表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
41/252

39.【長く続く告白の夜】


「なぁレリィ」

「なんですか?」


備え付けのテーブルと、付属している椅子。簡単ではあるがキッチンのような場所もある。さらに、2部屋、トイレ、風呂、リビング無しでも生活できるほどに、一部屋は広い。

つまり、


「これ、だいぶしたんじゃ?」

「はい。でも、アキトさんのためなら安い買い物ですよ?」

「そ、そうなの?」


レリィの交渉に応じて、アキトは同じ場所に住む事になった。

しかも、部屋代をレリィ持ちで。

そこまでしてもらったため、レリィの預かっているアキトへの報酬は、まだ受け取っていない。


「ここまでしてもらったんだ、俺にやってほしい事があったらなんでも言えよ。出来ない範囲でもやってやる。」

「本当ですか!?」


申し訳なく思い口にした苦し紛れの感謝を、レリィは目をキラキラさせて喜んだ。

そこまで喜ばれるとアキトが照れくさくなり、頭をかいて微笑する。これだけレリィが感情を表すようになり、アキトも喜ばしく思う事が増えている。

全く感情を表に出さなかったあの樹林と違い、レリィにも安らぎができたようで、

残っている少女の後悔を、腹立たしく思う。

根源をぶっ潰してやりたいほどに。

ちなみに根源はアキトである。アキトへ想いを伝えられなかったレリィは、密かに後悔を抱いていた。

それでも、いずれカーミフス大樹林でその後悔を消そう、と。しっかりと約束した。決して解けないように、固く。


「んじゃ、俺はそろそろ寝るけど、いいか?」

「はい。私もそろそろ寝ます。」


一応の部屋割りはしてあるため、夜遅くならないように就寝準備。

アキトの長い夜を、なかった物語を、語ろう。


ーーーーー


いつ作戦が決行され、興都が襲撃されるかわからない。万が一すぐに襲撃が来た場合、アキトはアミリスタと行動することになる。

レリィは安全な場所に匿って、アキトが命を張ればいい。


ーーー殺して・・・


心に直接語りかけた声。それは、アキトの最大の後悔が生み出す声で、ただの幻聴。なのにも関わらず、どうしてこんなにも心を掻き毟られるのだろう。

アワリティアから受けた魔力より、グレンから刻まれた剣閃より、どんな現実の痛みより、その声が、悲痛の表情が、痛い。

死んでしまうくらいに。

襲撃作戦が起こる事が決定し、シャリキアを助けるのが難しくなった。むしろ、助けられるはずが無い。

もう一度会う事さえ出来ないかもしれない。助けるなど、出来ない。諦められないけれど、諦めなければならない。

でも、諦めた世界を、アキトは悔やんでいる。こんなにも、悔やんでいる。


「どうすりゃ、いいんだよ。」


掠れそうな声が、息をついて出た。

現実を見たく無い。現実を知りたく無い。あの少女を助けたい。

自身の限界など考えず、付き従ってしまうのだ。従わなかった時の悲痛を、シャリキアは知っているから。

助けてほしいと伸ばした手を、途中で引っ込めてしまうような、優しくて、臆病な少女だから。

助けたい。

嗚咽が漏れる。涙が頬を伝い、ベットに落ちた。

また、アキトは閉じ込められた。

興都襲撃という巨大な壁に、シャリキアを利用するあの男の重りに、

どうして、涙がこぼれる。泣きたいのは、シャリキアの方だ。

来るかもわからない助けを求め、理不尽に叩き潰される。涙を流したいのは、シャリキアだ。

助けられない少女だけを思って滂沱するアキトごときに、感情を溶かす事は許されない。感情を溶かして、瞳から溢れさせる事は、許されない。

ベットから立ち上がる。

おぼつかない足取りで、涙をすすりながら歩む。

別に、何かがしたかったわけでは無い。隠していた感情の決壊に、少し参っただけで。

ガタリとドアを開け、


「ひゃっ!!」

「なっ!」


待ち構えていた水色の少女に息を漏らした。


「な、なんで」

「あ、い、いや水を飲もうと思いまして・・・。」


アキトの寝顔を見るか見ないかで葛藤して、部屋の前でアワアワしていたレリィは、苦し紛れの嘘を吐く。

この時だけは、アキトの鈍感さに助けられる。

しかし、


「あの、涙、」

「え、あ、ああ」

「・・・」


自分の頬を触り、雫のついた手を見つめる。

なんと言おうか、考える。この心優しい少女ならそう簡単に放してくれないだろう。


「なにか、あったんですね。私に分からない何かが。」


以外にも、レリィは強く理由を問い詰めなかった。

少しの驚きと一心の納得を得て、口を開く。


「たいした事じゃ、無いんだけど・・・」


声が、潤んでいる。まったく説得力が無い。何かがありましたと公言しているようなものだ。

けれど、そんな都合よく声音は変えられない。せいぜい某人気ネズミキャラクターのクオリティーが低いモノマネができるくらいだ。

場違いな現実逃避、


「アキトさん私を助けてくれた時、覚えてますか?」

「ぇ・・・?」


カーミフス大樹林で、


「私は何も言ってないのに、全部わかったように助けてくれて。」


レリィの事を、


「私は、アキトさんみたいに全部は分かりません。だから」


だから、


「言ってほしいです。」


助けてほしいって、とレリィは慈愛の瞳でいう。

アキトは、シャリキアに助けてと言えよ、と笑いかけた。それに追い詰められて、忘れていた。

この美しい少女の事を。

アキトも助けてと、そういえば、良かったのだ。


「助けて、ほしい。」


「私でよければ、いくらでも。」


「話すと、長くなる。」


「一晩中でも、一日中でも、いくらでも聞きます。」


「信じてもらえないかもしれない。」


「アキトさんのいう事を、信じないわけありません。」


自分にはもったいないくらいいい少女で、その暖かさに再び涙が溢れて来る。

長い、夜になる。アキトの後悔を打ち明けて、それを脱するために奮走する。長い夜に。


リビングのテーブルに腰掛け、


「あれは、興都行きの徒車の中から始まったんだ。」


たどたどしく長い夜を始めた。


次回で40回目です。本編では39です。本編が50回目とかに番外編でも書こうかと思っています。物語がひと段落してたら番外編を書きます。どうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