表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第1章【その最弱は試練を始める】
23/252

22.【レリィ・ルミネルカは確信する】

百霊王弓。

それは、世界を切り裂く豪弓であり、


ーーーーー


決戦が始まる。

リデアとレリィを連れて、奇襲ポイントに来たアキト達。

ちなみに、ガルドが家を出る準備をする間にここに来た為、しっかりと休息を取っている。

「奇襲はリデアの魔法と俺がする。」

リデアに製造してもらった刃を手に、作戦を説明した。

リデアとアキトの奇襲が失敗すれば、レリィはナイフで、アキトとリデアはそのまま戦闘を開始する。

気付けば、アキトは異世界に飛ばされていた。

そこでリデアに出会い、グレンを封じた。

カーミフス大樹林の村で孤独の少女に出会い、救うと決意した。

この戦闘で、おそらく奇襲は成功しない。

そう、確信がアキトにはあった。

戦闘の途中で考えて、脳を使い切ってでも戦闘の打開をしなければならないのだ。

難易度を外視した作戦だが、グレン戦でしたようにアキトは考えなければならない。

アワリティアを倒す為。

「来た。」

極限まで押し殺し、口の中だけで呟いた。

あまり緊張感はなかった。それでも、感じた事のない感覚が、心を呑み込んでしまいそうだった。

アワリティアが来訪した。

状況は、一瞬。

「ッ!」

「っ!」

驚くほど静かな足取りで、2人の肢体が木を降りた。

自由落下に身を任せ、アキトは金色の刃、リデアは魔力結晶を纏わせて、迫る死の刃を

「顕現魔法!」

アワリティアの死の銃口が、リデア、ではなく、アキトに向いた。

ギュルリと渦巻く魔力が音を鳴らし、漆黒の銃口が弾丸を吐く。それは速く、靭く、アキトに飛来し、


ーーガンッ


金麗の刃に軌道を捻じ曲げられ、翡翠の魔力が大樹を抉った。

アワリティアは、やはり、と小さく呟き、黒い稲妻から更に多くの魔力を放出した。

魔力を弾いた反動で吹き飛ばされたアキトは、うまく木に着地して地面に素早く降りた。

「危ない。」

間一髪で死の波動を避けたアキトは、リデアを探して瞳を彷徨わせる。

何かが、空気をきる音がした。

赤い、燻んだ色が、瞬いた。

「顕現魔法『バラサイカ』」

「っぐ!」

ガルドの振り下ろした赤い刃を、アキトは間一髪で受け止めた。


ーーーーー


魔力を分散させ、迫った魔力を防いだ。

チリチリと音がして、眼下に業火の演舞を見つけた。

「厄介な!」

分散させた魔力を圧縮し、小さいながらも靴底でその魔力を弾けさせる。

アキトがグレン戦で使った剣ほどではないが、空中で動くのにこれくらいの威力があれば問題はない。

しかし、避けた先の軌道には、打ち出された魔力が氷結の槍を作っていた。

