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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
52/252

50.番外編【その最強は世界を歩む】

微エロ注意。(1ミリ位)

燃えている。

「あ・・・な・・・たは」

燃やしたのだ。顕現させた炎で、いとも容易く。簡単に。

周囲に魔力を散りばめ、収束させる力で無数の刃を作る。金色の刃が一斉に落下し、人間だったものに死の鉄槌を下す。

そして、その死体を突き落とす。空いた大穴に、突き落とす。

木の葉とともに落下する女は、底にあった大魔石に腹を貫かれる。

「ひぃっ!」

汚い液体で地面を濡らす小太りの男は、陥没した地面を見て笑っていた時が嘘のように縮こまり、震えている。

アキトがそれを見れば、後ずさり、立ち上がって逃げようとする。しかし、生命的に勝てない相手に、自分の脚はしっかりと機能しない。

「お前に特に恨みはないけど、少し試したい事があるからさ・・・」

ポワリと魔方陣が浮かび上がる。

そして、その魔方陣がアキトの掌に重なる。

「や、やめ、て、くださ」

全てを言い切る間も無く、魔方陣から射出された水色の魔力が、男の頭蓋を砕いた。

「上出来だ。」


ーーーーー


木々が所々なぎ倒され、中央部から出口にかけて、巨大な穴が大きく口を開けていた。

無事な木々たちも大半は燃えており、大地に刻まれた傷は恐ろしいほど大きい。

この悲惨な樹林の名前は、カーミフス大樹林。



この悲惨な世界の名前は、影の世界。

アケディア・ルーレサイトが保持する、闇と混沌の世界。


ーーーーー


「ふーん。生存者はゼロか。カーミフス村も無くなったし、そこに隠れてるのは誰だい?」

アキトがゆっくりと振り向く。

明確な殺意を宿した目で、草むらを覗く。

刹那。大質量の拳がアキトの体めがけて振り払われる。

「珍しい。」

面白そうな能力に少し驚き、巨大な拳に脚力の限界を超えた蹴りを叩き込む。

蹴りを受けた拳が小さく凹み、そこから円のようにバラバラにちぎれていく。鎖が、ちぎれていく。

巨大な拳だった鎖がバラバラになり、単体の鎖になる。そんな鎖が何十本もある。が、その鎖は男の袖へと収納される。

ラグナへと、収納される。

「ねぇ、俺の仲間になってくれよ。その力もっと見てみたい。」

目を見開いてアキトが尋ねる。

ラグナの答えは、飛来する鎖だった。

「残念。」

空を駆ける最速が、世界を照らす。そして、爆音と疾風を巻き起こし、ラグナを焼く。

ラグナとて、生への執着がなかったわけではない。しかし、その圧倒的な力の前には、なすすべもない。

落雷が頭蓋を砕き、耳鳴りとともに思考が消滅。点滅する光が死の衝撃を焼き付ける。

焼き付ける脳なんて、もうないけれど。

「さて、どうするかな。」

アキトに今、生きていく上で必要なことは何もない。

マナで肉体を補えば、食事は必要ない。同じく眠らなくてもいいし、もとより性欲は抜け落ちている。

やるならば、楽しい事をしよう。

さっき殺したアワリティアと同じ、大罪囚を殺そう。全員、殺してみよう。

「目標は決定だな。」

どこにいるかわからない奴らは後でいい。バルバロスにいる奴らと戦おう。天上の星紋を外して、戦おう。

傲慢、嫉妬、怠惰。大罪囚以外にも、極悪人がいるはずだ。バルバロスは、そういうところだから。

瞳の奥に期待と闘志をみなぎらせ、アキトがゆっくり歩み出す。

世界の再奥。バルバロスへと、アキトは歩みを進める。


ーーーーー


瘴気が漂い視界が淀む。

闇に支配されたバルバロスへの入り口には、地獄絵図が広がっていた。

魔獣が魔獣を食い荒らし、得体の知れない人影が飛び回っている。気味の悪い光景にうっすらと笑い、バルバロスへの大穴へと


