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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
203/252

200.番外編【


「え・・・これ何?」


手元で異様な存在感を放つ紙。ただの紙なのだし、別に特別なものではないのだが、そこに書いてあることの不可解さに、アキトは呆然と疑問符を漏らしたのだった。


「これ、なんなんですか?アキトさん」


と、立ち尽くすアキトの横で、手を伸ばせば簡単に抱きしめてしまえるような距離から、レリィがその紙を覗く。ほんの少しではあるが身長にアドバンテージがなくはないアキトに比べると、華奢なレリィは抱きしめて腕に収まってしまうほどの可愛さを、とんでもない攻撃力と連射力でアキトにガツガツぶち当ててくる。

ちなみに、現在レリィはエプロンをつけて片手にフライパン的なものを持っている。


「お嫁さんみたいだな・・・」

「何か言いましたか?」

「いや、なんでもない。んで、これなんだが」


レリィの可愛さに現実逃避してみても、目の前の書面に書いてあることは変わることがない。


「皇城勤務1期の旅行計画・・・」


皇城勤務1期。上からの階級で1から6に別れるそれらの中で、1期に入れるのは大分上層部の人間だ。様々な階級上位者の秘書、護衛、最上級階級者。そこに特殊階級を織り交ぜた、ようはリデアたちである。

総勢20人からなるそれらに、皇のファルナは入っていない。彼の立ち位置はその上、統率者にあるからだ。さらに、最上級階級者に至っては、領主などのように仕事を離せない者も多くいる。この現代社会でありそうな旅行計画に行くのは、約10人ほどであろう。

と、いうことは。


「俺らを誘っても全然いけるってことか。」

「旅行に行くんですか?じゃあ、しっかりと留守番しておきますね。」


そんなアキトのつぶやきに対し、あくまで待っているという少女の言葉。幾分か自分を卑下しすぎているのではなかろうか。

おそらく、この旅行はアキトたちを興都から遠ざけ、戦犯云々というのを落ち付けようというものと、純粋な息抜きが含まれているだろう。

結論、レリィは功労者だ。これに1番行く権利がある。


「はぁ、レリィも行くんだよ。」

「あわ、私もですか?アキトさんと2人きりで、旅行?」

「2人きりじゃねぇから安心しろ。多分リデアたちと一緒だろ。」

「あ、そうでしたか・・・」


レリィにとっては初めての経験だろう。少女は笑顔を崩さずに、アキトに朝ごはんを振る舞うためにキッチンにたつ。

主張控えめのおとなしいエプロン。明るい色とは対照的な真っ黒のエプロン。アミリスタと買い物に行ってそのエプロンを買ってきた時には驚いたが、レリィの嬉しそうな顔を見れば、そんな気持ちはどうでもよくなった。

ちなみに、レリィが黒いエプロンを選んだのには色々なわけがあるのだが、それはまた別の機会に語ろう。


めちゃめちゃ可愛い鼻歌をリズムに料理を作る少女の背後。おしゃれなテーブルに紙を置く。

レリィの微笑ましい姿に笑みをこぼしながら、椅子に座ろうと、


「アッキー!!」

「おうふ、嫌な予感しかしないぞ・・・」

「アミリスタさんですか?」

「みたいだな。少し行ってくる。」

「はい。」


声の主。特徴的なアキトへの呼び名と、その活発な声に聞き覚えのあるものならば、それがアミリスタであることに気付くのにそう時間はかかるまい。事実、アキトとレリィは速攻で気付いた。

