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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
236/252

232.【ミカミ・アキトの決戦準備】

「おーい、ライラ?おきてるか?」

「ふぁ、ふぁ〜、アキト・・・?」


背負ったライラの頭を優しく撫でて、できるだけ優しく起こすように語りかける。アイリスフィニカが羨ましそうに頰を膨らませているのに気付くはずもなく、呂律の回っていないライラへと、アキトはにこやかに微笑む。

そんなアキトを見て、ライラは幸せそうに、安心したように、心底嬉しそうに微笑んだ。ただそれだけで、アキトまで嬉しくなるのだから、この少女の持つ雰囲気は末恐ろしい。本当に、嬉しく思う。しかし、アキトが身を置いているこの場は、まごうことなき戦場。雷が入り乱れ、血液が世界を汚し、崩落する瓦礫に紛れながら、覇を競い合う、戦場。ここで微笑ましくしている暇はない。

名残惜しく思いながら、ライラの頭に手を乗せる。


「ごめんライラ、ここを開けることって、出来るか?」


いつか、アキトが願っても、この扉が開いてアキトを迎え入れたことはなかった。しかし、ライラのたった一度の呼びかけで、扉は自分からひとりでに口を開けた。ライラの力であることは、その言葉を聞いていたアキトが1番よくわかった。

あんな声音でささやかれれば、たとえライラにナイフを突きつけられていても、安心して瞳を閉じることだってできたであろう。

多少の無理をしてもらってでも、ライラとアイリスフィニカの安全のために、この塔にいて欲しかった。

しかし、少女から帰ってきた答えは、意外なものだった。


「アキト・・・・・・ッ!開いてる!」

「ッ!!」


何かに怯えるように、大罪囚であるライラですらをも恐れさせるような気配が、その扉から漏れ出ていた。

その扉は、自分から、口を開いて言っていた。『来い。』と。


ーーーこの子達を匿わせてほしい。


まるで塔に意識があるかのように、アキトは静かに心のうちで語りかける。

きっと、この塔が求めているのはアキトだ。その上、アキトは入らずに、アイリスフィニカたちだけを置いていこうとしているのだ。この塔が協力なんてするはずがない。今はただ、言葉を必死に投げかけることしかできなかった。

無言を貫く塔に、最後の一押しを叩き込む。


ーーー俺は男だ。


フッ、と。漏れ出していた歪な気配。全身を駆け巡り、不快感を刺激して回る何かの感覚が、確実に消えた。ライラの表情を見ても、アキトだけが感じなくなったわけではないようだった。


「アイリス、ライラ。お前たちは、ここで待っててくれ。」

「なんで!?」

「アキト!行っちゃ、やだ!」


反応は、アキトの予想通りだった。

困惑したように見上げてくるアイリスフィニカ。縋るように頭を擦り付けるライラ。

ライラを背中から下ろし、アイリスフィニカに視線を合わせる。その瞳は震えていて、今にも泣き出してしまいそうで、切なくて。


「大丈夫。お前のおかげで、気付けたから。」

「?」


アイリスフィニカの頭を撫でる。そして、指先を移動させて滲んだ涙をすくい取る。切れて無くなっている左腕を見ると、未だ心は疼くけど。歯を食いしばって涙をこらえる。鉄仮面がなければ、抑えられなかっただろう。

小さく息を吸い込んで、アイリスフィニカに告げる。


「お前が俺を頼ってくれてるって事が、わかったからな。俺も、死なないようにする。だから、安心しろよ。」


出来るだけ安心させるように優しく言えば、アイリスフィニカはぷく〜、と頰を膨らませてそっぽを向いた。煮え切らない様子の少女は、迷っている。迷って、迷って。アキトが止まらないことを知っている。何よりも、自分のために。


「ずるい・・・アイにそう言えば、引き止められないって知ってるくせに。」

「うぐっ」

「アイは、アキトを頼ってるんじゃなくて、アキトの事を好きって言ったし。」

「うぐっ」

「でも。」


アイリスフィニカが右手でアキトの背中をなぞる。そして、身を寄せる。


「許す。アキトは、アイのヒーローだからな。」

「っ!・・・おう。」

「ここから出るまでは、アキトから抱きしめてくれんじゃないのか?」

「お、おう・・・。」


ドギマギしながらアイリスフィニカを抱きしめる。

アイリスフィニカの顔は、既に真っ赤に染まっていた。それでも、それよりも嬉しくて。満面の笑みを浮かべた。


「はやく戻って来いよ、アキト。」


最後にしっかりと頷いて、ライラに視線を向けた。

止めたがっている。その証拠に、無意識だろうが右手が控えめにアキトをつかもうと震えて前に先行している。しかし、またも無意識にそれを留めて、震えている。

そして、小さく頷いた。


「ありがとな。すぐ、帰ってくるから。」


ミカミ・アキトの独壇場。

いいところを持っていくボス戦の始まりだ。たとえそこまでの道のりが、途方もなく辛くても。

ロボ子さんの『おねがいダーリン』が可愛すぎて呼吸困難。アクシデント・エンペラーです。ブックマークが、いつの間にか120越えしてました・・・。感謝ぁ・・・。喜びに浸りながら、ぼちぼち3章を締めにいこうと思います。

これからもよろしくです。

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