落ちた。


壁が上がっていく。

落下する体が風に打たれ、視界が黒く染まる感覚がアキトを襲った。

内臓が引き締まり、浮遊感に嘔吐感が込み上げる。そして、何よりも、強者の気配。

「楽しませてくれよ。バルバロス!」

鋼鉄の床に激突する。

噴煙を巻き上げ、ひしゃげた床に血溜まりが広がった。

不愉快な血の感触と、醜く呻く足下の男に嫌悪を抱き、化け物のの脚力で頭蓋を踏み潰す。

脳髄が赤くぶちまけられ、周りの気配が動いた事を察した。殺意が叩きつけられている。

「くはは。ははははっ!」

魔方陣の光をその手に乗せて、輝く光が漆黒の中で乱舞する。

灼熱の竜巻を拳で打ち消し、巻き起こる轟音と疾風より速く。アキトの輝きが顔面を貫く。

魔方陣から放出されるアワリティアの魔力が脳を蹂躙し、悶え苦しむ男が動かなくなる。

「おい。何をしている。」

辺りで状況を見ていた連中に、ドスのきいた声が叱咤した。のっそりと現れた男の身長は、2メートルを優に越し、アキトでは見上げないと顔が見えない。

溢れる殺意とその風格に、圧倒的な強さを感じ、ここのボスがこいつだと直感した。

「カガミ・アキトだ。」

「カルバラ・グリフィルト。」

ただ名乗るだけ。それでいい。

この戦いに言葉はいらない。

強者と強者が拳を交え、刃を打ち合う。それだけ。だから、それ以上に言葉はいらない。

ニヤリとアキトが微笑んだ。刹那。ひしゃげる地面と搔き消えるカルバラが、アキトの眼前へと現れた。

反応することすら困難な速さになんとか追いつき、細い腕をカルバラの拳に重ねる。無論。

「づっ痛え」

ぐちゃぐちゃにへし折られた両手から血液が溢れる。白い骨が突き出る。

痛覚が思考を叩き、正常な精神を蝕む。しかし、アキトに関してそれは問題じゃない。

もう彼の精神は、蝕まれている。

正常でない。異常な心に。

盛大な笑い声を上げ、血塗れの腕を振り上げる。ひしゃげた拳に魔方陣が重なり・・・

「なぜっ!?」

痛覚を断ち切った最強の拳撃が、カルバラの頰をぶち抜いていた。

青い魔力をまとったその拳が、白煙と血を吹き、カルバラが折れた奥歯を吐き出す。

アキトは両腕を治す事なく、さらにもう片方の腕にも魔方陣を重ねる。

暗闇で二対の魔方陣が灯火となる。

「っははははは」

眼下に広がった魔方陣から力が溢れ、アキトが高速で射出される。

青の魔力を纏う拳が漆黒を照らし、満面の笑みで闘うカルバラを見せた。

楽しいのは2人とも同じ。

しかし、その代償は必要だ。

「そろそろ、おしまいだ。」

先ほどの動きが遅く見えるくらいに俊敏に動くアキトの拳が、カルバラの腹を撃ち抜いた。

バキンと拳では作れないような音を作り、ただの肉塊と化したカルバラを真紅の液体で彩った。

跡形もなく消えたカルバラを眺め、

「っと。もっと、強くならなくちゃ。」

瞳に宿した狂気のままに、地面を貫く。

今日、その日をもって。バルバロスの囚人は、皆が死ぬことになる。

スペルビアを除いては。


ーーーーー

バルバロスに収容されていたもの達。

それは、殺しきるのが無理であったり、視界に収めるだけでも危険な者だったりのため、放置状態となっている者たち。

それを根絶やしにしてしまった。たった1日足らずで。

そんな信じられないニュースがファルナに届くのは、この事件の翌日だった。

その少年に当てられてか、スペルビアさえもが暴れ始めた世界で、ファルナは槍を手にとって、対抗すべく立ち上がる。

「ウルガ、竜伐を招集してくれ。」

「分かりました。」

書斎の扉をゆっくりと開け、最高級の絨毯が敷かれた廊下を歩き出す。

天変地異が各地で起こっている今の状況で、ファルナが立ち上がらなければ、正しい人間は誰も生き残れない。

