241.【その雷撃の王へと】
カッ、と瞬いた塔の頂上を見て、イヴがその切れ長の瞳を細める。
豪華絢爛な様相の中央塔のてっぺん。輝かしさをその手に持った少年が、ニヤリと笑う。
「ありがとう。ライラ。成功だ。」
時は、すこし前へと遡る。
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迸る雷撃の音色が空気を焼き、マクレアドとイヴンタァレの戦闘の鮮烈さを、アキトにダイレクトに伝えていた。しかしそれは、マクレアドがアキトにチャンスをくれているという意思表示。アキトの作戦を分かっているというメッセージ。彼がこの戦いを終わらせてくれと言う、懇願に他ならない。
それこそが、ミカミ・アキトが助かるための唯一の手段である。
螺旋階段の中腹、すごくだけひらけた一室。頂上までは距離のあるその空間が、アイリスフィニカとライラのいる位置。彼女たちが待機していた場所。そして、アキトがいまいることのできる場所だ。
「ライラ、なにか聞こえるか?」
「ううん・・・ごめんなさい・・・」
見た目的に幼いながらも頑張ってくれているライラが、そうしてしょんぼりしているのを見ると、かわいそうだと思う気持ちもあるが、小動物的な可愛さに撫でたくなってしまう。アキトには完全に頭上でへんにゃりとしているケモ耳と、おなじくへんにゃりしている尻尾が見て取れた。
しかし、なぜかそれなことをするとアイリスフィニカに怒られるため自粛。作業を再開する。といっても、ただただ塔からアキトへの接触を待つだけという受動的な作業なのだが。
「いいさ。俺が頼んでるんだからむしろありがとよ。」
そうして声をかければ、ライラは落ち込んだ表情を一転。全体的にへんにゃりしていた体を喜びに震わせ、幻視されるけも耳はピンと天を突き、尻尾はブンブンと振るわれている。本格的にけも耳っ娘になっても違和感は無さそうだ。
しかし、そんな微笑ましいやらなんやらをしている場合ではない。マクレアドの死線は、とうに彼の背後にあるのだから。
瞳をキュッと引き締め、吹き出す手汗をズボンに擦り付ける。
決意を。いま必要なのは、それだけだ。
「アイリスは待っててくれ。」
「え?なんで・・・」
「ああ、いや、別に待っててくれって言っても、俺たちが行くのはこの塔の最上階だから。すぐに戻ってくるよ。」
「そう・・・なのか?」
すぐに戻ってくる。ライラだけ。そんな言葉を飲み込んで、欺くことへの罪悪感を押し殺しながら嘯く。
別に、投身自殺に行くわけじゃない。確かに危険なことをする。死ぬかもしれない。しかし、それをしなければ死が確実となるだけだ。
それに、死んでやるはずがない。アイリスフィニカがここから出るには、アキトが生きていることが条件なのだから。
「それなら・・・いい・・・けど。」
いまだ煮え切らないアイリスフィニカ。彼女は知っている。この後アキトが帰ってこないという確信までは無くとも、なにかをやらかしてしまう危うさがあるということを知っている。レリィレベルになると、ここでアキトはジト目責めにあう。
ただ、今はその葛藤がありがたい。半ば逃げ出すように駆け出す。
「すぐ戻る!」
そして、それに続くようにライラも走る。
塔は、その都市を支える全てだったとしても相当な大きさを誇っている。ただの街のインテリア、シンボルだったとしたら、ここまでのものにはならなかっただろう。
カツカツと足音を響かせて、無駄に長い階段を進んで行く。
「ごめんなライラ。嫌かもしれないけど、お前の脱出にも貢献すると思って、手伝ってくれ。」
アキトがいまから行うことは、全てアキトの犠牲で完結するものではない。ライラにも、限りなく低いがリスクを負ってもらうことになる。その作戦の可否を、判断を、その幼女に問えないことは心苦しい。
しかし、ライラは首を横にブンブンと振ってそれを否定する。
「そんな事ない!全然、嫌じゃないよ?ライラは、アキトの助けになりたいから!」
「っ、お前・・・・・・ありがとう。」
一生懸命なその姿は、どうしても大罪囚だということを忘れてしまいそうになるほどにあどけない。
「ライラ、力はどれくらいある?」
「・・・ほとんど残ってない・・・今はあの狼を倒すので精一杯で、」
「オーケー。っと、ついたな。」
そして、アキトたちの駆けてきた道のりの先、淡い輝きが、漏れ出していた。
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アキトの進むその道のりは、既に2度目のことだった。
この中央塔の侵入は、前回と同じペア、ライラと。しかし、今回は違うところがある。前回の目的が偵察、好奇心によるものだとしたら。今回の目的は奪取、吸収心によるものだ。
大きく息を吐く。一段、また一段と近づくそれが、とてもない気配を放っている。しかし、止まるわけにはいかない。その先にあるもの、それを、手に入れなくてはならないから。
そして、たどり着いた先。待ち受けている剣は、変わらず威圧感を放っていた。そして、
「アキト!アキト!?」
意識がはっきりしているのにも関わらず、肉体から魂が切り離されて行く感覚。不気味すぎる己の有り様に、なぜだかアキトは落ち着いていた。そして、ばたりと。抜け殻のアキトが倒れた。
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「この月界に入り込んできたということは、お前はいるんだろうな、この力の原典に。」
すっかりくたびれてしまったローブを羽織り、その端正な顔立ちを覆い隠す男。彼の手に握られている剣は、なんの変哲もない鉄の剣。アキトでは手が出せないほどの金額だろうけれど、その美しい在り方についため息が漏れる。しかし、目の前の男の姿を視認して咄嗟に意識を切り替える。
「ああ。いるどころか、奪いにきてる。」
「・・・・ほう、そうか。随分と大胆な告知だ。俺を前にしてそれとは、中々肝が据わっている。いや、お前の場合、感受性の欠落か?」
グレンには、アキトのその異常性がわかるようであった。的確に当てられたその異常性は、誰しもに言われ、異常だと心配された、罵倒された在り方だ。
「今は関係ないだろ。俺をこんなトコに呼び出したって事は、渡してくれるわけじゃないんだろ?」
アキトの求めているもの。そして、彼の守るもの。
アキトが手を広げて指し示す真っ白な世界で。グレンの剣閃が迸る。瞬く間に、アキトの死体が18体。赤い花とともに打ち捨てられた。
ばちこ〜ん★アクシデント・エンペラーです。『えま★おうがすと』をしk、すこれ!
イヤホンを買いました。懐かしい曲を聴きまくってます。『キミシダイ列車』とか最高です。
最近だと、ずとまよが1番ですね。YouTubeライブが公開されてたので是非。CD音源では味わえない、生ならではの力強さ、聴きに行ってください。