222.【自分勝手な彼】
痛み。
ひりつく頰の痛みから、激痛を訴える左腕まで。雷のように駆け巡る痛みの数々は、ただひたすらに思考を痛めつけ、危機感を最大限に引き上げる。
どれほど己を強く持とうとも、覚悟を思い出そうとしてみても、朦朧とする意識の中で浮かんでくるのは、はっきりとした少年の姿ではなく、ぼんやりとした影だった。思い出すことすらできないくらいに、声が、髪が、瞳が、笑みが、悪態が、無理をした顔が、自己犠牲に走る危うさが、滲み出る優しさが、縛られている不安が。なにもかもが、思い出せない。
意識が落ちていく。暗く、暗く。
怖い。まるで、呪いを受けたあの時のように、まるで、途方もなく長い2000年の始まりのように。落ちていく。
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轟く雷がライラの心臓を貫こうとする。迸る雷撃の速度は、既に人間の反射神経では視認すらできない。しかし、少女は軽いステップでそれを躱し、通り過ぎる雷狼の脇腹に手を添えた。
砂埃を巻き上げながら突貫、どこかへ飛んでいく雷狼。しかし、その体は徐々に勢いを失い、体と世界の境界が曖昧になっていく。枠がなくなる。血みどろの内臓が、血液が、それらと世界を隔離していた決定的な狭間を、一瞬で消し去る。
雷狼は、たった一片の肉片すら残さず、文字通り世界に溶けた。
「境界破綻・・・!」
チスニプリウムを介す事なく、力のデータベースから技を引き出す。既に無意識化で行なっていたその能力は、チスニプリウムの実質上の進化を表す。
幼い足取りで向かう先。アイリスフィニカのツインテールは解かれ、無造作に散りばめられていた。血にまみれて物騒なグラデーションを模している髪は、焦げているところもあり、先の激闘を物語る要因となっていた。
しかし、なにより、その凄惨さを物語るのは。だくだくと流れ落ちていく血液の先。血の跡が伸びる。
「あ、あ・・・!そ・・・んな・・・」
無残に千切れ飛んだアイリスフィニカの左腕が、無残に転がっていた。
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止血。これまで何度もそれを経験してきたライラにとって、その工程は決して難しいものではなかった。それも一重に、みてきた怪我が千差万別、止血方法の見識が深まっていたからだろう。もちろん、己ではなく。己に仇なす者たちの止血を。
肩が爆発したかのような損傷は、肩と腕のどちらにもダメージを与えており、相当な力であったことがうかがえる。
それほどまでに、全力であった事がうかがえる。
既に青くなりかけている腕は、近くで拝借した袋に入れて氷につけている。
背中にアイリスフィニカを背負って、ライラは歩く。ひたすら、ただひたすらに。たとえその先に待ち受けるのが、自分を嫌わないでくれた初めての人間であったとしても、そんな少年による叱責だったとしても。そんな少年との決別だったとしても。
ただひとつ、考えた。
ーーー優しくされるのは、嫌だなぁ。
嫌われたくないくせに、優しくされることも辛くて。
自分勝手な自分が大嫌いで。自分勝手な彼が大好きで。
たどり着いた先で。アキトは、泣いていた。
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尊様の3Dだあああ!!
喜びに震えて執筆したけど展開的に全く明るくならず、若干病んできた、アクシデント・エンペラーです。明日は尊様のモデルの素晴らしさについて語ります。
とりあえず今日は、『めゐろ』さんの新曲に期待しときます。
暫し待つ!