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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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31.【その死闘に終結を】

イラ・ダルカにとって、自分より強い相手は傲慢の大罪囚だけだった。

目前に現れる敵を全て薙ぎ倒し、襲いくる不幸に憤怒していた。その強い想いが、悪魔に取り憑かれる媒介となった。

大悪魔、堕天使のサタンは、イラを大罪囚にした。

それから、彼は退屈を知らなくなった。

大罪悪魔を見せつけて、少し殺戮を繰り返す。そうすれば、討伐隊が自分を倒しに来た。

そして、殺した。

それに憤怒した者達が、更に討伐隊を作った。憤怒の連鎖で自分達を滅ぼす人間達は、刃のような美しさを見せた。

憤怒は、美しい。


「おもしれぇ!!」


激闘に口角を歪め、乱暴に血を拭いた。

魔方陣がカガミの手中で光り、振るう軌道が閃光を作る。それは、最強の槍術であり、最強の刺突。

しかし、


「死烈ッ!!」


輝く真紅の剣尖が宙を滑り、壁を走るイラに攻撃が当たらない。

カガミが穴から打ち出されるイラを捉え、魔術の刃を穿とうとした時、カガミの放った魔力が縦穴の底に激突し、大地を揺らす振動が、手元をくるわせた。

土埃を斬る魔力光を見てニヤリと笑い、イラが空気をバーサークで叩いた。

膨張する熱量と、加速するイラに拳を掲げ、カガミが小さく呟いた。


「魔拳。」


煩わしく輝いていた魔方陣の消失に、イラは容赦なく鉄槌を叩き込む。真紅の刀身を加速させ、刃にのる重力の壁を叩きつけた。

腹を貫いた氷柱が、やけに輝いていた。


「ぇ?」


細い氷柱がカガミの拳から突き出て、イラの腹を突き破っていた。

嗚咽と血が混ざり合い、抵抗することなく唖然とする。そして、細い氷柱が輝いて、その根元から太い氷塊が更にイラの体を穿つ。

止まった氷塊が砕け散り、更に拳槌が死の裂傷を生み、またバラバラと砕け散る。


「てめ・・・!ま・・・ほうじ・・・ん・・・は!」


ゴポリと血の塊を吐き出して、鉄の味に顔をしかめる。

内臓が揺れる感覚と、殺傷による痛み、流れでる命の液体の減少で、嗚咽混じりの掠れた声しか出てこない。それでもイラの表情には、諦めて絶望する様子も、従順に従うから助けろという下卑た感情もない。


ーーーカガミを殺す。


ただそれだけの感情しか、ない。


「こ・・・ろっ・・・!」

「無駄だ。」


胸倉を掴み手中の礫を振り払う。手を離し、イラを空中に放り投げた。

拳を構える。魔力がいななく。手の中で溢れでる死の絶力は、魔方陣を使っていない。

チリチリと音が漏れ、カガミの拳が紅く爆ぜる。爆風が吹き荒れ、黒煙が立ち込める。そこから、間髪入れず2発目、3発目の爆裂の打撃が鳴り響く。


「もういいだろう?」


降参を求めて、カガミがゆっくり問いかけた。


「ま・・・だ・・・」


体中から黒煙を吐き、焦げ付いた血が痛々しくメイクする。

大罪囚ほどの実力があれば、爆撃など簡単に防げる。しかし、カガミの繰り出す魔拳は、威力が限界を超えている。

魔法使いが詠唱して作り出すほどの大魔法を、何倍もの威力で、何倍もの速さで、何倍もの手数で打ち込んでくる。もはや人間ではない。

そんな圧倒的戦力の前でも、イラは闘志を終わらせない。


「愚かだな。」


ラグナの小さい一言がその真実を裏付ける。

すなわち、これまで殺さないようにしていたイラを、カガミは殺そうとしている。本気で殺意をぶつけている。

ポケットから手袋を取り出して、それを両手につけた。

魔方陣が描かれている手袋は、マナを流せば流した分だけ強力な魔法を放つ。


「んじゃあ、諦めるまで死んでみよう。」


我慢の限界。醜く足掻き続けるイラに、カガミが小さくため息をつく。

体内を循環するマナ達が、カガミの手中。魔導具『影砲』に集まる。

逃げ惑い、行き場を無くした魔力がエネルギーを生み出し、どれほどの力をカガミの手中に集めているかは分からない。しかし、影砲はそのエネルギーを暴発させないように管理し、暴発のエネルギーすら攻撃に変換する魔導具。

すなわち、


「死ね。」


手のひらを広げるカガミの拳から、流星の如き紅炎が顕現する。

そう、すなわち、カガミの持っている能力を、底上げ、2、3倍にすらする。


「ああ!?」


おかしい、明らかにおかしい。

この熱量を人間が生み出せるなど、おかしい。

そして、それが自分に向かってくる不条理も、おかしい。

この男の憤怒は、美しくない。

熱く燃える想いを乗せる憤怒ではなく、冷酷な殺意で冷静に憤怒するカガミは、美しくない。

どんなに思考しようとも、接近していた爆炎の死からは逃れられない。瞳を見開き、眼前の殺意に脂汗が滲み出す。


「っ」


悲鳴すらも置き去りに、ちっぽけな人体が容易く燃える。ちりになり、ありふれた噴煙として。


「もう一度だ。」

「はぁ・・・!?」


確かに途絶えた意識と、死の瞬間の猛烈な恐怖。それは、幻影でも、幻覚でもない。

それでも、イラ・ダルカは生きている。





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