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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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212.【全力で全身全霊の滅ぼし合い】

レヴィアタンのヴェラズアニアから放たれた数々の爆炎は、太陽の如き輝きで世界を蹂躙し、ユルカナミシスを討とうと全身全霊で牙を剥く。

幾多にも別れた光の軌跡が、ユルカナミシスの肉体寸前に作られた水の障壁に遮られる。魔力の純粋なエネルギーに侵され、その障壁が粉々に爆砕。散り散りになって眼下に降り注ぐそれを見る間もなく、再びユルカナミシスが矛を作る。しかし、そこに攻撃の意思はない。

ゾッ、と。信じられないほどに本能をかきむしる瘴気が、一呼吸置いてからユルカナミシスへと訪れた。

ゆっくりと、しかし確実に障壁を蝕みながら進む瘴気は、その水達を途轍もない重量で押しつぶし、眼下、奈落へ消し去る。


一撃のあと、レヴィアタンは追撃のヴェラズアニアを振り上げない。


ユルカナミシスが吠える。常人なら吹き飛ばされて粉々になってしまうほどの衝撃波。それを叩きつけてなお作られたのは、水魔力エネルギー、容易くレヴィアタンを飲み込む力が、再びレヴィアタンに。

そして、レヴィアタンがそれを叩き割る。霧散する魔力が消えないまま、ヴェラズアニアから巨大な魔力球が叩き出される。残像が歪むほどのスピードで飛来するそれを咆哮の衝撃波で殺し、瘴気を死雨で貫き尽くす。


また、ユルカナミシスが、それをまたレヴィアタンが。


撃ち、撃たれ、討とうと、討たれまいと、その闘志を打とうと、その闘志に報いようと。死を乗せた応酬の数々が、化け物の間で交差し合う。


ユルカナミシスの青い絶望の輝きが。レヴィアタンの、紫紺の薄暗い破滅が。それぞれの何もかもを消し去らんと乱舞する。

己を殺す力を全力で噛みちぎり、己に仇なす敵を全力で屠る。その心身の切り替えに、大した差はない。それほどまでに、彼らは力を超越している。


終わることのない連撃。死雨の連続する貫通攻撃。振り切るヴェラズアニアが切り裂き、くるくると回した勢いのまま、切っ先から瘴気とともに輝きが漏れる。撃たれる。


何重にも張り巡られられている海龍の絶大なる結界には、僅かな亀裂ほどしか与えられず。されど、ヴェラズアニアの最強の流れる流儀に攻撃が当たるはずもなく。

絶対に殺す龍と、絶対に殺せないと称される悪魔の戦い。


相手の攻撃が届くまで、なにもしない。

相手の全力を全力で叩き潰して。相手の全身を全力で叩き潰す。それを繰り返すだけ。しかし、決着がつくことはない。いまだ、1発1発が世界に轟く化け物同士の応酬に、終わりのコングが鳴り響くことはない。

いつしか、心に在るのは燃える闘志と喜びだけ。


全力で、全身全霊で、己の最高で、滅ぼし合う。

それほどまでに楽しいことがあるだろうか。彼ら破壊の権化に。

全力の滅ぼし合い。


『燃えるだロ!』


呼応するように、ユルカナミシスの咆哮が世界を貫く。


『もっと、モット、モットもっトもっとモっトもっと殺し合おうゼ!全力デ!!』


降りしきる死雨の中を駆ける、己に顔を向けた命知らずのそれらは全て撃ち抜く。滅ぼし尽くす。

蒸気を吹くほどに赤熱化する己の武器に笑い、それに笑いかえすように瘴気が勢いを増す。


『ヴェラズアニアァア"ア"ア"ア"』


ヴェラズアニアを握るレヴィアタンの手が肥大化、ヴェラズアニアから伸びる禍々しい蔦が、その腕を蝕む。

刹那、レヴィアタンの右腕全てを包み込むような機巧的なほど巨大化したヴェラズアニアが姿をあらわす。


空気を焼き尽くすほどに、ピリピリとした殺意が手に取るようにわかる。そんな害意と悪意の飽和空間を、雄叫びをあげて切り裂く。

立ち上る瘴気が勢いを増し、その全てが進行方向をユルカナミシスへと定める。蜘蛛の巣のように張り巡らされた瘴気の中心で、ヴェラズアニアが火を吹いた。

絶大な魔力エネルギーの放出、進むその力に、すでに抵抗力はないに等しい。


甲高く翻る咆哮が、同じく巨体を揺らし、何百と張り巡らせた障壁をさらに増やす。


ヴェラズアニアの咆哮の牙は、それだけで抑えられるはずもない。

ガラス窓のように破られる障壁が、紙のように破られる障壁が、土壁のように崩れ去る障壁の音が、近づいてくる死を知らせる。


ーーーグオ"オオエア"アアァ"アァ"!!


ユルカナミシスの皮膚から百を優に超える死雨が撃ち出される。歪曲するそれらは幾何学模様に折れ曲り、瘴気とともに迫り来る魔力を全方位から撃ち抜く。貫き、殺し、燃やして、殺して、貫いて、滅ぼす。


ーーーー消し去るッ!


しかし、眼前にすでに存在しているエネルギーを見て悟る。

ユルカナミシスは全てを悟る。己の敗北を悟る。レヴィアタンの瞳に焼き付けられている。その敗北を。そして、左の禍々しく肥大化した一本目のヒレを盾がわりに掲げる。


貫くことはできなかった。しかし、爆砕の威力だけで、ユルカナミシスは黒く焼け焦げながら墜ちた。


そうして間も無く。レヴィアタンの視界から色がなくなった。

魔力切れのショック現象。双方傷に変わりはない。しかし、敗北という概念だけは、ユルカナミシスが背負うことになった。

それが、ただそれだけが、輝きの乱舞の、結果である。


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