248.【何百回かめの問答】
光に包まれる。その感触は、不安に侵されながらこの世界へと侵入した最初とは違い、暖かく送り出されるようなものを感じ、むしろ勇気のようなものが湧き上がってくる。
結局、ムクロの存在や目的、その他諸々わからないことは多い。しかし、アキトが成さなければならないことに立ちふさがる壁は、間違いなく少なくなった。ただそれだけで、とりあえずの感情は抑えられる。知識欲に飲まれすぎることも、時には己に毒となる。それを、この世界は一番知っている。
世界が、すり替わる。
眼前、うっすらとした蒸気に包まれる世界は、ただただ暗い。そして、何か高いものに囲まれており、その何かが本棚の数々だということに気づくのは至難の技である、ということくらいしか、アキト達にはわからない。
帰還。それはまぎれもない。バルバロス上層。『図書戦宮』であった。
「アキト。やっぱり、アイたちをあそこに送ったのは・・・」
「・・・、・・・そう、だな。」
不安げな表情でアキトの袖を掴むアイリスフィニカ。そんなアイリスフィニカの不安を溶かすように、上目遣いでアキトを見つめる赤の少女に優しく触れる。頰にふれる感触に恥ずかしがりながらも、嬉しそうに微笑む。
それを見ると、アキトの口から再び結論を言おうとするのもためらわれる。一度開いた口を閉じる。再びそこに空気を通すのに、己の声によってその事実に色を持たせてしまうことに、恐れを抱いている。
しかし、それでも。言わなければならない。
ただの先延ばしは、なんの解決にもならない。アミリスタの時に、思い知ったはずだ。
心を偽って先延ばしにしていたアミリスタは、その精神の磨耗がトラウマとして根付いていた。会って間もないアキトに泣きついてしまうほどに。
だから、解決しなければならない。この少女に残る確執も、不安も、取り除いて。孤独と暗闇に溶ける呪いの全てを、打ち砕かなければならない。2000年の悲しみを、それ以上の密度で、長さで、癒さなければならない。
この世界で人々に触れて、善意に揉まれ、悪意に切り裂かれ、アキトは変わることができた。
人を助けたいと思い、人と関わりたいと思い、ちっぽけな正義感は無謀な勇気に格上げされた。たとえそれが愚かなことに変わりはなくとも、その変化だけで、アキトは数々の試練を乗り越えようと足掻いてきた。
そうだ、その変化が、アキトをこうして立ち上がらせている。
善人ならこうするだろうとか、こうしなければならないとか、その行動で劣情を持とうとか、そんなものじゃない。
それは、アキトがしたいと思ったこと。それをすることによって、少女を救える。救いたい、その少女の笑っている顔が見たい。
結局は、エゴに帰結する。アキトがその笑顔を見たいだけ、アキトがその少女を救いたいだけ。そうして救った気になって、少女に幸せになって欲しかっただけ。
最悪、自分がそこにいなくても良かった。実際、アキトは興都の幸せに現在進行形で入っていない。けれど、だからこそ、そこに幸せは生まれていない。
エゴでいい。エゴで救いたい。
だって、少女だったのだから。
アキトのエゴを肯定してくれたのは、アイリスフィニカだったのだから。
このエゴを、押し付けてやる。そうして、晴れて世界の住人にさせる。
握りしめた拳に震えを纏わせる。
この世界に自分を認めさせる。それくらい強くなる。そうしないと、またこんな理不尽が起きてしまうから。強くなるために、心は持っていてはいけない。鉄仮面で、感情を隠さなければならない。
感情を受け取ってはいけない。感情を表に出してはいけない。
たとえその目的が間違っていたとしても、たとえその方法が間違っていたとしても、そうすることが、1番の成功率。
何度でも己に問い続けるアキトの声。
それは、少女たちを傷つけるか、少女たちを殺すか。
何度問うた?何度答えた?なんど覚悟した?
何度、それらを壊してきた?
今もずっと、こうしてことあるごとに己に問いかけてしまう。
選び続けるしかない。幸せにはなれないかも知れないけれど、少女たちが生きて行ける道を。だって、そうしなければ。
彼女たちを、守れないから。
力を、求め続ける。
最近は、めちゃめちゃ嬉しそうに美味しそうにご飯を食べている女の子が好きです。アクシデント・エンペラーです。オタク沼にはまり始めた頃は、純粋な女の子が好きでしたが、なんかもう男の娘もストライクゾーンに入り始めてしまう今日この頃。以上、アクシデント・エンペラーでした。