24.【影の君】
すいません。どうしても最初なので短くなってしまいました。
「お前がこっちのアケディア・ルーレサイトか?」
「はい。」
黒い泉から現れた男は、屈強な肉体を持っているわけでも、輝く刃を持っている訳でもない。それでも、大罪囚、怠惰アケディア・ルーレサイトは、その男を恐れている。
アケディアが、聞かなければならない事を聞く。それは、彼女の能力を使う上で、重要な事だから。
「あちら側での戦果を、教えていただけますか?」
「・・・そうか。」
「この力を使う上で、あちらはとても重要です。」
納得した少年に、アケディアが意見を重ねた。
頷いた少年が話し出す。あちら側の戦果を、自身の戦力を。
「まず、アケディア以外の大罪囚を全員殺した。」
「!?」
「あと精霊大戦に勝った。」
「ちょっと、お待ちください!」
「ファルナを壊してウドガラドを俺の物に・・・。」
驚愕に肩を震わすアケディアを見て、少年が口を噤む。
何をそこまで驚く。そんな顔で、少年は首を傾ける。その少年に、アケディアが問う。
「つまり、あちら側の『鍵』は、全員死んでいる。無力化させたと・・・そう言うんですか?」
鍵という言葉に不思議そうな顔をして、少年が手中に魔法陣を展開する。そのまばゆい光に攻撃の予感を感じ、アケディアが瞳を瞑る。
しかし、その考えは、杞憂に終わった。
「アワリティアの生命。これで全員生きている。安心しろ。」
アケディアの脳で、矛盾が生じた。
少年は、殺したと確かに言った。つまり、生き返らした。蘇生したのだ。
そんな事が出来る物を、どれだけ持っているのだ。
ーーー信じられない。
「まぁ、信じられないよな・・・」
「・・・・・・」
真っ向から否定する事は出来ない。しかし、信じるには無理がある。そのアケディアの感情を汲んで、少年がアケディアの顔を眺め、
「っ!?」
驚愕するアケディアの悲鳴が小さく聞こえた。
それは、自身の体に現れた魔法陣が、対応悪魔ベルフェゴールを呼び出す物だったからだ。
アケディアの対応悪魔であるベルフェゴールは、アケディアですら出現させる時に膨大なマナを使う。しかし、この少年は、当然のように他人であるアケディアの対応悪魔を強制的に呼び出している。
「貴様。何者だ。」
出現したベルフェゴールが、少年を一瞥する。
澄んだ凛とした声。そして、その肢体に、妖艶な雰囲気を纏う悪魔。
美しい美女。その美女の金髪に、二対の角を生やしている。
そのベルフェゴールを見て、好都合と呟き少年が笑った。ベルフェゴールの敵意を感じて、少年は恐怖はおろかその敵意に気付いてすらいない。
「ベルフェゴール変化形態。」
少年の言葉に呼応して、ベルフェゴールが淡く輝く。
「な、貴様どうして私を制御している!?」
「あっちで1番俺に反抗したのはお前だったからな、1番お前を知っているのは俺とルーレサイトだ。」
唇を噛み締めながら、抗う間も無くベルフェゴールが最強クラスの武器に変化。
現れたのは、槍。
皇槍エトラン・レーフを超えるその槍は、名を
「グリムライガ。好色刃と伸縮する槍。」
「あちら側の私は、そこまで話しましたか?」
「いや、自分で確かめたんだよ。」
怖気が走る。
あちら側で、アケディア・ルーレサイトは1度この少年と戦っている。
そして、戦闘向きではない事も、知っている。
「好色刃で、俺を斬れ。」
「は・・・・・・ぁ・・・?」
好色刃。それは、強欲一刀にすら打ち勝つ、破壊力が高い技の1つ。
それを受けて生きている人間など、いない。つまり、少年は蘇生手段の開示のために自分を殺せと言っているのだ。
それでも、この少年に逆らう事がアケディアには出来ない。
「好色刃。アワリティア。」
「・・・」
「ぁ・・・ぇ・・・?」
放った技は、その存在を再生の波に呑まれ消えた。
第2章【その最強は世界を求める】開幕。