「づあっ」

左肩を貫かれ、喘ぐリデアの鮮血が、氷結の槍を紅く染めた。

そこを逃さないアワリティアに、魔力片を打ち出し、後方へ撤退する。飛び散る血が森の葉を美しく染め上げた。

「貫け」

呟くアワリティアが掌を振り払い、その軌道上にいくつもの暗黒のゲートが口を開ける。

紅い閃光が線となり、歪む線が網のように張り巡らされた。それは、俗に言う、雷というやつだった。

大樹の断面を焦がしながら、確認すら難航する赤雷から逃げる。

ほとばしる雷が、リデアの足を搦めとる。

「しまった!」

体内を走る電雷に、意識は簡単に引き離された。


ーーーーー


赤い刀身に赤い柄、乾いた血のような色がナイフに張り付き、そのナイフを巨大化させたような両手剣で、最大の殺意を、最大の剣撃をガルドが打ち込んでくる。

ーーー遅い。

内心、そう呟いた。

グレンの最高級の剣技の一端を見たアキトにとって、ガルドの攻撃は受け流せるほどではないが遅かった。

ガルドの刃にアキトがひるむ。

想像以上の膂力によろめくアキトに、ガルドは大きくバラサイカを振り上げ、

「え?」

驚き半分恐怖半分。

ガルドは、怯んだアキトに強くない剣撃でもっと体勢を悪くさせるのではなく、わざと大きい振りをして逃した。

地面を蹴って逃走したアキトに、ガルドは忌まわしげに唸り、走ってくる。

「遅い」

肥えた脂肪が邪魔になり、ガルドの速度は遅い。

これが、グレンの言った事。強くなろうとしない者。

素人のアキトが剣を打ち合っているのも、相手のガルドが素人だからだ。

それでも、ガルドは顕現魔法により顕現した武器を使っている。

使える者が限られている魔法なだけ、ガルドのお粗末な剣技にアキトは反撃を仕掛けられない。

「でも・・・」

「なんだ?考え事かっ」

アキトが上を向いたのを思考と勘違いして、ガルドがバラサイカの刃を振り下ろす。

地面を抉ったバラサイカが唸り、土埃をあげた。

金の刃が、土埃を切り裂く。そして、

「ぬあっ」

跳躍したアキトが落下の威力と筋力全てで剣をふる。

噴煙での奇襲などで、素人の大振りは脅威になる。

「がぁっ」

バラサイカの切っ先でアキトの刃を受けるガルド。それは、全身全霊の力を一点に集中させる事になり・・・。

バラサイカとともにガルドが地面にひれ伏した。

土を浴びてなおこちらを睨み続けるガルド。それを気にせず刃を振る。

刃が捉えたのは、肉を切り裂く柔らかい感触ではなく、頭蓋を砕く硬い感触でもない。

自立浮遊するバラサイカの刃の感触だった。

「お前にはもったいない良い武器だな。」

皮肉を乗せた言葉に軽蔑を込め、アキトの嘲笑がガルドに届いた。

「負け惜しみか?」

下卑た笑みを浮かべガルドが云う。

ーーーマケオシミ?

