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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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32.【手放したその心】

レリィがある確証を得たのは、アミリスタに繕ってもらった先程のデートの時だ。

細かいけれど、数を重ねたアプローチの数々は、アキトの鈍感さにひらりひらりとかわされた。

無論、時折見せるレリィの表情にアキトは見惚れる。しかし、変わってしまったアキトに細かな『感情』の変化は捉えられない。

レリィが葛藤するのにも気付かずに、アキトは目的の少女達を見つける。


「行こう、レリィ。」


サッとレリィの手を取り、アキトが小さい歩幅で走り出す。

その事に、大きな幸福感と恥ずかしさを覚えるレリィだが、そんな事にアキトは気付かない。


「悪いな、待たせたか。」

「大丈夫だよアッキー、レリィちゃんおいで?」

「はい」


小さく頷いたレリィが手招きするアミリスタのもとに向かい、微笑むリデアも引っ張られた。

残ったアキトとヴィネガルナの間に、重い沈黙が落ちる。

アキトが気にしている沈黙を全く気にせずに、ヴィネガルナは1人でいるかのように人の流れを見ている。

初対面では明るく振舞っていたが、今のヴィネガルナはクール、冷酷なイメージを見る者に与える。

伸ばそうとした手を引っ込めて、どうしようか葛藤するアキトに、ヴィネガルナが煩わしそうに声を投げた。


「何か伝えたい事でも?」


あくまで無関心を装っているヴィネガルナの声音は、他人が聞けばただそれだけだろう。しかし、アキトが今聞けばわかる。

無関心という感情を、憎悪に似た言葉に貼り付けているだけだと。

無造作な投げかけと打って変わって、その感情の隠し方は丁寧だ。


「いや、暇だから雑談でも・・・と思ったんだが」

「そうですか、ちょうどいいですね私も話したい事があります。」


驚いたように目を見開くアキトを視界から外し、ヴィネガルナが自身の髪を撫で付けた。


「『弱者は全力を賭し、強者は力と頭脳を持つ。それすら超越した者が、最強である。』私の尊敬する人の言葉。」


言葉に込められた意味がわからず、訝しげに眉をひそめる。

己のもてる力全てで敵を迎え撃ち、勝利を掴もうと駆ける弱者。

全力など出さずとも壁を打ち破るような強者。

そして、それを簡単に凌駕する最強。

もてる味方全てを使い潰し、どんなに汚い手だろうと使い勝利を掴もうと潜むアキトは、弱者でも強者でも、はたまた最強にも当てはまらない。当てはまる強さを持っていない。


「俺が弱い。そういう事か?」

「弱者という立ち位置にもいないという事。」

「そら、どういう・・・」


冷たい声が鋭利さを増し、隠れていた暗い感情が現れだした。


「どうしてそんな人間が、ツキであり、大罪囚であるアワリティアを倒せたのか。」


未だ、アキトはヴィネガルナの言っている事が分からない。

弱さを実感させたいのか、どんな方法を使ったのか問うているのか、分からない。


「お前は『何者』なのか、それが知りたいんだ。」


誰もアキトに問わず、誰も求めていなかった質問を、ヴィネガルナは投げかけた。

異世界から召喚された人間であり、月という肩書きを持っている。そして、狡猾な頭脳を持っている。

それをそっくりそのまま伝えても、何にもならない。グレン戦の二の舞だ。周りから狙われるのに、唯一のメリットである能力は持っていない。そんな人間なのだ。


「何者でもない。ただの人間だ。」

「・・・そんな人間が、どうして世界の厄災を下す事が出来た?」


カーミフス大樹林に置いてきたアキトの正常な心がアワリティア戦の時に残っていれば、怖い物を怖いと言える正常な心が残っていれば、アワリティアを撃破する事は出来なかった。

答える言葉を探し、


「そんな人間だから、倒せたんだ。」


胸を貫かれたアキトを撃破対象から外したのは、アワリティアがただの人間を倒す必要がないと判断したから。

アキトがただの人間だったから。


「お前は、どこかおかしい。」

「・・・」

「大罪囚を淘汰したという事実を知れ渡らせる訳でもなく、報酬を催促する事も無い。」


無欲さ以外にも、アワリティアというプレッシャーに正面から立ち向かう精神も、おかしいのだ。

アキトはおかしい。


「私は、お前が何かをしようとしているのではないかと、そう思う。」

「なにか?」

「ここで殺していいのなら殺しているぐらいに、私はお前を危険視している。それを努努忘れないでほしいと、そう言っている。」

「・・・・・・。」


言葉から溢れ出る殺意は本気なのにも関わらず、アキトは全く怯まない。

壊れた心は恐怖を判別出来ない。

それでもアキトを殺すかもしれないと言うのは本気で、何か怪しい動きをすれば斬られるだろう。アキトに斬る価値があるかは分からない。

しかし、停滞した会話に、アキトは容赦なく突っ込む。


「アワリティアと何かあったのか?」


考えられる可能性。アワリティアを倒したアキトを咎めるような言い方をしたから、そう問いかける。

3人の少女が、帰ってきた。

アキトの疑問は、答えてもらえない。今は、答えてもらえない。

カーミフス大樹林はまだ出てきます。

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