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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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242.【ミカミ・アキトはいつかきっと】


「ほう・・・一撃で18回分か。魔力抵抗ありの人間を斬ってこれなら、上々か。」

「は・・・!?」


目にも止まらぬ速さで。言うが簡単だが、その絶技が認識という檻を抜け出してアキトを切り刻むことの凄さは、一度剣を取って戦おうとしたアキトにはわかる。それに、グレンの構える無骨なその鉄剣は、刃が厚く『重厚』と言える。重量は、かつてアキトが捨て去った金の剣を凌駕するだろう。

そんな斬撃を前に、アキトは死んでいなかった。ただしかし、目の前には、誰のものとも知れない血液の湖が、おどろおどろしくできていた。


「お前は今、18回死んだ。」

「・・・・に、言ってんだ・・・?」


グレンから容易く紡がれた言葉は、アキトの脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱すには十分な内容だった。

グレンの撃ち紡いだ一撃が、たった一瞬でそのアキトの命を刈り取り、数瞬かからずに十を超える死を量産したのだ。信じられない。信じられるはずがないい。しかし、それを信じさせる才が、いや力が、眼前の男にはあった。その鉄剣には、込められていた。


「1・・・8回。」


唐突に、うつむいたままのアキトがしゃがみこみ、その血溜まりを手で掬う。ドロリと粘度を示す血液を、真っ赤になるまで触り、それがまぎれもない自分の血だと認識する。

それは、血だ。まぎれもなく、ミカミ・アキトの。


18回という大量殺人の中、広がっている血の量はそこまで多くない。あって精々10人分ほどだろう。

アキトの最初の8回の死は、血を残すことすらできずに消え去ってしまった。そういうことだろう。9回目から、かろうじて血が世界に存在することを許された。

なるほど理解した。カーミフス大樹林で見た彼の剣技とは、格が違う。

天上の星紋、聖霊化。あげればいくらでも原因はあるだろう。しかし、あげる気にはならない。


「邂逅の瞬間に死を重ねた事が、そこまで辛かったか?」

「・・・」

「なにもできなかったことが、死ぬほど悔しかったか?」

「・・・」

「身の程を知らない奪取に、今更恐れおののいたか?」


グレンの口から紡がれる痛々しい言葉の数々。ぶつけられたものすべてを傷つけるように、悪意100パーセントで構成されたその言葉で、あるいは倒れておけば。この先に訪れるであろう死は間逃れていただろう。

しかし、アキトは微動だにしない。ただただ、その血を眺め、唖然としている。


「その、強くなりたいという格好で、なにを得られたんだ?」

「・・・」

「お前のその異常性は、褒められたものじゃない。自分の妥協案に甘えて被害者ぶっているだけの、ただの自己満足だ。」


ぴくり、と。アキトの髪が揺れた。


「そうやって力を求めていると思い込むだけでは、なにも得られない。」


一陣の風が、ばっと吹き荒れる。アキトの眼前で静止したそれは、剣をアキトの首にあてがうグレンだった。そのとてつもない速さは、例に漏れずアキトには捉えられない。


「覚えておけ、最弱。それは努力という格好だ。結果の出ていない努力は、努力とは言わない。」


そうして、アキトの首にめり込む刀身は、今度はゆっくりとその首を切り落とす。2度目。アキトの体が新しく生まれる。そして、さらなる剣撃が、アキトを肩口から叩き割り、次のアキトの眼球を貫き、次のアキトの両腕を切り落とし、次のアキトの顔面をそぎ落とし、次のアキトの脳髄を切り崩し、次のアキトの腸を引きずり出し、次のアキトの四肢をぶつ切りにして、次のアキトの脳天をかち割り、次のアキトの口蓋へとめり込ませ、次のアキトの腹を貫いて、次のアキトのアキレスを撫で斬り、次のアキトの喉元に刃を当てる。


「まだ死にたいか?例えこの世界が精神体の世界だとしても、死に過ぎればお前の精神に異常を誘発する。」


グッと力を入れれば、刃こぼれの1つもない銀の輝きが、アキトの喉元に一筋の紅を引く。しかし、アキトには降参する様子も、なにかを伝えようとする様子もない。


「理解しているなら、お前が決めろ。お前の在り方が間違っているのに、本当は気付いているだろう。」


アキトから剣を引き、血塗れの剣を見るグレン。その表情には、困惑と疑念が渦巻いている。分かっているのに、なぜ最善を選択しようとしない?その疑問が渦巻いている。

しかし、リスクというものを知らないグレンには理解することはできないだろう。

そのアキトのあり方を。しかし、だからといって、アキトの在り方が正しいかと問われれば、それは首を横に振るしかない。

そして、それこそが、強さである。


「わかんねぇな。」


アキトが口を開く。その全てを諦めたような顔を見て、グレンは同じく諦めたように剣を構える。

しかし、そのアキトの目を見た瞬間、ハッと息を呑んだ。


「はぁ、いいだろう。お前にあの武器が扱えるとは思えない。だから、擬似月界になるがくれてやる。」

「ありがとよ。」

「勘違いするな。これは俺の期待だ。絶対に、その在り方と向き合え。いいな?」

「・・・無理だよ。」


グレンから強く言われた言葉に、臆することなく無理だと告げる。

けれど、グレンは剣を振り上げて言う。


「だとしたら、お前は未来を()()()()()()生きられない。」


そして、初めてアキトが顔をあげる。瞳を既に捉える剣に、全身が粟立つ。咄嗟に、右手を掲げて剣を防いでいた。しかし、グレンの剣はそう甘くない。アキトの手首を切り落として、首まで切り落とす。最後に、グレンの口が動く。