心の底から笑みが溢れそうになる。

あの孤独の少女を救うために、アキトは今、命を張れる。賭けられる。たとえどんな攻撃からも、守る。

そして、望んだハッピーエンドを手に入れる。

「いつ俺が、負けたんだ?」

害意に反応して攻撃を防ぐ顕現魔法バラサイカ。その力を前にしても、この最弱は力を求めて向かい続ける。

力を求めて、少女を救うために・・・

アキトがつま先で跳ね、片方の足で大地を蹴った。

耳元で風が通り抜け、風切り音が耳朶を打つ。

輝く剣を後ろに引き、全体重を込めてバラサイカを叩く。アキトの剣の軌道は、後ろに引いた剣を前に振り、首に巻きつけ次の剣を繰り出す変わった剣技だ。

「なんだその振り方は・・・!?」

「剣道は習ってないんでな、スポーツマンシップに乗っ取らないで闘わせてもらう!」

「っぐ!」

体重がしっかりと掛かった強い剣、たった今考えた戦法。

スマッシュを叩き込み、弾かれたガルドが倒れる。しかし、続くアキトの剣は、嘲笑られるようにバラサイカに受け止められる。

バチリと音が鳴りバラサイカが弾かれた。

「!?」

「なんだ!?」

突然の落雷が、バラサイカを弾く。後退するガルド。

「え・・・?」

落ちてくる巨大な樹木が、ガルドを押しつぶした。

ズシンと地響きが鳴り響き、風圧に目を細めた。レリィの切断した樹木が、ガルドの無力化の決め手だった。


ーーーーー


「お前も月か。」

「そういうお前は女か。」

「あいにく性別で強さは変わらないらしいが?」

「案外可愛い顔してんなって事だよ。」

「表情と内容を合わせられたら良かったのに・・・」

「お前にんな事言われてもゾッとするだけだ。」

「あら、そう?今は口裏合わせて時間稼ぎした方がいいんじゃない?」

「ぐ・・・」

「図星?」

「うっせえ、俺の最強の秘策は時間が必要なだけだ。」


「なら、見せてその秘策。」

「断る。」


その会話をスタートに、アキトVSアワリティア戦が始まった。


ーーーーー


「ぐっ、れ、レリィ?」

「大丈夫ですか?」

ビリビリと痺れる指先に、体のだるさが最高値を叩き出した。

そして、鳴り響く戦闘の『音』。

「レリィ、アキトと入れ替わって闘う。その間、アキトから作戦を聞いて。」

「で、でもアキトさんは何も・・・・・・」

そう、アキトに作戦などない。

彼から聞いたのは枝を切り落とす予備作戦のみ。他のアワリティアを倒す作戦など、存在しない。

「レリィ。アキトは、颯爽と現れて敵を倒すヒーローじゃない。」

「・・・ぇ・・・と」

「でも、無責任に全部を助けるヒーローより、目の前の私達のために全力で闘うアキトの方が、私は好きだしヒーローだと思う。」

「・・・ですが」

紡ぐレリィの言葉に、覇気がない。

アキトのアワリティアとの戦闘は、危なすぎる。その思いが強いから。

「あなたにとってもアキトはヒーローでしょ?」

そうはにかんでリデアは行く。

ひーろー。ヒーロー。

多きを助け小を消す。でも、アキトは、1番に私のためだけに戦っている。

それは・・・


「信じるしかない。」


確信する。

レリィ・ルミネルカは、確信する。アキトなら、この絶望を塗り替えられると。

だった1つの突破口を、切り開き、突き進む。

「アキトさん!」

上手く戦線を離脱したアキトに、レリィが叫ぶ。

その声を聞き、傷を増やしたアキトが笑う。それは、とても悪い笑みで、きっと何かを思いついた笑みなのだ。


「ぶっ壊そう。この絶望を。」


弾ける笑みに、アキトが見惚れた。

涙に濡れる瞳。レリィにはもう迷いがない。アキトなら出来る。

「レリィ、この剣を持っててくれ。絶対そこから動くなよ。」

「はい」

そういってアキトが立ち上がった。

大きな背中に飛びつきたくなるのを我慢する。今は戦闘中だ。しかし、レリィのその心は、既にアキトの勝利を確信している。

走るアキトがアワリティアへと向かう。

「すっ」

不意打ちをした時に、脅威であるリデアではなく、アキトを先に襲った。それは、アワリティアに何かしらの理由があったから。

そして、今回の不意打ちも、さっきと同じように、最大の殺意を込めて・・・

