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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
206/252

203.【希望の道は選べない】

遅れました。すみません!後半演説みたいになってますが、アキトのやつです。

「どうしてここに、・・・グレンの月界が・・・」


見開かれた瞳は、その目に焼き付けられた景色が本物なのかを確認する為。震える瞳は、心の中で警鐘を鳴らす本能に、静まってもらう為。

大罪囚序列第2位、『嫉妬』ライラ・クラリアスは、ゆっくりと目を閉じた。


ーーーーー


「な、なぁ・・・アキト・・・・・・その・・・・・・」

「ん?どうしたんだ?ああ、着替えるんなら言ってくれ、下のロビーで待っとくから。」

「ちょっと待て!」


平然と答えながら扉を開けるアキトに、若干頰を染めながら、赤い髪の少女が声を張り上げる。

それを聴きながら、耳に両手を当て、訝しげな表情でアキトが尋ねる。


「なんだ?別に大したことないだろ?部屋が一緒なくらい。」

「大問題だ!」

「しょうがないだろ、この宿には一部屋しか残ってないんだから。」

「そ、そうだけど・・・あ、アキトが、・・・その・・・あの・・・」


妙に歯切れの悪いアイリスフィニカに、一層困惑の表情を深めるアキト。伊達に心を捨てていない。アイリスフィニカの汲み取って欲しい意思をとてつもない精密性でかいくぐっていく。

そんなアキトに業を煮やしたアイリスフィニカが、覚悟を決めて息を吸い込む。


「アキトが、襲ってきたらどうするのっ!」


はぁ、はぁ、と息を切らしながら、真っ赤な顔でアイリスフィニカがベッドに腰を下ろす。

大したことはしていないが、精神的な面での大冒険だったろう、きっと彼女は魔王さえ倒しているはずだ。賞賛したい。


「別に、嫌・・・じゃ、ない・・・けど、その・・・アイは、ちゃんとしたときにしたいっていうか、その・・・!」

「馬鹿野郎、俺にそんな勇気あるかよ。」


随分と冷めた態度でそう言われ、


「んん〜!!」


アイリスフィニカは真っ赤な顔でベッドに突っ伏した。


ーーーーー


前世、いや、前世界。それは、美しい物に囲まれ、何不自由ない物に囲まれ、不満しかない全てに囲まれ、進化したくてもできない、醜いものたちの掃き溜めだった。

そんな世界の全てがそうであったとかは知らないが、残念ながら己の周りに広がっていた世界には醜いゴミの山が広がっているだけだった。ちっぽけな自分にとっては、この世界と呼ばれるものは自分の周りだけで、自分のことで精一杯だから世界情勢だとか政治だとか、そんなものは見えないし、見たくもない。この世界は確かに広いが、この世界で生きているのは自分で、自分というちっぽけな存在に見えているのは自分の周りの世界だけ、この世界は自分の周りの狭い世界だ。

だから、たとえ星空を見ても自分の悩みはちっぽけに思えないし、馬鹿らしくなることもない。いつだって全身でその不安に打ちのめされて、苛立って、ときには自分にさえ爪を突き立てる。人間はそんな馬鹿な生物だ。たとえ宝のような夜景を見ようが、広大な海を見ようが、霊峰からの眺めを見ようが、それは変わらない。

この世界で何かを感じて、考えて、醜い生き恥を刻み回っているのは間違いなく自分だ。


だから、世界というのは簡単にすり替わる。

黒歴史をスピーカーに流してガンガン痛々しい自分を売り込んでいた小学校も、6年経てばその恥ずかしさに気付き、面倒臭い人間関係の中学校に突入していく。自分の痛々しさに気づくのが割と早かったのが幸いして、中二病にかかることもなかった。なぜなら小二病でエネルギーを使いきっていたから。

そして、高校のテリトリーでなんの気なしの3度目の学校世界を過ごしていたとき、自分の人生史上最大の世界変化が起こった。


人間の平均戦闘力は高いし、性格の良い悪いの振り幅がエベレストを優に超えるし、苦労度に至っては前世界とは比べ物にならない。

だけれど、少しだけ、楽しいと思えた。

前の世界よりも疲れるし、流した血の量は比べ物にならないし、痛覚は倍どころの話ではないくらい働いているのに、反比例してこの世界は楽しい。そして何より、冷たくて、苦しくて、最悪で、暖かい。


心を地面に叩きつけ、戦う力を得た。己の表情に鉄仮面を縫い付け、感情を隠した。全部戦うためだ。立ち向かうためだ。彼女たちを、守るためだ。だけれど、みんながそれは間違っているという。

落としてきた心を踏みつけて、ぐちゃぐちゃにした未来の自分が攻めてきた。鉄仮面をつけたまま生き続けてしまった自分の未来の姿を、夢で刻み付けられた。


分かっている。

このまま心を棄て置いたままだったら、鉄仮面をつけ続けたままだったら、自分は彼女たちの想いに気付けないし、願望も分かってあげられない。幸せにはできない。しかし、助けてあげられる可能性が上がる。それは、逆に、心を取り戻せたら、鉄仮面を砕けたら、幸せにできるということだ。自分の世界に生きている、大切だと声を大にして叫べる少女たちを、強く愛している少女たちを、この世界の美しさの権化である彼女たちを、幸せにできる。

力を手に入れて、彼女らを幸せにできる。それが、持ち得る最高の道。


しかし、同じく分かっている。そんなこと、できるはずがないと。


DAMの最新機種でカラオケしてきたら、『UNION』とか『ピンクレモネード』とかがアニメ映像になってて感動しました。それだけです。アクシデントエンペラーでした。

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