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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
216/252

213.【今も、ずっと】


「結局2人とも倒れたけど、レヴィアタンが勝ったよ!」

「ユルカナミシスを・・・倒したのか!?お前の悪魔が!?」


現時点でのアキトたちの目標のうちの1つ、ユルカナミシスの討伐。正直、刃を直接交えていないアキトにも、あれをどうにかできるのでは?という希望的観測は難しかった。しかし、拙くたどたどしい少女から語られた簡潔な内容には、それを簡単に成し遂げてしまうような説得力があった。


どう反応していいのかわからない。

思わぬ幸運に歓喜に身を震わせればいいのか、油断をするなと自分を戒めればいいのか。


強くなるチャンスを、潰し抉る自信を勝ち取れなかったことを、安堵してしまいそうな自分を、


ーーー詰ればいいんだろうか。


結局。現れたのは暗く重苦しい、険しい表情だった。


そんなアキトの表情を悟る余裕もなかったのか、わざと顔に陰を落としたからか、アイリスフィニカたちはアキトの憤怒とも取れるような表情に気付かず、百合百合しく敵の減少を喜んでいた。


アイリスフィニカも、今までの道のりで、少しは慣れたのだろう。ライラと接する時に、ほとんど全身を硬ばらせることが少なくなった。アキトがクールタイムを作っているというのも、大きな要因ではあるが。

それに和やかな笑みを向けられるほど、アキトの心中は穏やかではなかった。


自分の感情が、わからない。


鏡を見れば、自分の表情が分かるはずだ。心に手を伸ばせば、感情が分かるはずだ。

鏡を見れば、仮面に覆われた表情が見える。心に手を伸ばせば、何もない空間が広がっている。


分からない。


心に広がっているのが不安なのか、苛立ちなのか、憤りなのか、はたまたただの勘違いなのか、悲哀であるのか、喜色であるのか。

体のなかで縛り付けられている感覚が、心はどこかと問われた時に、きっとそこにあるのだろうなと思う場所が、ギリギリと締め付けられているような。

鼓動のたびにその謎の感情が、思考のたびにそのマイナスな心が。


全てが、全身全霊でアキトを沈ませようとしてくる。


そのマイナスな感情の取り壊し方が分からない。この感情をどう乗り越えればいいのか分からない。その感情がなんなのか分からないから、そのマイナスな感情から抜け出せるか分からないから。

募り続ける『何か』が、染み出した不安とともにアキトをおとす。


「アキト・・・?」


普段の男勝りな声は鳴りを潜め、眉をひそめる整った顔立ちの表情から、本気で心配しているのが伺える。そんなアイリスフィニカの声からは、抑えきれない慈愛の感情が感じ取れて。

ひと時の気休めではあったけれど、少しだけ気分が和らいだ。


ーーーーー


予期せぬレヴィアタンの勝利報告。ライラの口から語られた幼げなそれらを、咀嚼して飲み込んで、理解という言葉が当てはまるぐらいに定着させた頃。


「うわ"、キツ・・・」


トイレで蹲るアキトの姿があった。


この世界のトイレは公務員的存在の役職の方々(水流局)によって作り出された水によって清掃、排水を行なっている。アキトのいた世界でのトイレの仕組みについても、よく理解していなかったが、こちらの世界でもよく分かってはいない。大まかな説明としては、水流局から流される水がパイプを通じて循環。トイレの場合は駐留する。そして、トイレ付近に取り付けられた魔道具に魔力を注ぐことで、水流操作プログラムが自動的に発動し、水洗トイレというものを形作っている。

他にも、説明し始めればキリがないほど概要があるが、別にトイレソムリエになろうとしているわけでもなく、ただの興味本位だったため、アキトの知識はそれくらいだった。


いや、長々と真面目にトイレについてアキトが考えたのは、ただの現実逃避だ。生粋のトイレフェチとか、トイレ飯しすぎて愛着が湧いたとか、そんなマニアックな理由では断じてない。


理由は至極単純。

体内を循環するはずの魔力が、圧倒的に枯渇していた。


この世界の体内魔力の定義は、ほぼ血液と大差ない。強いていうならば、それを貯蓄するかしないかだ。

通常、魔力は全身にある魔力と結合した細胞から生み出され、酸素のように体内を循環する。これによって、同じく酸素のように恩恵を届けてくれる。

酸素が生命活動の維持を届けてくれるように、魔力は、治癒から健康まで、あらゆる恩恵を届けてくれる。だからこそ、この世界の人間たちは、アキトより肉体的スペックが元から高い。

そして、全身を回って恩恵を配り終えた魔力は、体内に形成されている魔力製備蓄器官。通常タンクに貯蓄される。


リデアやファルナ、アミリスタたちの魔法発動は、このタンクから魔力を取り出し、血液の中に散布。血液中に刻まれた才能がそれを喰らって魔力を伴った事象を起こす。しかし、余裕のなくなってきた場合やタンクに魔力が貯蓄されていない場合は、体内を循環する魔力をそのまま血液に与えることになる。つまり、行き渡るはずの場所に魔力が行かなくなるということだ。

結論からすれば、アキトは今、その状態である。


高純度の魔力で作られたタンクを使って魔法を発動、イラ討伐の牙にしたアキトは、タンクを持たない。余った微小な魔力は漏れ出て、使える魔力は常にゼロ。無理に魔法を使おうとした場合、循環させないといけない魔力を使うことになる。貧血の数百倍辛い代償とともに。


そして、それをアキトはしてしまった。

対レイヴン戦。アキトは、残ったタンクの残骸の魔力と、循環しなければならない魔力全てで刃を作った。もちろん、貴鉱石に溜めていたものも含めて。その代償は、今も顕著に表れている。


今も、ずっと。

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