「ッッ!」

バキン・・・と、ゲートからリデアの剣が飛来して、アキトの右胸を貫いた。

その隙に、リデアのマナがアワリティアを襲う。

吠える金のマナがアワリティアを串刺しにしようと迫る。それでも、グニャリと歪んだゲートには、全てが吸い込まれる。

「ご・・・は・・・」

血の塊を地面に吐き出し、立ち上がった。

唖然とするリデアに人差し指を口に当ててアキトが黙らせる。

アワリティアとて、アキトが痛覚を押し殺して立つなど考えられない。

指に血がつき、凄惨さが増した。すると、アキトはその指を地面に当て、掌を握り開いた。

ーーーここを、爆発させろ。

リデアが瞳の奥で本気かと問いかける。

此処は大魔石が1番多く大地を削っている所。1番大地が薄い所。

「くっ」

意を決してリデアが魔力を寄せ集める。

その動きに警戒し、アワリティアは追撃を開始する

寄り集まる金のマナに、紫紺の魔力刃が迫る。

「なぜ避けない!?」

避ける事を計算して射出された魔力刃は、リデアの肩を掠めるだけにとどまり、魔力を貯めて動けなかったリデアにとって、嬉しい誤算だった。

集まった魔力が、手中でうごめいている。

その魔力を、圧縮する。圧縮して、押し縮めて、逃げ場を求める魔力達は、実体化すれば大爆発を起こす。

薄くなった大地の一部に穴を開ける事ぐらい、容易い。

「「「はぁぁぁぁぁあああ」」」

巨大すぎる大質量の魔力達に、実体化させる。

天を貫く黄金の魔力が、大地を抉る。強欲一刀ですら開けられなかった大地の大穴を、リデアは作った。

もちろん、

「っ!!!」

ーーー最弱のための、最高のチャンスも。

後ずさるアワリティアに、アキトの掲げる刃が振り下ろされる。

「な・・・ぁ?」

アワリティアから声が漏れた。ただの最弱が、貫いたはずの最弱が、黄金の魔力を手に、自身の体を切り裂いたから。

それでも、アワリティアには、このぐらいの傷でも戦える『力』がある。

だから、その力を削ぐ。

「ぐぁっ!!」

振り抜いたアキトの刃が、アワリティアを弾き、空いた大穴に強欲を突き落とす。

ーーーまだ、

「ふ、ふはは」

アワリティアは、アキトとの初対面でこの穴と同等の高さから飛び降りた。

正面から笑みを受ける。アキトは確信する。アワリティアは、ここから落ちても死なないと。


ひとりでにアワリティアが落ちていく。

そして、気付く。

眼下には、崩落する土砂を浴びる、大魔石。

そしてその大魔石は、触れたものの魔力を吸い、絶命させる。

「気付かないで欲しかったな・・・」

アワリティアが顕現魔法を発動した。アワリティアの足元でできた魔法は、地上に戻るエネルギー。

鮮やかな水色の輝きが、黒い稲妻とともに放出された。

アワリティアに地上に戻りれれば、この作戦は成功しない。

だから、したくなかった決断を、アキトはする。1番の未来を掴みとれない作戦。

「アキトさん!?」

レリィの悲痛の声を聞き、大穴に落下する。手中に込めた金色の剣でアワリティアを叩き落とす。

浮遊感に内蔵が疼き、眼球の水分が飛ぶ。張り付いた喉で叫ぶ。倒すため、この強欲を刃で落とすため、

「喰らぁええええ!!!」

「お前は、どうして!?」

刃を心臓に突き立てた。

落下する力がアワリティアを貫き、膂力がその肢体を大魔石へと誘う。

そして、顕現魔法のゲートをすり抜けて、アワリティアが大魔石に打ち付けられる。

心臓を刺され、大魔石にマナを吸われる。

「づっ!」

落下するアキトは、やっとゲートから出てきた水色の魔力に体を押され、吹き飛ばされる。

光が射す地上に、アワリティアでなく、アキトが送り返される。

「ま・・・だ・・・!」

皮肉。アワリティアが放った魔法に吹き飛ばされ、アキトは地上に生還した。

それでも、水色の魔力は似ていた。あの少女の髪の色に、レリィ・ルミネルカの優しい色に・・・

「アキトさん!」

「まだだ、レリィやれ!」

空中に投げ出され、地面を這うアキトが叫んだ。

眼下の大空洞で、あの強欲は足掻いている。アキトの刺した剣を抜いて、いつ登ってきてもおかしくない。

アワリティアの魔力を吸い取り、その魔力を大魔石が貯蔵できなくなれば、大魔石は壊れる。