再び催促の声が聞こえるが、う〜いと気の抜けた返事をしながら玄関へ。

おそらく、いや、必ず、この旅行についてのことなのだろう。


「よっ」

「おはようアッキー、あれ、レリィちゃんがセットじゃないの珍しいね?」

「ああ、俺のお嫁さんは料理中なんでな」


絶賛お嫁さんに仕立て上げられているレリィは料理中。いつも可愛いくらいに寄り添ってきてくれる存在のなさは、アミリスタでも違和感なのだろう。


「ふ〜ん、お嫁さんか。へ〜。」

「本人がいない時ぐらい妄想させろよ。」

「む〜、ボクへの告白の返事はまだなのに?」

「うっ、それは」

「ボクはこんなにアッキーを想ってるのに〜?」

「え、えっと〜」


ブリッジ並みの体勢で目をそらすアキト。めちゃめちゃ痛いところを突かれた。更に、アミリスタのことが別に嫌いじゃない、むしろ好きなのが拍車をかける。アキトに踏ん切りがつかないのは、それをライクだと思い込んでいるから、もう1つが。


「愛してるアッキー」

「っ!ま、毎回そうやっておちょくっても、もう耐性ついたからな!」

「ぷ、顔真っ赤だよ?」


堪えきれずに噴き出すアミリスタ。こうして毎回おちょくられているが、未だにアキトは慣れられていない。安定のヘタレである。


「いいよ、アッキーの答えは待ってあげる。よろしくお願いしますっていう答え以外は聞いてあげないけどね」

「はぁ・・・」

「にひひ、愛してる、結婚しよ?大好き」


そんな事を恥ずかしげもなく言いながら抱きついてくるアミリスタ。アミリスタの好意というよりも、そんな恥ずかしい事を普通に言ってくることへの恥ずかしさだが、アミリスタにそんな事は関係ないらしい。つくづくとんでもなく図太い少女である。

空回りの空元気の時期もあったと聞いたが、そんなこと想像ができない。

と、アキトも一人前、半人前、まぁミジンコくらいは男をやっているわけだ。ここまで言わせて何もしないというのも野暮だろう。

アミリスタの肩を優しく掴み、少しだけ近づける。そして耳元で囁く。


「俺も、愛してる。・・・なんてな。どうせ旅行の話だろ?ちょっと待ってろ、レリィにお前の分の飯も作ってもらうから。」

「う、うん、ありがと〜」


玄関先でそんなやりとりを経て、アキトが家の中へと消えてゆく。それを見送って、アキトが見えていない事をしっかりと確認して。

ーーーボッ!

真っ赤に染まった頰に触れて、自分のその熱さに驚く。


「そんな事言われたら、うぅ・・・幸せすぎるよ・・・」


1人でキュンキュンしているアミリスタに、防御力はなかったようだ。皮肉なことに。


ーーーーー


「それで、リデア達から頼まれてきたんだ。アッキーたちは参加するのかな〜?って。」

「俺は・・・・・・」


チラッとレリィを盗み見る。同じく、アキトに意見を求めようとしたレリィと目があった。少女の瞳に映る期待。もちろん、レリィは絶対に行かせるつもりだ。

しかし、


「レリィだけ参加だ。」

「「え!!」」


レリィとアミリスタ、2人揃って驚愕の声をあげる。


「な、なんでさ!アッキーも居ないと楽しくない!!」

「そうです!アキトさんが行かないなら、私も行きません!!」

「いやぁ、実は・・・」


そんな少女2人に対して、アキトが新たな紙を差し出す。

旅行通知の用紙とは違うその白一面には、枠線に彩られた文字の大群が、ひしめき合いながら存在して居た。


「興都戦線が終わった後に、治療院から釘を刺されててな・・・」


わりと洒落にならない大怪我をして、わりと洒落にならない責任を被り、心身ともに疲弊アンド大怪我。一流の治癒術師がアキトの肩を掴んで、涙ながらに労われた時は、さすがのアキトも気恥ずかしくなった。


アキトの差し出した紙に書かれた文字の羅列。リデアに解読、もとい読んでもらった結果、飲酒や魔力行使などの日常的な動作や、更なる疲労をもたらす事に関する禁止事項が書き連ねられていた。


