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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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47.【ふたつの刃が交わる時】

いつもの感覚に身を委ね、力を引き出していた。

シャリキアの悲鳴がいつもより大きいことなど、全く気にならなかった。

弱者で敗者で世界の負け犬は、そんな強大な力を手に入れていた。だから、利用されるのだ。

腹が立つ。

少し優しくしてやれば、簡単に情報を語り出し、利用してくださいと言わんばかりに従順に従う。

その態度が嫌いで、弱者が嫌いだ。

狡猾で卑怯で矮小な、弱者が嫌いだ。

少し油断すれば反抗する中途半端な覚悟も、弱者らしくて大嫌いだ。

虚空保管庫から力を引き出す途中、シャリキアは引き出される力に攻撃の魔力を混ぜた。直接的なダメージを負う魔力を流したのだ、仲介するシャリキアの体も、相当な反動を受けただろう。

だから、流れでた魔力の奔流に、体は舞い、鮮血が塗られ、大樹がへし折られている。


ーーーーー


ラグナは、傷を負った素ぶりを見せず、ゆっくり立ち上がる。

シャリキアが逃げている間に、傷は完全に回復していた。

衣服にまとわりつく不愉快な鮮血は気になるが、肉体の動きには全く支障はない。

「さて、索敵くらいは出来るんだよ。顕現魔法『パーニッシュ』」

キリリ、という鎖の音が響き、顕現魔法『パーニッシュ』が顕現。

魔力を流して索敵を始める。

魔力の乱れで感じるのは、1人の男の力と、華奢な少女の肉体。

そして、急速にこちらに進んでくる、砲弾のような刃。

「っ!」

袖からパーニッシュが多数出現。たわむ鎖が絡まり合い、強固な鉄壁の盾を生み出していた。

鋼同士がぶつかり合い、耳朶を打つ甲高い音。

鋼同士の少しの拮抗は、数秒で過ぎ去り、破裂する盾の合間から、ラグナは化け物を見た。

剣を手に持つ化け物。

「グレンッ!!」

「ラグナか」

咆哮するラグナが、舞い落ちる鎖だったものを収束させ、袖の中に収める。

ほとんど間髪入れず、パーニッシュが再生成。大量の鎖が拳を形作り、大質量の暴力がグレンを襲った。

鎖同士が音をならし、分解した鎖がそれぞれグレンの肢体を刺しに迫る。

「パーニッシュ。懐かしいな。」

死の突撃が辺りを覆い、じゃらりと鎖が嘲笑の音を立てる。

銀閃が走る。

グレンを殺すはずだった鎖たちが、次々と弾かれラグナの方へと叩かれる。

自身に当たる鎖のみを一瞬で見切り、白銀の刺突と剣技で撃ち落とす。弾き返す。

鉛の拳を作っていた鎖が底をつき、袖の内へと刺突の鎖が戻っていく。その服の中で再結合し、長い鎖を量産。服の合間からパーニッシュを出すことにより闘うラグナの戦法は、最強の剣士には通じない。

「お前と闘うつもりはない。ただ、アキトという人物を殺さないでほしいだけだ。」

「貴様に闘う意思がなかろうと、俺にはある。」

「・・・」

グレンが瞠目する。

「お前、まだ『奴』に従っているのか・・・!?」

信じられないと言った様子で、目を剥くラグナ。

数年前の邂逅から、深く穿たれた隔たりは、そう簡単には埋まらない。埋めさせてはならない。

それぐらい、精霊王の存在は、大きく、この世界の核心に迫っているものなのだ。

「俺とシャーグリンの目的はたった1つ。世界について知ることだ。」

「・・・・・・。」

「282。奴は、知っている。この世界の正体を。」

息を吸い、グレンが目を開ける。その瞳には、強い意思が宿っている。

世界の謎を追い求めた男の行き着いた先は、皮肉にも相棒が持っていなかった戦闘能力が必要になる仕事だった。

今は亡き男に宣言するように。


「この世界が作られた目的を。」


まっすぐに世界の謎を見据える男の目を見ず、ラグナが怒りに歯を食い縛る。

奥歯が欠けるような力は、怒りが生み出すもので。

フラッシュバックする過去の出来事を不愉快そうに首を振り頭から追い出すラグナ。

「グレン絶対についていくんだな奴に。」

「ああ。」

そうか、と。

圧倒的な力に屈して従うラグナと、圧倒的な情報に屈して従うグレン。

世界の中心地の1つを潰すための刃と、世界理由を続けさせるための刃。

けっして相入れず、けっして交わることの無い剣は、実はしっかりと結ばれていて、それが歯痒い。

「パーニッシュ。」

「屈縮術。」

パーニッシュのたわむ力で跳躍するラグナと、屈縮術で空を駆けるグレン。

先に凶悪な刃を携えた鎖を生み出して、袖から放出する。手に取った刃の感覚に頷き、駆けるグレンの姿を捉える。

ラグナは大罪囚とも渡り合う事がある強者。カガミやイラ、スペルビアには及ばずとも、アワリティアほどなら組み伏せる事が出来る。

アケディアの好色刃をも躱す機動力と、射程や形状が分かりにくい武器と戦闘技法。

両手の刃を投擲。最大の力で射出された刃には、鎖の力も加わって見えないほどの速度がある。

だが、

「っ」

弾かれる。最強の剣士には、届かない。

鎖を手繰り寄せ、剣で受け止めている刃を横薙ぎに払い、戻ってくる鎖を袖にしまう。

鎖についていたナイフが全身を貫く痛みを、ラグナは忘れない。




一昨日第1章のキャラ紹介をあげたので昨日の更新はお休みでした。すみません。もしかしたら何かの特別な日に2話投稿とかするかもです。来年のゴールデンウィークは毎日2話やってみたなぁ。

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