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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
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26.【目前の怠惰な糸】

目の前に置かれたステーキに、横にあるグラタン。サラダや飲み物を加えて賑やかになったテーブル。

そして、それを頬張る少女達。目と舌のどちらも楽しめる最高の状況を噛みしめていると、アミリスタが厳かに呟いた。


「影の世界って、知ってる?」


その質問に、リデアが表情を硬くし、レリィが疑問に首をひねった。

アキトはというと・・・。


「影の・・・世界・・・?」


ーーーどこかで、見た。

そんな確信が、アキトの心に引っかかっていた。


「今から話す事は内緒だよ?」


人差し指を口にあて、ウインクするアミリスタが顔を寄せる。

アキト達も少し近付き、小さい声でも聞こえるように構えた。竜伐が言う秘密。それに、驚かないように。

アミリスタの言った言葉に、空気が凍った。


「捕まっていた大罪囚、アケディア・ルーレサイトが、何者かによって脱獄させられたかも知れない。」

「「は・・・」」

「だ、脱獄。」


アワリティア程の戦闘能力を持った者が投獄されていたのにも驚いたが、アキトにとっては脱獄されれば意味はない。

そして、アキトは1つ疑問に思う。アケディア。怠惰の大罪囚の他に、脱獄した者は居ないのか?


「お、アッキーは気付いたね。」

「なにを?」


アキトの表情の変化で疑問を悟ったアミリスタが、アキトを指差した。

それに困惑するリデアを、アミリスタはどうにもしない。

今から示されるのだろう。その答えが。


「今投獄されている大罪囚は、傲慢、怠惰、嫉妬。怠惰は逃げたから2人だね。それで、脱獄したのは怠惰だけ。」


もしも戦力を求めて脱獄をさせたのなら、戦闘力がアワリティアの次に低いアケディアを連れ出したりはしない。

さらに言えば、大罪囚に力を借りに行けるような者は、戦力などいらないほど強い。

ますます分からない。


「というか、その監獄は警備があるんだろう?」


世界が定めた共通の敵を秘めた監獄だ、甘い警備ではないだろう。


「アミリスタ、確かバルバロスって」

「うん。侵入者がいたらファルナ皇王に連絡が行く。侵入すら難しい。」

「なぁ、中から外に出るときも警備はあるんだよな?」


アキトが顎に手をあてアミリスタに聞いた。

外からの侵入を防ぎたいのは分かる。しかし、それで脱獄を許すなどあってはならない。


「大罪囚は『天上の星紋』で魔力も体術も、動くことすら出来ないの」


リデアの言葉に息を呑む。つまり、外から中へは無理だが、中から外へは容易く出れるという事だ。

看守の行き来する通路を使えば、中からの脱走は行える。

なんというザル警備。テレポートで中に入り、大罪囚を連れて逃げれば全て上手く行く。


「まぁ、監獄の中に瞬間移動なんて事は出来ないから、問題はないけどね」


アミリスタの言葉に、一瞬唖然として思い直す。

いくら超常の世界でも、分子レベルに物体を分解して時空を超える事は出来ない。

それを聞くと、どうやって侵入したかが全く分からなくなってくる。そして、思い出す。


「影の世界と、関係あるのか?」

「そう!僕の思惑に気付くとは、さすがだね」


嬉しい評価を下すアミリスタだが、アキトは影の世界に違和感を感じて顔をしかめる。


「なんでも、アケディアの能力の中に、影の世界に行くっていうのがあるらしいんだ。」


ピタリとアキトの中で何かが繋がろうとした時、それを止める神の、いや、もっと大きな者が爆音を引き起こした。


ーーーーー


「ファルナ。」

「ダメだ、中々速い。正体までは掴めないな。」

「なら行くしかない。」


虹の輝きが乱舞して、2つの長身が搔き消える。

起こる輝きは、残滓を残して消滅し、

見渡す限りの荒野へと、2人を()()させた。


「おっと、ファルナか。」


両腕を掲げて何かを行なっていた男は、猛烈な殺意を感じもせずに、間延びした声で皇、ウドガラド・ファルナを呼んだ。

どんな魔力、殺意、神気を使っても怯まない男に、ファルナは内心驚愕した。それは、隣に仕える従者、ウルガも同じだった。圧倒的強者としてウドガラドに君臨するファルナは、強者と戦った経験が少ない。

だからこそ、顕現させる。


「顕現魔法、皇槍(おうそう)エトラン・レーフ。」


瞬きの間に、最大の魔力が解き放たれた。沈黙した空気を一瞬にして崩壊させたファルナの顕現魔法。それは、魔力の纏い方が濃ゆすぎて、ファルナ意外に姿を見たものはいない。仕えるウルガでさえ、見えるのは槍を模る魔力だけ。

吹き荒れる暴風に目を細め、男はゆっくり呟いた。


「グリムライガ。」


ドパンと音が鳴り響き、充満していた魔力が霧散する。

ファルナですら時間のかかる顕現魔法を、男はいとも容易く言葉1つで終わらせた。


「ベルフェゴール使えるな?」


漆黒を纏うグリムライガに問いかける男が、虚空に向かって笑いかけた。


「好色刃。アワリティア。」


強欲の力が魔力を集め、求めた刃を放出するゲートを形成した。

そう、それは、『怠惰』の悪魔ベルフェゴールに愛された少女の授かった、怠惰な力。

努力をし過ぎた皮肉な少女に差し伸べた、努力を捨てさせる最強にして最悪な死槍の力。


世界を削る強欲一刀を、転移によって逃げる事で回避したファルナ。


そう、それは、ただ怠惰に生きるだけで全ての大罪囚の力をコピーする怠惰な刃。

アケディア・ルーレサイトに垂らされた、奇跡の糸。

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