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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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209.【己の未熟を己の弱さを】

横道に入り込んだ男の後を追い、痛む足を叱咤しながら半ば執念で疾駆。かき分ける人混みがなくなり、目の前に広がる道の先。

数多の建物に阻まれたそこは、完全なる行き止まりだった。

ここまでは、計算通り。

アキトが失敗する確率の高い、更に言えばリスクが大きい賭けを、身の程を弁えずにどうして2度も使ったのか。それは、この道に行くことが、うっすらと確証として残っていたから。

アキト達が入った入口の真正面、大きく広がる商店街とでも呼ぼうか。そこには、うんざりするほどの人の数と、露天商で塞がれていた横道が見えた。そして、男が逃げ出した方向は、まさしくそこ。

この道と、あと十数個の道の中で、行き止まりになっているものは全体の6割りを占める。

ここでこの男と一騎打ちになることは、半分意図せず起こった決定事項だった。


「あぁ、ガキ。この中に入ってる宝石、山分けでチャラってことにしないか?お前からはなんか、瘴気が見えるんだよ。」

「瘴気・・・?」

「・・・・・・吸血鬼。違うか?」


男には、何かがアキトから見えたのだろう。炎系の魔力制御には、炎のように揺れ動く魔力を制御するため、極めて優れた魔眼とも呼べる能力が、ほとんどの場合備わる。それによって、アキトに混じっている吸血鬼の瘴気が、視認されたのだろう。


「そうだよ。だけど、半分じゃダメだ。お前の身柄を拘束する。そんぐらいしないと、割りに合わないだろう?」

「なるほど、交渉決裂だな。」


手に灯る赤い魔力3つの炎の魔力弾は、その周囲をチリチリと焦がし、己の燃える力さえも推進力に変えてアキトを射抜かんと迫る。

1つはアキトの背後で蒸発。残り2つはそれぞれアキトの両足に向かって進撃。


「っ!!屈縮術!!」


ギリギリと引きしぼられる筋肉、最小限の力で、最小限のリロードスピードで。最小限のリスクで。

両足の筋肉が悲鳴をあげる。もう無理だと、弱音を吐く。同じく、脳内で弱々しい自分が声を紡ぐ。アキトにそっと耳打ちする。

諦めよう、と。


左足に、鋭い痛み。右足、何もない。いや、生み出された、力。

右足から地面に打ち出される筋肉の波動が、アキトの軟弱な体を浮かす。所詮発動したのは右足のみ。浮いたアキトの体の下を炎が通り抜け、白煙を撒き散らしながら消える。


土埃を立てながら、小さな冷や汗をかきながら、早まる鼓動に苦笑いしながら、五体満足のアキトが地面に降り立つ。

屈縮術はリスクが高い。使えない。

正真正銘アキトが元から持っていた、付け焼き刃でない力で。足の力で、踏みしめた靴が波打つ。


「ぐっ!!」


顔をしかめた男が、更に炎を量産。銃弾の如く打ち出された数々の炎の流星を、眼前に迫る煌々とした力の存在を。脱ぎ捨てた上着を盾に、全て防ぎ切る。

燃える服に構わず、そのまま走る。燃え広がる、燃え続ける、炎が猛威を振るう時間が流れるほど、アキトの手に伝わってくる熱も大きくなっていく。


ーーー熱い熱い熱い熱い!でも、まだ!


「耐えろぉ!」


根性だけで熱に耐え、涙に潤んだ瞳で距離を測る。

男にその炎の塊を、投げつける。

男の放つ炎がさながら流星だとしたら、アキトの放り投げた上着は、燃えながら世界を蹂躙し尽くす落星。轟く炎の軌跡が暗がりを照らし、眼前に現れた炎の圧倒的存在感に、男が言葉を失う。


「がぁああああ!!」


そして、燃え広がる炎が、その全身を包んだ。

現実はそんな都合良く進まず、アキトの袖にも燃える炎が痛みを植え付ける。


「熱っ!」


戸惑い慌てながらそれを叩き消し、男を見る。

幸いにも、ひったくったバッグは手放されており、路地の暗がりの奥で横たわっていた。それに安堵したのも束の間。落星に撃たれて蹂躙され尽くした男の体が、ゆらりと動く。


「クゾ!ガキがぁあァ!」


刹那、反応の遅れたアキトの顔面を、炎に赤く彩られた拳が貫いた。


「がっ!!」


脳を揺さぶられる、そんな表現を身をもって体感し、脳どころか己の全てが震えるのを感じる。

気付いた時には、己の頰が地面に触れていた。

殴られた痛みはすでに余韻と化しており、ジンジンと伝わってくる痛みと倒れるまでの記憶の不明に困惑する。が、そのままでは、やられる。


ーーー根性、だせ!!


「ぐあああ!!」


狂乱する男の拳の炎が、弧を描きながらアキトを追撃する。

全力で後退しながらそれを避け、反撃に転じようと拳を構える。


アキトの性格。それは、冷静ではない。冷静を、装おうとする。

燃え盛る怒りを、連なる痛みを、対象に対する殺意を、冷静でかき消そうとする。だから、漏れ出した怒りの感情は、アキトを馬鹿な選択肢へと導く。未熟なアキトには、己の拳の弱さがわからない。弱いアキトには、己の遅さがわからない。


深くえぐりとるように叩き込まれた拳は、凄まじい衝撃をアキトに伝え、壁に激突しながら倒れるアキトへと、嘲笑するように揺らめいていた。

家の周りの道に、えげつないほどの蜘蛛の巣が張り巡らされていてキレそう。最近1番驚いたことは、キリンレモンのデカイペットボトルがあったことです。以上、アクシデントエンペラーでした。

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