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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
51/252

49.【深緑の森を疾走する】

100000文字を超えていた。(作品の総合文字数)

どこから話そうか。

これまでどうにか死線を越え、生きながらえて来たけれど、どうやら今回は抜け出す事が出来ないらしい。

白の少女の肩を抱き、己の体から少しだけ離す。

直後。背中を貫く鉛の鞭が、命を刈り取りに来た。

体を離していたため、シャリキアに鎖は届いていない。もちろん俺の体は耐えきれずに大量の血を流す。

その後の会話は、自我が薄かった。脳の中で響き続ける鋭い痛みに嗚咽を漏らし、血の混ざった唾液を飲み込んだ。

そんな中、あの少女は何かを言った。

なんて言っていたっけ?名前が、思い出せない。夢のようにおぼろげになっていく。

けれど、俺は全力で叫んだ。何かとんでもない事を言われたんだと思う。

絶対にダメだと、そんな事を叫んでいた気がする。叫んでいたけど、あれ、叫んでいたっけ?

叫んだはずだ。なんだっけ、白い髪の、記憶がこぼれ落ちていく。

背から流れ落ちる血と同化して、記憶がこぼれていく。

その後、その後。

ーーーーー


ラグナの中にあるシャリキアの記憶は、大きかった。だから、小さい記憶。

ラグナのアキトの記憶。アキトのラグナ、シャリキアの記憶。それを保管した。

回復のポーションを投げ、従う。



すでに消えたシャリキア達。起き上がるアキト。

横に落ちているポーション。色味的には桃色。回復ポーションをカーミフス村で見ていたため、アキトはそれを飲んだ。

「ん?なんでこんな傷。」

痛みのあまり飲んだ回復ポーションの空き瓶を横に置き、背中の傷に首を傾げる。

ぽっかりと空いてしまった記憶の盤面が、違和感の風を叩きつけてくる。

「なんでか時間が戻ってそれで・・・」

あったはずの記憶が、全くない。

強く心に刻み込み、絶対に超えると誓った記憶が、ごっそりと抜け落ちて、思い出せない。

眼球が捉えていた景色も、ぼやけて見えるわけではなく、全く見えない。過去の景色が、全く見えない。

「アワリティアが?あいつの力か?」

考えられる可能性。それは、アキトが打倒した強敵アワリティアの大罪の力なら、自身の死をなかったことにするくらい、できるかも知れない。

だってあんな少女が、あんな力を使えるのだから。と、考えたところで、アキトはそれがなんなのか思い出せない。

リデアは強力な魔法を使う。しかし、それよりもっとおぞましい能力を、アキトは知っている。

「?」

思い出せない記憶に苛立ち、小瓶を握りしめる。

握った小瓶には、スライムのようなドロドロとした感触があった。

「っ。なんだこれ」

ゴムのように伸縮し、強固な粘着性を持ち合わせているその歪な物質から慌てて手を離し、水滴の滴る瓶を投げ捨てる。

得体の知れないものを触りたくないのもあったが、アキトはこの2周目の世界でしなくてはならない事がある。

命を賭してま逃れたカーミフス大樹林の崩壊と、孤独の少女の救出。化け物の討伐に、大質量の暴力。

どれも全てが偶然交わっただけのことだったが、アキトはもう一度しなくてはならない。

不安や緊張はもちろんある。

しかし、そんな命の危険さえどうでもよくなるほどに、アキトはレリィの辛さと痛みを知っている。

1周目のカーミフス大樹林で、アキトは知ったはずだ。

殺された父親同然の男。それを殺したものに従う屈辱。

何があろうと、アキトは走らなければならない。救わなければならない。

何もかもが変わった2周目では、前と同じ軌跡をなぞれる可能性が低い。つまり、新しい作戦でいかなければならない。

「急がねえとっ!」

痛む体を叱咤して、鬱蒼とした緑を駆けていく。

目指すのは大石柱。アキトが監禁され、グレンを封じた場所。

この道しるべが何もない状況で、グレンに遭遇した時のことなど知らない。

グレンは月を殺せない。なら、逃げるところまで逃げて、またあの村を救えばいい。

視界が晴れる。光が差す。緑が揺れる。

白銀が、光る。

「ミカミ・アキトであってる?」

「・・・・・・。」

「怖い顔すんなよ。命令は取り消された。お前を襲うことはない。」

片手で遊ばせていた片手剣を鞘にしまい、両手を挙げて敵意がないことを示すグレン。

無論、グレンが知らない1周目で、アキトは斬られている。そう簡単には信じられない。

「まぁ、そうだよな。」

「用がないなら行かせてもらうが。」

敵意がないのは信じられない。しかし、敵意があるのも怪しい。

だから先を急ごうとしてそう言うと、グレンが頷いて剣に手を伸ばす。

とっさに身構える。そんな事をしたところでグレンに勝てる見込みなどないが、何もしないよりはマシだ。

が、そんな考えのアキトを斬るわけではなく、グレンは鞘ごと剣を投げ捨てた。

「これでいいか?」

「ああ。」

投げられた剣を見て、グレンが問う。

グレンならば、アキトが通る瞬間に剣を掴み取って喉笛を搔き切る事くらいはできたはずだ、しかし、グレンはそんな事をしないと、アキトの直感が伝えていた。

グレンの中に残っていた剣士の心が、アキトの直感に訴えかけていた。

次回。カガミ番外編。

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