撃手段を与えてしまったアキトと、最弱のはずの男が立ったことに目を剥くアワリティア。

硬直するアワリティアを、都合がいいと風刃の餌食に、

「クリファリカ」

ゴウッと暴風が吹き荒れる。飛来する刃が防がれる。

余裕のあったアワリティアの瞳に、今はもう余裕がない。手加減という余裕が。

「そうか。お前がミカミの・・・。」

なにかをつぶやくアワリティア。溢れ出る覇気は先ほどとは段違い。

「本気でやらなければな。」


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