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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
233/252

229.【足掻き続けさせてくれるなら】

「ハッハハハハハハ、」


片手で顔を覆いながら、マクレアドが天を仰いで声をあげて笑う。

訝しげにマクレアドを見るアキトを気にせず、彼は妙に芝居がかった哄笑を上げ続ける。

そして、一瞬で表情を真顔にまで戻してアキトに近付く。その所作は、屈縮術を使っていない、ただの歩行。しかし、なぜだかそれを止めることも、それから逃れることもできる気がしない。

それほどまでに力強く、それほどまでに滲み出る威圧感が強すぎる。


「バカ言っちゃあいけねえぜ?そう言って俺の技を習得しようとしたやつは、みんな逃げていく。情けねぇけどよ」

「・・・・・・」

「俺は教えることに手加減なんざできねぇし、この力が最強だなんて嘯くつもりもねぇからよ。」


マクレアドの右頬を何かが反射したようにキラリと光る。それが何かを確認する。いや、理解、視認することすら叶わぬまま、アキトの左頬を何かが突き抜ける。


「!?」


背後の壁をえぐって止まった見えない何かに戦慄するアキトに、マクレアドは言う。


「力を求めるといえば聞こえはいいが、実際に求めてんのは力じゃあ無え。ただ、自分が頑張ろうとしてる、努力しようとしてる、そうやって見た目のいい体裁。てめぇらが求めてんのは、いつもそれだ。」


鋭いマクレアドの瞳からは、決して数回の享受で受けた落胆ではなく、数えることすらやめてしまったほどの苛立ちを感じる。こめかみに血管すら浮き出ている姿を見るに、いつアキトをマクレアド流屈縮術(バンカー)で撃ち抜いても不思議ではない。

けれど、そこで黙っていられるほど、アキトも死線をくぐり抜けていないわけではない。

アキトに体裁などあるものか、たとえ女の子だろうと、たとえ想い人であろうと、たとえ王だろうと、たとえ強者だとしても、弱者だとしても、使えるものを使い潰して、どれだけ汚くても、どれだけ異彩を放つ戦略でも、戦うために選びとってきた。

そんな狡猾の権化のようなアキトに、マクレアドに見せる体裁など、あるはずがない。アキトは、求め続けているから。


「俺は、力を求めているから。」

「っ!」


ピクリ、と。マクレアドの瞳が揺れる。ここでなにかを言い返されたのは初めてだったのか、珍しかったのか、僅かではあるが動揺をにじませたマクレアドに、アキトがその三白眼に力を込める。


「別に、マクレアド流屈縮術(バンカー)だろうがグレン流屈縮術(アッパー)だろうがなんでもいい。どっちでも、どちらでなくてもいい。俺が戦えるなら。」


力をくれるのなら、足掻き続けさせてくれるのなら。


「俺は、感情を捨ててでも、力を掴み取ってやる。」


確かに鉄仮面をつけて、アキトはそう言い放った。

それを聞いたマクレアドは、驚いたように、いや、呆れたように、心底落胆したように。ゆっくりと手を構えた。

向かう先、煉瓦造りの壁。城壁の体をなしているそれは、ただの民家の壁とは到底比べ物にならないほどの厚さを持っている、いわば岩のようなものである。

そんなものに対して拳、いや、構えを向けたマクレアドの真意は1つ。


「これを、壊すのか・・・!?」


破壊に振り切った魔法をぶちかまして、やっと瓦解し始めるであろう大岩にむけて、なんの武器を構えることなく、己の拳だけで立ち向かおうとする。それは、一見ただの愚かな行動に見える。しかし、そのマクレアドの表情をみて、そう断定できるものはいないだろう。いたとするならば、その者こそが真の愚者だ。


マクレアド流屈縮術(バンカー)は、拳を握らずに膂力を生み出す、完全攻撃特化の屈縮術だ。」


マクレアドの構える両手は、何かを壊そうとするときのような拳は握られていない。そこにあるのは、何かを握るようにして構えられた、広げられた拳の姿だ。


「筋肉を腕と同じ方向に伸縮させるグレン流屈縮術(アッパー)と違って、弓を射るように利き手を引く。そして、曲げた腕を一気に振り抜くように、己の腕を矢に見立てて撃ち放つ。そして、五指の接地面に瞬間的に力を込め、捻る。」


そう説明するマクレアドは、依然構えを変えない。

説明のように弓を引くわけでもなく、筋肉に訴えかけているわけでもない。訝しげに首をかしげるアキトの前で、マクレアドの右腕が掻き消えた。


「ぇ・・・」


直後、到底人間の純粋な筋力が生み出したとは思えないような力が壁を走り、亀裂と破裂の膂力が世界を鳴らす。

轟音を立てて崩れ落ちた城壁。空いた風穴は、綺麗な円を描いていた。


「今の説明は、初心者が慣れるための練習用だ。戦闘でそんな大掛かりな準備をすれば、頭をぶち抜かれるのは目に見えてやがる。」

「・・・・・・」

「だから、その予備動作すらなしにこの動きができれば、マクレアド流屈縮術(バンカー)の使い手だって言える。」


マクレアドが手を叩いて誇りを落とす。

アキトの中に、高揚感があった。グレンに倣って教えられていた屈縮術は、足で発動させるぶんには理解が追いつき、そこそこの期間鍛錬を重ねた。失敗確率二分の一といういささかリスキーすぎる技ではあるものの、使えないほどではない。

しかし、殴打に纏わせる屈縮術は、全くと言っていいほどイメージができていなかった。しかし、マクレアドの動きをみて、確信した。


ーーー殴打に纏わせる屈縮術。俺にとっての最適解は、マクレアド流屈縮術(バンカー)


そんなアキトの高揚感をかき消すように。遠くで、雷狼の音色が聞こえた気がした。

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