壊れれば、その衝撃でアワリティアは没する。それまで、何かでまだ縛っておかなければならない。

マナを使い、疲弊するリデア。外傷が深いアキト。

持っている。レリィは、その剣を抱えていた。

アキトによってアワリティアは大魔石に押し付けられている。

なら、レリィは剣をこの穴から落とすだけでいい。

「嗚呼」

確信する。

ーーーレリィ・ルミネルカは確信する。

走り、剣を投げる。

落下する剣を見て、レリィ・ルミネルカは確信する。アキトの、レリィのヒーローの勝利を。


アワリティアが魔石から離れ、落下する剣にそれを止められ、大魔石が爆発したのは、ほぼ同時だった。


7つの大罪囚。強欲。アカネ・アワリティアは、激しい爆音の中、この世界を去った。


ーーーーー


「アキトさん!やっと、あ、傷が・・・」

「大丈夫だ・・・お前もよくやってくれた。」

口を膨らませて、紅潮した頰もあいまり、少し幼く見えたレリィが云う。

「私の名前は、レリィです。・・・」

暖かな感情が、胸の内で弾けた。

それに共鳴して、涙腺が弾ける。熱い涙が頰を伝った。

「よくやった。レリィ。」

「はい・・・。」

両手で顔を隠したレリィが小さく呟く。耳は赤い。

「リデアお前もお疲れ、ありがとう」

「いいえ、討伐に協力してくれたのはアキトでしょ?」

「あ・・・はは」

平和な会話に花が咲き、

「ふざ・・・けんな・・・よ・・・」

憎悪を煮詰め、瘴気を漏らすガルドが、血塗れで立っていた。

「アワリティアが死んだら、こいつは俺に契約しろって言ったんだ・・・」

何が可笑しいのか、ガルドは顔を醜く歪ませて、ケタケタと笑った。

それに猛烈な嫌な予感を感じたアキトがレリィに叫ぶ。

「レリィ、逃げろ!」

「は、はい!」

鬼気としたアキトの声に危険を感じ、レリィが指示に従い樹林の中に入る。アキトを見つめる視線を残して。

強烈な瘴気が、ガルドから溢れ出た。

ーーーあれは、絶対に・・・


「マモン!」


リデアを抱えてそのまま駆ける。

レリィの入った樹林の方向。そこへ入ると、レリィが心配そうな瞳でアキトを射抜いた。

「アキトさん、あれは・・・」

「ガルドは魅入られたんだ、悪魔に。」

「そ・・・んな」

ガルドを見て、リデアが悲痛に顔を歪める。

「ガルドに魔法の才覚はない。せいぜい顕現魔法を1日1回発動するぐらい」

「それってあのいかにも暴走状態のガルドに関係ある感じ?」

「ええ、そんな人間があんな強大な悪魔と契約したら、死んだって不思議じゃない。死んだ方がましな状態にだってなるかも。」

「あ・・・?」

絶句する。

あんな簡単にマモンを使いこなしていたアワリティアは、只者ではなかった。

しかし、暴走状態のガルドには、どんな狡猾な手も通用しそうに無い。

近づいて範囲魔法でも撃たれれば、全滅しても何ら不思議では無いであろう。

「ちょと待て・・・!?」

「あ・・・れは・・・」

「あ、アキトさん。」

見慣れた漆黒の剛雷が、何かを形作っている。

ーーー巨大な、バラサイカ・・・?

紫の魔力で徐々に作られていくのは、変わった形状をしたガルドの顕現魔法『バラサイカ』。

あれに本当のバラサイカの効果があるとは思えない。むしろ、無い。あるのは、たったひとつ。大質量という武器だ。

あの魔力の塊が落ちてくれば、陥没はしなくても、アキト達を殺す事ぐらいはできる。

「大きさは、樹林の木とおんなじくらいか」

痛む体を叱咤して、アキトが立ち上がる。

いつの間にか、ガルドは頭を抑え地面に這いつくばっていた。

自由落下を、巨大なバラサイカが始める。

あれを止める。そして、ここから生還する。そして、ツリーハウスの景色をもう一度みる。

「リデア。世界再現魔法で土のマナを作れるか?」

「ま、マナを?それは、少し魔力が足りないわ・・・。実体のあるものならできるけど。」

考えろ・・・。

突破口はあるはずだ。最弱が、かき集めて、それでも足りなくて、偶然に偶然を重ねたのだ。

ここであっさり終わる事など無い。

考える。バラサイカを止める方法を。

攻撃して自動防衛で落下地点をずらす?