その仕事に携われるのは、ウルガにとって誇り高く、素晴らしいことだった。

だから、油断した。

自身の首を嘘のように突く金属。黒い影が、肩を揺らしている。笑っている。

ウルガが倒れる皇城の3階。それと同等の高さの時計塔で。その時計塔からここまで、どれほど距離があっただろうか。

それを、アキトは寸分違わずウルガの首を貫くようにナイフを投擲した。

銀色に輝く、森で拾ったナイフを。

「そ・・・んな・・・」

圧倒的な射撃精度、視力、筋力。

そんな領域で説明できない事が、平然と起こった。

黒い髪を揺らす男はきっと、バルバロスを壊滅させた男。

スペルビアには敵わなかったが、大罪を2人は殺した男。

銀色のナイフに塗ってあったのだろうか。体からどんどん力が抜けていき、痛覚も、触覚も、味覚も、聴覚も、嗅覚も無くなっていく。

貫かれた首の痛みと、

ダイレクトに伝わってくる地面の最高級の感触と、

口の中で荒れ狂う血液と、

自分の嗚咽と、

むせ返るような濃い血の匂いと。

消えていく。自分が生きていると言える証が、視覚からの情報しかない。

自分が、死んでいくのがわかる。何も感覚がないから、冷静に死を見ている自分がいる。

それが、気持ち悪い。

嫌悪感が湧き上がり、恐怖心が掻き立てられる。

そして、ゆっくりとまぶたを閉じた時。

死んだ。


ーーーーー


興都が、燃えている。

大地の亀裂を灼熱が走り、業火が街を焼いていく。

焼きただれていく人々。破裂するガラス。全ての音が遠く、全ての景色が遠い。皇の見る世界は全てが遠い。

皇城からその景色を呆然と眺める。心を満たしているのは大きな疑問。

どうしてあの部下が死ななければならなかったのか。どうして民が苦しまなければならないのか。

気付いた時、ファルナに右腕は無かった。

さっきまでの炎舞の世界が、いまは極寒の氷河期に入っている。

全てが凍てつき、凍り、不協和音を奏でる。固まってしまった氷像たちがひび割れて、痛みを忘れて死んでいく。

自分もそれを辿るのだろうと考えて、

「あんたは死なせないぜ。」

凶悪な笑みを浮かべた男が、紫紺の液体をぶつけた。

ひび割れた体が戻り、生命活動を始める。

命の脈動の復活に、歓喜する。死をわすれて、せかいのごうかをわすれて、いてついたきおくをわすれて。


ーーーーー


再建した皇城からの眺めに、ファルナは小さく息を吐く。

他国の住民を拉致して、傷跡を隠すように住まわせる。歪な思考が興国を作り、存続させる。

裏で国を操る男は、今何をしているだろうか。

そう考えてウドガラドの皇は笑う。嗤う。

そんな事はどうでもいいと。取り繕った皇城と国で、ファルナがわらう。

「完全に狂っちまったな。」

扉に背を預け、観察するアキト。それに気付かぬファルナは、精神が壊れている。

アキトの手によって、壊れている。

「ああ全く。どうして人間はこんなに、面白いんだ。」

楽しげな表情で、アキトは書斎を後にする。

向かう先は、新しい所。

歩く中で思い出す。

バルバロスを滅ぼして、大罪囚を全て倒した。

月の連中を片付けて、大した感慨もなく立ち去った。

ウドガラドを手中に収め、もうやる事はない。ならば、

「待たせたなアケディア。」

「カガミさ・・・ま。」

恍惚の表情でアキトを眺める少女を撫で、混沌を眺める。

熱い吐息に答えるようにキスをして、侵入してくる舌を受け入れる。

これだけで命令に従うのだから、簡単だ。

絡めあった余韻を確かめるようにアケディアが吐息を漏らし、震えながら腰を下ろす。

「待っててくれよ。あっちの俺。」

期待に胸を高鳴らせ、漆黒に飛び込んだ。


そして物語は、あの世界へ。

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