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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第1章【その最弱は試練を始める】
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21.【軌跡を壊して】

鼓動が鳴り響き、煩わしいほどに危険を伝えてくる。

当然。今日、アキトは死ぬかもしれない。

それでも、ここで決着がつくことは、分かっている。

知らない声、得体のしれない声なのに、妙な説得力がある声だった。

「ふぅーーー」

息を吐く。

光が差す。

アキトがこの景色を見るのは、最後かもしれない。

そう思い、眺める。ツリーハウスからの眺めを。

それでも、これまでみてきた景色にいた水色の少女が、今はいない。

それが、とても寂しくて、最後かもしれない景色にわがままを言ってレリィを起こすのは気が引けた。

レリィとリデアは、絶対に死なせない。何があろうとも。

すると、きぬ擦れの音とともに、景色が完成した。美しい、どんな絵画にも負けない麗しい景色が。

「レリィ。」

「おはようございます。」

笑顔でレリィが挨拶し、見惚れていた意識が戻ってくる。

レリィは、申し訳なさそうに笑い、

「怖いですか?」

ああ、と心の中で息をついた。

本当に決戦に挑む前、異世界では優しい問いをされるのだろうか?と。

主人公のように、いいや全く怖くない。とか、輝かしい未来を想像するとか、そんな度胸はない。

「怖い。めちゃくちゃ怖い。だけど、なぜか落ち着いてる。」

そう言うと、レリィはアキトの言葉に一瞬驚き、ふふっと声を漏らした。

ずるい少女だ。

ここでそんなにいい笑顔で笑われると、こちらが恥ずかしい。

「がっかりか?」

「いいえ。」

「悪いな。」

「どうしてですか?」

すっと息を吸い、レリィが云う。

「感謝します。ここを救っていただけて、私も・・・」

最後は聞き取れなかったが、最初の救ってくれる戦いにレリィを巻き込む事も謝っている。

しかし、もう1つの意味で、アキトは謝っている。

今は分からないだろうけど。

「1つ。辛い話をしていいか?」

「?」

疑問符を浮かべるレリィ。

その後、レリィは力強く頷いた。本当に強い少女だ。

「昨日、俺が待っとけって言ったろ?」

「ガルド様の家から出るときの事ですか?」

アキトは昨日のガルド宅で、リデアとレリィに外に出てもらいガルドと話した。


ーーーーー


「なぁ、ガルド。」

「なんだ・・・」

「指紋って知ってるか?」

「?」

言葉に一瞬首を傾げ、訝しげな目をガルドが向けた。

ガルドが指紋を知っているはずがない。これは、日本、地球、元の世界での技術だ。

少し古いが、指紋認証や顔認証を使っている人は少なからずいた。

「指紋ってのはさ、」

そう前置きして、アキトが立ち上がる。

警戒したようにガルドが口を開くが、アキトは気にせず窓へ向かう。

その窓に息を吹き、曇らせる。そこに自分の親指を押し当て、ガルドに見えるよう半身になった。

「これだ」

「?」

ガルドが自身の親指を見る。

アキトの見せたものと一致する線があるのを見て、ガルドがまたしても首をかしげる。

真剣に話始めたアキトが人体のノウハウ的な事を言いだせば、疑問符が出現するのも伺える。

「これ、人によって違うんだよ。」

消えかかった自身の指紋を指し、アキトが笑った。

アキトは、レリィを救うため、人間の醜さも知らなければならないと考えていた。

もちろん1番の理由は義務だ。

ユルドの死因を調べる。

分かりきった事ではある。

「ユルド様の残した遺書。そこからユルド様の指紋が出なかったら、おかしくないか?」

「・・・!貴様、まさか!?」

「お前が殺したんだろ、レリィの部屋で。」

ユルドの指紋をアキトは持っていない。

さらに、指紋はどれくらいで消えるのかも知らない。

たから、ハッタリのカマかけ。

「遺書からユルドの指紋が出なかったら、ユルドは殺されたって事になる。」

「・・・。」

黙った。


ーーーーー


「あの扇子。あれはお前からのユルドへの贈り物か?」

「はい・・・・・。」

ショックに瞳を震わせるレリィ。

しょうがない。尊敬した父が愛した息子が犯人だった。

「人間は、ここまで残酷になれるんですね。」

「・・・」

「自分の利益の為に、平気で親も殺すんですね。」

耳が痛い。

しかし、アキトは絶対に違うとは言わない。

アキトは、自分の生存という利益の為に、命の恩人のリデアを殺そうとした。

「そうだ。」

「っ。」

簡単に肯定され、強い瞳で悪を認められ、レリィの瞳に涙が浮かぶ。

それでも・・・

「それでもっ!」

お前は・・・

続けようとすれば、心が吠えていた。

親の死の真相を知り、涙をこらえる少女を見て。

「お前は・・・知っているはずだ。人の暖かさを。」

「ぁ」

レリィの瞳が、物語る。


ーーーーー


アキトという少年は、私を助けようと、叫んだ。

そして、私に暖かさを教えてくれた。

孤独の2年間。これからも続くと思っていた最悪の一生を、やめさせる為に。

最悪の人生の軌道を、アキトはぶち壊そうとしてくれた。

約束を違わず、一緒にこの景色で1日を始めた。始めてくれた。

あの日から変わった数日が、楽しくて仕方なかった。

それを伝えるのが、楽しくて。私は、この人に軌跡を壊されて、心を奪われた。

それはとても良い意味で、命をかける背中が、強かった。

「知ってた。私は・・・。」

「・・・・・・。絶対にお前とリデアは守る。」

自分の中の最強が、名前を呼んでくれなかった事と、私だけを守ると言ってくれなかった事に少し不機嫌になり、


ーーーーー

決戦前のレリィは、楽しそうにはにかんだ。

次回、アワリティア戦決着。

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