202.【月界破壊の想定図】
堂々とした姿で街を見下ろし、その大きさと魔力保有量の高さから、王の仕事場として大きな性能を兼ね備えていた塔。その根本、灰色の壁は、石材を1つずつ寸分たがわず均等に配置している気が遠くなるような作りだった。
その塔自体、あまり円の大きさは考えていなかったが、中にバドミントンコートが4個ほど入りそうなくらい広い。
ちなみに、最上階に当たるその場所は、何故か柱以外の壁が消えていた。
「にしても、この塔で何やってたんだろうな。」
現在、この街にはいない王が、かつて力を振るっていた塔。一体、何が行われていたのだろうか。
「やっぱり、迎撃じゃないか?」
「迎撃?」
アイリスフィニカの呟いた物騒な単語に、眉をひそめて聞き返す。
元来、王は前線でどんぱち戦うような身分ではない。ファルナの場合も、彼は『箱庭』の存在を隠す為の囮、偽物の王の家系。
たとえファルナが前線に出て死んでも、今ならばラグナがその後を継ぎ、仕事自体は『箱庭』に持ち込める。
つまり、王直々に迎撃するこの都市の在り方は、アキトには分かりにくいところがあった。
「もちろん、戦場に行くわけじゃない。街の人から少しずつ集めた魔力で、何かを使ってこの塔の上から迎撃してたんだろう。」
金髪の老人も言っていた、日刻みの配給魔力システム。それと同じように、彼らは毎日王の元へと少量の魔力を渡さなくてはならない。無論、法外な魔力量でもなく、それぞれの魔力量に合わせて変化させてある良心的なものらしい。
王がいない今でも続行しているのは、なかなかに忠誠心に厚い。
「てことは、上にバリスタとか弓でもあんのか?」
「弓か・・・それっぽいものは見えないな。固定砲台みたいになってるんだったら、ここからでも何か見えてもおかしくないのに。」
塔の上部の壁のない空間。そこに、バリスタや固定砲台式の超巨大戦弓があれば、根本のアイリスフィニカの目にないるはずだが、あいにくと、その少女には何も見ることができなかったらしい。
「これ、グレンの・・・月界・・・なんで・・・・・・じゃあ、あれは・・・?」
ーーーーー
ーーーエゴロスフィニカの仕業だったよ。
「やっぱりか・・・妹への執着に関しては、奴に勝てる奴はいないな。」
ーーーそうだね。
何もない空間。途方も無い広さにも思えれば、とても狭いとも感じられる。そんな、世界の境界線さえ曖昧になってしまいそうなほどの圧倒的な白が支配する世界で、グレンと282は邂逅していた。
アキト達を救えたとはいえ、282の目的であるバルバロスからの脱出を、エゴロスフィニカはさせなかった。アキト達を、月の領域に飛ばすことによって。
282でも、その月の月界に入り込むことは難しい。少しでも加減を間違えれば、月の少女を殺してしまうかもしれないから。
ーーーところで、君の月界の調子はどうなんだい?
「残念ながら使い所がまだでな。つづりの時に使えたらよかったんだが、」
ーーー削除が月界を削除する可能性があった。
「ああ。」
つづりの所有する魔法、削除。それは、圧倒的な破壊力ともとれるが、もっと深く考えれば、全てを壊す、抉り取るという解釈もできる。つまり、月界を発動したグレンを倒す為、つづりがグレンの月界を壊してしまう可能性があったのだ。
まだ人前では使っていないグレンの月界。それを、確実に口封じできない状態で使うのは、愚者となんら変わらない。
ーーー君が昔作った所なんだ、月の技術庫からも、月界として引き出せると思うんだけどね。
「俺には剣しかないからな、よくわからん。」
ーーー何を言ってるんだい?君はれっきとした、『月』じゃないか。
わさビーフうまい……