「じゃあ、アキトさんは来ないんですか?」


ほんの少しだけ涙目になりながら、上目遣いでレリィが問いかける。揺れる瞳と赤い頬。

アキトに叩きつけられる可愛さの暴力。めちゃめちゃ抱きしめたい衝動に襲われるが、悶絶しながらそれを押さえつけ、レリィの頭を撫でる。


「ごめんな、レリィ。でも、こいつもリデアも行くだろうし、俺のことは気にしなくていいんだぞ?」


レリィのさらさらした綺麗な髪から手をひき、アミリスタの頭をポンポンと叩きながら言う。


レリィが恋情でアキトを求めていることなど分かるはずもなく、優しい少女の心配だろうと考えるヘタレ。それも無くはないのだが、レリィの脳内で作り上げられていたイチャイチャプランの崩壊は、少女にとって無視できない。

簡単に言えば、レリィはアキトとイチャイチャしたい。

そんな渦巻く感情の中、レリィは決意を固めた。


「つまり、アキトさんをみんなで労わればいいんですね!」

「レリィちゃん!さては天才か!?」

「ちょっと待て、話聞いてたか!?」


まるで名案を思いついたとでも言わんばかりのとてつもない期待の表情で、レリィがアキトの両手を取る。レリィ1人だけなら言いくるめられたのかもしれないが、1人だけでもレリィ2倍分の厄介さを誇るアミリスタがいるのだ。この荒唐無稽な提案はアキトがどうにかしなければ、アキトの了承なしで電光石火の決定が下されてしまう。


ーーー流石に、これ以上の身体能力低下はきつい!無理はできないんだ!


「ダメ?アッキー」


いつもの元気さが鳴りを潜めて、両目を涙に潤わせたアミリスタのギャップに、思わずたじろぐ。


「わ・・・かった・・・」


「やったぁ!」

「やりましたね、アミリスタさん!」


と、しゅんとうなだれていたアミリスタが途端に元気さを取り戻し、先ほどまでの表情が思い出せないくらいの満面の笑みでピースサインをアキトに向ける。


「お前ら図ったな!」


麗しい少女達の声と、嬉しそうな声を響かせるレリィ宅は、朝から賑やかだった。


ーーーーー


「『ラクトライア』?」

「アキトは知らないのか・・・えっと、大きな湖の近くにある都市で、水の楽園って言われてるの。」


リデアが机に体重を預け、綺麗な金髪をいじりながらアキトに語る。胸元が見えて大変なことになっているので、即刻その淫らな姿勢をやめていただきたいと思うも、仕事終わりの疲れ切った時間帯だ。仕方ないだろう。

きっぱりとその情報を遮断して、水の楽園という言葉に思いを巡らせる。


「レリィちゃんの水着に期待してるの?」

「水着?海じゃないのに水着なのか?」

「うみ?ラクトライアは、街の中よ?湖の水が街に引っ張られてて、そこで色々な産業が発達してるの。」

「へえ、水着に産業か・・・」


なんだか社会の授業でも受けているような気分になってきた。しかし、その楽しさの違いは、ファンタジー世界だからだろうか?違うな、水着か。


「それじゃあアキト、集合時間、遅れないようにね?」

「ああ。」

「じゃあね」

「お〜」


ーーーーー


早朝。いや、本当に早朝だ。

どれくらい早朝かと問われれば、約5時30分。アキトの主観体感時間なため、精度に関しては適当だろうが、まだ朝日の先っぽすら見えない闇の中、やけにルンルンなレリィと、リビングで荷物の準備をしていた。


「アキトさん!着替えは持ちましたか?ちゃんと日焼け防止の薬もですよ!あ、あとこの財布も持っておいてください。アキトさんの口座から引き出したお金です。一応、結構な大金が入ってます。それと、これも、これもです!」

「お、おう・・・」


一応全ての支度は済ませてはいるものの、レリィの心配は飽き足らず、やたらとアキトに密着してくる。興奮気味だからなのか、そのことに気づいていない少女は、次々とアキトの荷物に重量を追加していく。

