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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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51.【哀れな最弱の懇願】

「嘘、だろ・・・?」

息を切らしてたどり着き、揺れる世界で絶望した。

それは、変わり果てたカーミフス村を見たから。巨大な穴が所々に見られる変わり果てたその村を、見てしまったから。

絶句した。

アキトがレリィと約束して、リデアに謝罪して、作戦を練って、休息をとる。そんな時間があるくらいに、陥没まで時間があったはずだ。

そして、先ほどのグレンの動きで気付いてしまった。その世界との齟齬を。

アキトはアワリティアに発見されていない。襲われていないのだ。

だから、リデアはすんなり村に着き、アワリティアはリデアにばれずに計画を進行させる事が出来た。

そして、アキトがアワリティアに勝てた偶然の1つ。グレンとアワリティアの交戦が、今回は起こっていない。

命令が取り消されたグレンは、アキトにもアワリティアにも接触していないはずだ。

つまり、アワリティアは万全の状態でリデアと闘う事になる。

そう、起こるはずのイベントがスルーされ、レリィを救えず、リデアを生かせず、村を守れない。

最悪の状況を、アキトは作り出してしまった。

「はっツリーハウス!」

レリィを救い出すために、あのツリーハウスへと駆け出す。

大地が揺れ、地面が砕け、震える足に恐怖の波を伝える。

それは、レリィがもしも死んでいたらという不安、リデアが死んでいたらという悲壮。

瓦解する地面を飛び越え、緑の世界を疾走する。

恐怖にかられ、焦燥感に照らされ、揺れる世界に嘲笑われる。

「レリィ!」

落下してくる大木を避け、水色の少女に叫ぶ。

その少女は、もう諦めたような。都合がいいとでもいうように、全ての感情の上に、安堵の笑顔を貼り付けていた。

それは、今死んでもいいという表情に見えて、

「づっ!」

突き刺さる樹木、ひび割れていく地面、瓦解する大地。

そこに、真紅の少女の姿はない。

命からがら、アキトが救った。間一髪のタイミングで。

「あ・・・なたは・・・」

「そんな事はどうでもいい!早く逃げ、」

「どうして」

小さいけれど力強い意思が乗った問いかけに、喉がつまり、何も言えなくなる。

瞳に涙をためて、潤んだ声で嘆く。その潤んだ声は、悲しんでいる。

全ての感情がぐちゃぐちゃになり、溢れ出しそうな全てをなかった事にする死から、どうして救ったのかと。

「私があのまま死ねば、楽だったのに。」

「なに・・・を」

「いま助けられるなんて、酷い」

嗚咽交じりの声に涙が滲み、少女の言葉が耳朶を叩く。

その声は、そのままアキトの心を刺して、引き裂いて、蝕んでいく。生きていく喜びを知った少女が、再び嘆いているのに

ーーー死んだ方がマシだった?

その嘆きに感化されてしまった。その嘆きに納得してしまった。その嘆きを、その呟きを、その心情を。

分かってしまった。

声を荒げて反論し、お前は生きないといけないと、お前は必要だと、訴えかけなければならないのに、

分かってもらえなくても、叫ばないといけないのに、

光る銀閃が軌道を描き、真紅の色味が装飾する。

首を掻き切ったレリィの体が、アキトに寄りかかっていた。

「お前、なにを・・・、レリィ!お、い」

どれだけ叫んでも、少女の体に暖かさはない。

伝わってくるのは、いつもの暖かい声ではない、悲痛の声。

伝わってくるはずの血流は、だくだくと首から流れ落ちる。

簡単な事。

絶望した心が、銀の刃で首を掻き切っただけ。

レリィの命を、掻き切っただけ。

死んでしまったレリィへの怒りも、もう交わせない言葉の暖かさも、ぽっかりと空いてしまった心の穴も、全ては消えて、無があった。

憤怒も、悲しみも、喪失感も、なにも考えられない。考えたくない。その感情に支配された。

落下してきた大木が、生きようとする意思をなくした左腕を押しつぶした。

痛みを伝えるはずの神経が機能せず、もういっそ、この心を激痛で満たしてほしい。

それで少しでも気がまぎれるのなら、死んでもいい。

レリィが消えてしまった世界に、アキトの生きる理由はないに等しい。

けれど、不思議と死んではならない気がした。

冷たくなってしまったレリィの体を持ち上げる。

冷酷な瞳が最後だった。

満面の笑みを、もう一度瞳に焼き付けて、忘れないように刻み込みたかった。

軽い。

どうしようもないほどに、血の抜け落ちた体は軽かった。

レリィの命を奪った銀の鋼が、感じられる唯一の重みで、それが無性に腹が立つ。

轟音が走り、悲鳴が響く森を、歩き始める。

人が倒れている。

血が湧き出している。

茶髪の少年が、大樹の重みと地面の硬さに挟まれ、潰れていた。

それは、何かを守ろうとしているような瞳で、何かを掴もうとしていた瞳で。

白い髪を捉えた瞬間、アキトは走り出す。軽くなったレリィを抱いて。

死んでしまった少女を抱いて。

虚ろな目をした白い少女に、手を伸ばす。

待ってくれと、止まってくれと。

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