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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
224/252

221.【英雄で在ろうとする事】

声は、少しだけ老いている印象を受けた。しかし、滲み出る何かが、圧倒的に違った。

金髪を揺らしながら歩いてくる男の姿を、アキトは視認することができていない。しかし、そのほぼ機能を失っていると言っていい耳も、通常なら大分良いと言えるものだ。その声を聞き分けることは容易かった。


ーーー街の入り口で会った・・・


口にしようとした言葉は世界に反映されず、脳内の寂しい自分の世界に反響するにとどまった。しかし、なにかを発しようとしたアキトの口元を見て、男は答えをアキトが出したと解釈。どっかりとアキトの横に腰を下ろした。

そして、


「んぐっ!!」


アキトの口に、無機質で冷たい、瓶のような物が突っ込まれる。そこからどくどくと流れる液体は、アキトの喉を潤すと同時に、視界を塗りつぶす黒を少しずつ消していく。

視界の端にうっすらと映るようになった世界は、相変わらず血にまみれた赤で、アイリスフィニカを思い出して心臓が締め付けられる。

そんなアキトの様子を知ってか知らずか、男が話し出す。


「魔力回復用のポーションだ。一応高級品のカーミフス産だからな、感謝しろよ?」

「あ・・・・ぁ、ありがとう・・・」


絞り出した言葉は、確かに言葉という型枠に入ってはいたけれど、文章と呼べるほどには構築されていなかった。しかし、それでも意思疎通には問題ない。男は豪快にはにかみながら瓶をアキトから受け取る。


仰向けに寝転がるアキトの横で、男が静かに話し出す。


「俺の名前はマクレアド。お前さんはアキト・・・で間違いないな?」

「あ、ぁぁ」

「さっきの嬢ちゃんが大声で叫んでたんでな、分かったんだ。」


初めて出会った時とは、すこし印象が違う気がする。しかし、それを口にすることは躊躇われた、というか不可能だったため、小さく肯定の嗚咽を漏らす。

たしかに、ライラの声は高くて大きい。何というか、アイリスフィニカの大人っぽい声と違い、ザ・幼女という感じがする。きっと響き渡るだろう。男、マクレアドに聞こえていても不思議ではない。


「さて、どこから話そうか。」


マクレアドは少し息を吐き、少しだけ声を潜めて話し出す。


「この世界の根本が、世界の技術の結晶体、それは分かってるよな?」


嗚咽で返事をするのも奇妙なため、肯定の首肯。ならば良し、とマクレアドが記憶を巡らせるように手を合わせて額に添える。

この世界が、技術を収めるための宝物庫。月によって生み出されたことだということは、先刻282から受け継ぎ、把握した情報である。マクレアドたちのような住民でも、しっかりそれは理解していた。


「技術を収める世界に、人間が生まれる可能性。それは2つだ。」

「・・・」

「ひとつは、技術だけが保管され、死んだ後に術者も世界に入ってくる例。」


これはおそらく、レイのような事例だろう。

様々な能力を有していた彼の技術が保管され、自害したその魂が、死後この世界に入ってきた。


「もうひとつ。人が、技術の一部だった場合。」


一瞬で理解する。この街が、きっとそうなのだろうと。

どんな技術なのか、なにを持って技術と呼ぶのか、しっかりとした確証は持たずとも、この街の住人が技術の一角なのだと。

そもそも、住人から魔力を集めている時点で、少しの技術が使われているのだから。

そして、そんな世界に誘われる人間は、やはり。


「俺たちは死んだ。だから、この技術とともに、ここに保管されている。」


ひとつ目の例と変わらないのだろう。この街に眠る何らかの技術が、先にこの世界に保管され、その後に死んだ技術の一角、彼らが、死後の世界とも呼べるこの世界にきたのだろう。


「まぁ、皮肉なことに、ここの王。技術を行使する人間は、まだくたばっちゃいねぇから、この街も技術とは名ばかりのハリボテなわけよ。」


荒々しい口調ではある。しかし、王を語る時のマクレアドの表情からは、親愛の感情がうかがえた。きっと、生前交流があったのだろう。そんな節々からも、技術の運用からも、王がどれだけ人としてできていたのかがわかる。

少しだけ微笑ましくなり、心が休まったのも束の間。疑問がポツリと浮かび上がる。


ーーーこの都市の技術とは、何なのか。


「まぁ、気になるよな。」


心を読んだように、マクレアドが笑いながら言う。そして、ゆっくりと立ち上がり空を指す。正確には、その空を突く、党を指す。

それこそ、ライラとともに登った、この街の核となる党。


「王は言った。ひとつ、使用者は男である事。ふたつ、そこに意志がある事。」


なにかの伝承だろうか。マクレアドの今までの口調とは異なる語り口調からは、ウドガラドにあふれていた冒険譚に通じるものを感じた。

一旦言葉を止めたマクレアドの表情、ほんの少しだけ見えたそれは、3つめの条件を言うことをためらっているような、そんな気がした。しかし、結局は堪えきれずに口を開く。

何かに期待するように。瞳を輝かせながら。


「最後に。使用者は、英雄であること。英雄で、在ろうとする事。」


煮えたぎる期待を鎮めるように、しかし、抑えきれない高揚感に言葉の端々を弾ませながら。マクレアドは言う。


「それは、英雄剣。」

「ッ!」


迸る電撃。それを拳で黙らせて、降りしきる雷狼の臓物に濡れながら。


「【エウロノア・ペイルダム】である。」


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