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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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233.【臓物に塗れたカーペット】

雷の音が鳴り響く。アキトが遭遇したら、おそらく数秒で消えて無くなるであろう火力を持っている奴らの音だ。どれほどアキトが幸運に恵まれて生きてこれたとは言え、大量の魔獣に遭遇しないでこの街を走れるとは思っていない。

覚悟を決めて、息を吸い込んで。大きく吐き出す。

漂う緊張感が水のように体を侵し、愚鈍な自身の精神が沈み込んでいく。しかし、焦燥でしゃくりあげる喉元からは、決して弱音は吐かない。


「よし。行こう。」


ここから先は、今までアキトの積み上げてきたものが、どれだけのものか。そういう戦いだ。そういう戦場だ。

きつくなる視線を周囲に向ける。雷狼の気配はない。いや、気配はなくとも、視線を感じる。気配を隠すのに、その視線から飛び出る火花のような悪感情は、いささか鋭すぎる。


「あと、少しだ。」


しかし、その視線の主はアキトへと近ずいて来ない。当然と言えば当然だった。アキトが歩いているのは、おそらくマクレアドが歩いたであろう道。地面にあるのは敷き詰められた石畳、それを汚す血みどろの臓物たちだ。きっと、アキトを見つけた魔獣は、その惨状を起こした主がアキトだと思っただろう。そりゃそうだ。攻撃なんて、仕掛けられるはずがない。

その臓物は、かつての仲間のものだから。

警戒もほどほどに、雷狼の視線から意識を外し、道を走る。

相当個体として強い者でなければ、この血の惨状に紛れ込んでくるのは勇気がいるはずだ。だから、そんな個体が出て来ないうちに、ブラッドロードを走る。

マクレアドが作り上げた、そのブラッドロードを。赤く装飾された絨毯を。アキトを導くようなレッドカーペットを。


「っ、あった!」


アキトが走り着いた先、アキトたちが泊まった宿。アキトの少し前の拠点だ。

ドアを乱雑にあけ放ち、誰もいない受付を抜けて階段を駆け上がる。軋む階段の先には、いくつもの扉が並ぶ廊下。きっと、誰1人人はいないだろう。そんな廊下を走る。ただ、自分を部屋をめがけて。

別に、その部屋に隠し球があるとか、アキトを強くしてくれる何かがあるわけではない。ただ、ただただ、武器の調達である。

アキトの扱えるかもしれない武器、防具は、なかなかに少ない。無限とも言える戦型を編み出せるアイリスフィニカと違い、アキトは吸血鬼の下っ端の下っ端。ある物でしか戦えない。

武器と言えば、使えるかどうかわからないグレン流屈縮術(アッパー)と、行き当たりばったりになってしまうが、見よう見まねのマクレアド流屈縮術(バンカー)くらいだ。

せっかくの金の剣は、アイリスフィニカの助言によって、アキトの意思で落とした。考えてみれば、あれを持った状態でここまで生きて来れただろうか?先にあそこで未練をなくしておいたから、身軽に行動できた気がする。

だから、武器はない。防具も、心もとない。


「よし・・・。まぁ、ないよりはマシだろ。」


手中に持った果物ナイフを、ポケットにしまった。

アキトたちの宿泊していた部屋の冷蔵庫的なやつ。その横にある食器棚に置いてあったものだ。非常事態である、持ち出すのは許してほしい。

ポケットの上からナイフの感触を確かめる。片刃のナイフは、アキトの手に収まる柄と、そこから伸びる刃が同じくらいの長さで、触った感触で頑丈な物に思える。


武器が1つ増えた今、しておきたい事が1つ。遠くで、まだ雷狼が嘶く。


ーーーーー


「余を待たせるとは、偉くなったな?戦闘狂。」

「俺を待つって、可愛いこと言うようになりやがったなぁ、イヴ。」


満身創痍、に見えるマクレアドは、ほとんど傷を負っていない。少しのかすり傷を見逃してもいいのなら、彼は無傷と言って嘘にならない。しかし、全身を染めるおびただしい返り血の数々が、酷くその容姿の凄惨さを増し、手負いであると言う印象をひしひしと伝えてくる。


「相変わらず無手のままか?貴様の技量ならば、多少の理解も持ち合わせているのだろう?」


雷の女王は、その纏った雷のドレスを波立たせて、喜ぶように問いかける。

視線の先、マクレアドの手には何も握られていない。地に塗られた拳、ただそれだけで、マクレアドはここまでのし上がってきた。それしか必要とせずに、ここまでのし上がってきた。

それに、


「少しの知識だけで覆せるような、やわな戦い方はしてねえんでな。俺はいいだろうがよ?お前は、無手のままってわけじゃねぇんだろ?」

「わかっておるな戦闘狂。余は無手は好かん。剣撃の鮮烈さ、棍鎚の重鈍さ、槍術のしなやかさ、弓兵の美しさ。それら全ての内、どれにも当てはまらぬ、とはつまらぬ。」


そうして、雷の女王は口元を緩める。

それは、恋する乙女のように柔らかな笑みで、戦場の血の匂いとは、似ても似つかわしくない、平和な表情だった。

凄惨な戦場を彩る雷撃、その根源たる女王は、呟いた。


「顕現魔法」


緋色の輝きは、美しい。

未だに『txt』を聞いて惚れ惚れしてる。アクシデント・エンペラーです。

3章の現在、絶対魔力都市編は、どこぞの人類救済の方達がかっこよすぎてサブタイトルをパクった節があります。すみません。こちらの文に多用されている『雷』は、『イカヅチ』と呼んで欲しい時と、そのまま『カミナリ』と呼んで欲しい時、2つあります。ですが、イカヅチの女王以外は、かっこいいと思う方で読んでいただけたら、と思います。かっこよさの基準は、みんな違うんでね。

以上、少し真面目なアクシデント・エンペラーでした。

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