無理だ、あの剣に自動防衛はおそらく付いていない。何より、攻撃手段がない。

逃げる?

あの速度とあの大きさ。どう考えても逃亡は間に合わない。

アキトが最初に考えていた作戦は、リデアにマナが足りないから実行できない。

大魔石のようにアキトから魔力が吸えれば、使えたかもしれない。

ーーー大魔石?

繋がった。

最早物語のように張り巡らされていた要素が、ぴったりと繋がった。

大魔石でリデアが魔力を回復する。

もちろん、大破した大魔石を取る事など不可能だ。そして、そんな動きはできない。

「リデア。大魔石は再現できるか?」

「大魔石?小さい物なら・・・」

「それだ」

出来る。


ーーー世界再現魔法。希望の結晶。


淡く輝く光が、桃色の光であたりを照らし、紫紺のきらめきが顕現した。

リデアの両手に乗った小さい魔石。それは、竜伐第1聖であるリデアの再現魔法によって再現されている。

出来上がった魔石を地面に置き、リデアがアキトを見る。

「俺の魔力を使え。」

魔法など使った事もない。おそらく使えない。なら、溜まったマナ全部を魔石に吸わせる。

指先から感覚が麻痺してくる。

狼狽えるリデアを見る目に、焦点が合わなくなり、世界が暗くなり始めた。

倒れそうになる体に鞭を打ち、体勢を維持する。

水の中にいるように耳が聞こえなくなる。

くぐもった声が、わかったと言った。


輝く魔石を、リデアが手中で吸収させていく。

ーーー世界再現魔法。大地の加護。


「穴とバラサイカを・・・それで繋げろ・・・」

木を支えに、そう呟く。

掠れた弱い声に強く頷き、リデアがマナを操作する。

すると、アキトの体を柔らかな肢体が包んだ。

「レ・・・リィ」

「喋らないでください」

アキトを支えるレリィがバラサイカを見た。

「え?」

リデアとレリィの驚愕の声が、重なった。

一瞬にして、土のマナが穴の方から土に変化していく。

やがて強固な大地となった土達が、バラサイカの刃先にぶち当たる。

バラサイカの刀身が、その土によって阻まれた。

大魔石が破壊されれば、マナが放出され、そのマナが土へと姿を変える。それが、大魔石の調査結果。

リデアの生成した土のマナも、それと合わさって土に変化し始めたのだ。


「と・・・まれ」


弱い声、しかし、強い意志でアキトが言った。


突き進むバラサイカ。それを阻む土の加護。


ーーー止まれぇぇぇ!!


心の奥底から叫んだ。

ピタリと止まったバラサイカが風圧をこちらに送ったのは、停止の合図。

「と、まった。」

信じられないという表情でリデアがアキトを見た。

当のアキトはレリィの腕を突き、もう大丈夫と意思表示する。

おぼつかない足取りで、アキトが歩き出した。


レリィは、親を殺され、殺した男の下について働かされた。

屈辱、雪辱、殺意、それら全ての思いを押しとどめて、孤独に生きてきた。

その充分すぎる最悪の時間を、アキトが、終わらせる。


ーーーーー

俺が、終わらせる。

動くたびに骨が軋み、肉が裂ける。

脈動とともに血液が溢れ、意識も遠のく。

それでも、アキトはやらなければならない。

あの少女を助けるために、

あの少女の苦しみのために、

何より。

俺の、怒りのために。


走る。


「こ・・・ぞう」





「少しは分かれや、レリィの痛みを」


自殺すらも考えた、レリィという少女の痛みを、悲しみを。

分かれ!

跳躍して、振り下ろした。

アキトの拳がガルドを吹き飛ばした。

その拳には、2年の痛みと、レリィへの愛情が詰まっていた。

ーーーーー

レリィ・ルミネルカは、確信した。

この人が、自分の付いていくべき人だと。

恋をした乙女の付いていくべき人だと・・・。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