20.【善と悪の最後の一夜】
「いいか?場所は俺が監禁されてた、でかい岩の近く。大魔石の所に行くには必ずここを通る。」
アキトやレリィ、リデアには、あの謎のスイッチを作動させ、木の入り口を開ける事は出来なかった。
そのため、現れるアワリティアを殲滅するために、アキト達はここで待ち伏せの計画を立てている。
「でかい岩の下、まぁ、少し横の地下に、丁度魔石が置いてある。」
「まさかアキトが先に魔石を見つけてたなんて・・・。」
「俺も最初は勘違いかと思ったんだが、ここまで証拠が出ると」
「そうですね」
静かにレリィが肯定し、魔石防衛作戦奇襲部隊はここに待ち伏せする事になった。
ここ以外に怪しい場所がない事と、この現状証拠で、魔石がここにあるのは確定である。
アワリティアがいる可能性も考慮してリデアに魔法を用意させていたが、杞憂だったようだ。
たどり着いた魔石の上の大地に、アワリティアはいない。アワリティアどころか、近くに木々すらない。
「グレンって奴とアワリティアが戦ったのはここだな。」
「そうね・・・」
「はい」
苦笑するアキト達、なぜなら、あたりには興国兵達を一瞬で葬れるだろうほどのマナの一撃が、一面をえぐっており、国宝級の顕現魔法でも使わないと出来ないのであろう大きすぎる一太刀がそれを切り刻んでいた。
グレンとアワリティアの決戦の傷跡が、ここにはとんでもない攻撃力で刻まれていた。
「こりゃ大陥没の時期が近づいたで済んでよかったな。」
このまま陥没しても良さそうな大地の有様にアキトが呟き、それに賛同し、リデアとレリィが頷いた。
大惨事が暴れたここに奇襲場所が定まった事に、アキトは内心困惑していた。
声は言った。決着の地は、大魔石のある地下空間だと。
アワリティアかアキトが死ぬのは、あの地下空間なのだ。
何かがある。
「それにしても、こんな戦闘をしたのなら、アワリティアも相当疲弊しているわよね?」
「そうだろうな。だけど、お前も疲弊してるんだからな」
アキトが痛ましげに瞳を伏せ、リデアがええ、と口ごもる。
決戦は明日。このまま村に帰り、レリィのツリーハウスでアキト達は眠る。
作戦は奇襲。失敗すればリデア達とアワリティアとで交戦し、なんとか勝利する。
策は無い。力も無い。しかし、この少女を守るという気概は、アキトはありすぎるほどもっている。
終結の決戦へ、残り一夜。
ーーーーー
「すまない。」
「いいわ、計画がバレても、あの女は今手負い。失敗などしない。」
漆黒の美女のその言葉に、自身の力が含まれている事を知っている。
ガルド・カーミフスは知っている。
「バラサイカは使える。」
「あの黒いガキは頼んだ。」
「ああ。」
アワリティアの容姿は、美しい。しかし、黒い髪、透き通る黒瞳、若干の常識の齟齬。
ーーー似ている。
アワリティアとアキトは、似ている。
ガルドの脳裏に、アキトの勝利の宣言が思い出される。
たくさんの試練があり、それがまとまっているなら、好都合。チャンスだと。
奇襲をすれば、殺意を感じれるアワリティアに守られる。アワリティアを倒す事も出来ない。
そのまま交戦に移ったとて、最初と今、アワリティアとリデアの力関係に変化はない。
負担の少ない世界再現魔法を1回くらいなら使えるであろうリデア。
マモンという世界の害悪を使えないものの、顕現魔法『その強欲は刃を求める』という吸い込んだ物を吐き出せる魔法によって、アワリティアの優勢は変わらない。
あのアキトが能力を発現するなどという非常識な事を、◼︎◼︎王は許さない。
レリィに何かの能力があるという事もない。
不足は、何もない。
「ガルド、これを」
「・・・これは?」
差し出された紫紺の結晶に目を走らせ、アワリティアをガルドが見る。
「契約結晶。精魔士が精霊と契約を結ぶ物を改良した。」
「?」
「人と人が契約を結べるようにな。」
契約結晶を簡単に、改造したと言うアワリティアに、ガルドが驚愕する。
そんな魔法力があり、あの強欲一刀という武器があるのにも関わらず、傲慢、強欲、色欲、怠惰、暴食、嫉妬、憤怒の大罪囚の中で最弱と言われているのがアワリティアだ。
最強である傲慢の戦闘力は、計り知れない。
「なぁ、悪魔との契約は、どんな気持ちだ?」
「ろくな事にならない。悪魔と強制的に契約させられ、7つの大罪囚として指名手配だ。他の奴らだって、そう思ってるはずだ。」
「・・・」
「私は違うが、嫉妬の大罪囚のライラ・クラリアスは、ただの町娘だったそうだ。なんの罪もないな」
気になって聞いてみたものの、悪魔との契約で手に入れた力は強大でも、受ける境遇は辛い。
ただの町娘が、一瞬で世界の脅威として命を狙われる。それが恐ろしい。
ガルドにも、それぐらいの心はあった。
「ライラっていう女は、なぜ悪魔に魅入られた?」
「周りから嫉妬されていたから」
ただ周りに嫉妬されて、それだけで悪魔は少女を選んだ。
言葉を失うガルドに、アワリティアが言う。
「話を戻そう。この結晶には、ある契約が入っている。魔石を半分にする。それを違えた者は、マナを狂わせられて死ぬ。」
「これを・・・どうするんだ?」
「中にマナを注げ」
言われた通りに手を添えて、マナを結晶に注ぎ込む。
見れば、アワリティアの手からもしっかりとマナが注がれていた。
マナの動きを見せたのは、しっかりとマナを注いでいると言う意思表示なのだろう。
静かに行われる契約で・・・決戦まで、残り一夜。
気づくと、アワリティア決戦の話が長くなりそうでした。アワリティア決戦と1章ラストの話(22.、23.)は、同じ日の7時と19時に投稿します。