「擬似月界『エウロノア・ペイルダム』。後は、お前次第だ。」


熱に浮かされる心を閉ざすように、在り方に沸騰する心を、鉄仮面で押し隠す。ないはずなのに存在を主張する心がうざったくて。アキトは斬られた右手を見た。そこに刻まれた傷跡だけは、消えていなかった。


ーーーーー


「アキト!!あきと!?」

「おぐっ!!」


泣きじゃくるライラの頭突きが、仰向けに転がるアキトの腹を直撃した。思わぬ衝撃に嗚咽を漏らし、そのままアキトのシャツを涙で濡らし始める幼女の頭を撫でる。今だけは許してくれアイリスフィニカ。そんな祈りを込めながら、ライラをひたすらにあやす。

理不尽に大罪囚へと身を落とされ、誰にも触れ合うこともできずに1人で生き続け、辛いことも、孤独も、何もかもを抱え込んできたのだろう。そして、やっと見つけた一緒にいてくれるアキトたちを、助けられなかった。

アイリスフィニカの左腕を失わせてしまった。

自分にとってかけがえのない存在を守ることができなかったと言うのは、自分に力があることも相まってとてつもないトラウマを、ライラに与えてしまったのだろう。


「大丈夫、俺は、生きてるから。」


上体を起こしてライラの顔をあげる。目と目を合わせて真摯に訴えかければ、その潤みきっていた宝石のような瞳はやがて水分を抑え、綺麗な光沢を放った。


「それに、もう準備ができた。」


腰に差したレイヴンの骨に手をかける。その感触をしっかりと感じ取って、そっと手を離す。そして、その手を己の顔の前に持ってくる。映る手の甲には、しっかりと裂傷が刻み付けられていた。

不思議そうにその傷を見つめるライラにも、やってもらいたいことがある。頼むことへの罪悪感は未だ消えぬまま、口を開く。その貴鉱石を手に。


「ライラ、残っている魔力を、俺に授けてくれないか?」

「・・・魔力を?」

「ああ。」


本来、魔力を譲渡することは比較的困難だ。体外に魔力を排出する場合、それは既に魔力から魔法へと形を変えているからだ。つまり、そのような術に長けているもの、または魔力を垂れ流す者しか、施工できない。そもそも、受け取る側も、全力で吸収するしかないため、肺活量や飢餓感の強い者でないといけない。その方法だと、効率も大きく落ちてしまう。

しかし、アキトには貴鉱石がある。魔力を溜め込める貴鉱石にライラの魔力を一度ため、それをアキトが取り出せば、貴鉱石を中継する魔力譲渡が可能となる。

しかし、この方法は1番の難関、ライラの了承という壁があり、


「いいよ!」


なかった。


「本当か!?」

「うん!ライラ、あんまり魔力残ってないけど、けど、少しでもアキトの助けになるなら、あげる!全部!」


アキトを仰け反らせるほどの勢いでその手を差し出してくるライラ。おもわず苦笑しながら、あまりの呆気なさに笑みが漏れる。

どうやら、この作戦の最難関は、1番簡単に解決してしまったらしい。


「それじゃ、お願いな。」

「うん!」


少し控えめに頷いて、アキトの手中の貴鉱石に魔力を注ぎ始める。

内側に根付いていた貴鉱石の魔力は、そのほとんどを使われてしまっていたが、ライラが魔力を注ぎ始めてからものの数秒で輝きを取り戻し、取り戻した所か元の輝きよりも強く発光を始めた。

それはさながら、『蒼天の貴鉱石』のようであった。


ーーーーー


そして、現在へと至る。

塔の頂点でアキトの構える剣は、剣と呼ぶには歪すぎる、しかし、鈍器というには鋭利すぎる、なんとも言えない形状であった。しかし、刺突という概念においては、剣にだって遅れを取らないだろう。その骨は、レイヴンという、馬鹿な男の最高傑作なのだから。


「戦闘狂の次は、貴様が余の相手をするというのか?身の程をわきまえよ、余は、雷の女王であるぞ?」

「ふん!しらねぇな、残念ながらこっちは俺1人じゃない。」


グレンの月界。ライラの魔力。そして、アキトの体。それを支えるアイリスフィニカ。歪な陣営のすべての力を込めて、アキトは宣言する。


「ひとつ、使い手は、男であること!」


ボッと、レイヴンの骨から輝きが溢れ出す。立ち上る魔力の量は、ファルナの顕現魔法にも引けを取らないだろう。


「ふたつ、そこに意志があること。」


全ての意志を引き継いで。その雷の女王、イヴンタァレを倒すという意志が、アキトの剣を赤く燃えあがらせる。金に輝き始めるレイヴンの刃。それは、アキトのふたつめの条件が認められたことを意味する。

しかし、最後の条件は、どうなるだろうか。


自分は、英雄であろうとしているか?


自分の在り方を、問われたばかりのアキトには、その詠唱は酷である。

しかし、グレンの言葉どおりだ。この逡巡すらも支配しなければ、アキトは未来へと続かない。


約束しよう。いつか、この在り方と向き合うと。誰かのためだけの英雄になれるように、と。

英雄で、在ろうと。


「俺が、英雄で在ろうとすることッ!!」


全ては、整った。

彼の剣は、英雄剣。英雄により作られし、英雄のための剣。英雄を生み出す剣。

続こう、その英雄譚は。

名は、ひとつ。


「擬似月界!英雄剣『エウロノア・ペイルダム』!!!!」


駆け出した。空を滑る感覚。とてつもない高さの塔から飛び出すアキトの輝きは、街中を照らす。

そして、イヴンタァレの左腕を貫いた。

アキトの突いた延長線上が抉れ、破壊が全てを蹂躙する。


そして、そして、



我が魔王のはいしんがあるので早めの投稿、アクシデント・エンペラーです。みなさん早く見に行きましょう。

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