ちなみに、アキトの報酬金は全てレリィに管理してもらっている。手元にあるとついつい強欲になるのと、もしもの時にレリィが使えたらいいな、という思惑が込められている。まぁしかし、こうしてわざわざ高そうな財布まで用意して帰ってくるのだから恐ろしい。


「それじゃあ、朝ごはん、食べましょう!」

「え?まじ?こんな時間に食べるのか?」

「でもでも、栄養は必要ですよ?」

「いやまぁ、そうなんだけどさ・・・食欲ないというか・・・」

「じゃあ、お弁当にして持っていきましょう。」

「そうしてくれると助かる・・・」


そうして、レリィがバスケットに料理を入れ始める。わざわざ手を煩わせてしまったことに罪悪感を禁じ得ないが、無理して食べて旅の途中に吐瀉物フィーバーをやらかすよりは幾分かはマシだろう。

んしょ、んしょ、と、可愛らしい声を漏らしながら用意するレリィに愛おしげに目を細め、アキトは自室に戻る。あくびをしながら扉を開けると、そこにはベルフェゴールがいた。


「うぇっ!ゲホッゴホッ!!な、!でお前がここに!うぇ・・・」

「なぜ突然えづき始める。少々無礼すぎないか?」


危うく吐瀉物フィーバーを再現してしまいそうになり、冷や汗をかきながら糾弾してやろうと顔をあげる。いや、怖、無理だわ。


「いきなり人をえづかせてくるのやめてもらっていいですか?ここでゲロの湖作ってもいいんだけど。」

「馬鹿にしているのだけは伝わった。大した力もないのに」

「よくもまぁ、ペラペラと出てくるなサディスティック女・・・」


ここにいる意図もよくわからない悪魔に馬鹿にされ続けるアキト。いくらアキトがMだとしても、そこまで嬉しくない。

とりあえず呼吸を整えていると、ベルフェゴールから再び口撃が繰り出される。


「お前の所の子が可哀想だ。こんな奴に惚れてしまうなんて・・・」

「なんだ?アミリスタまで狙ってんのか!?ああ?渡さねえからな!」

「貰ってあげないのに渡さないとは・・・とてつもない甲斐性なしですね、お前は。」

「うぐっ」


アキトにダイレクトアタック。効果は抜群どころかクリティカルヒットである。

そんな心情を誤魔化すように、アキトがベルフェゴールに問う。


「ていうか、なんの用だ?待ち合わせまでそこまで時間はないんだが?」

「重々承知だ。アミリスタから伝言を頼まれたのだ。」

「伝言?」

「ええ。」


現在マナが使えないアミリスタにとっては、1番移動速度が高いベルフェゴールに頼むのが最善だったのだろう。彼女の住む皇城の院寮は、近くにベルフェゴールの家もあるようだった。ベルフェゴールを使いっ走りにするアミリスタには驚かされるが、まぁ、そこまで恐れることもないのかもしれないと、アキトも思考を改め直す。

聖約が交わされているわけだし、意味もなく恐れるのは、失礼だろう。そんな、恐れる要素なんて、声量で殺されそうになったり、串刺しにされそうになったり・・・やっぱり恐れることは重要だ。最弱の美徳だ。


「伝言、心構えをしておけ、と。」

「心構え?」

「私に聞くな。それは、お前が考えるべきことなのではないか?」


鋭い瞳にさらに鋭さを掛け合わせて、ベルフェゴールが背を向ける。アキトが声をかける時間すらなく、彼女は窓から飛び降りた。

アキトならば落下死不可避の距離を、なんの逡巡もなく消える姿には、劣等感を抱かずにはいられない。

しかし、それよりも。今はその、心構えをしろ、というアミリスタの言葉が引っかかる。


「なんだ・・・?心構え・・・」


しかし、その思考は下からアキトを呼ぶレリィの声にかき消された。

アミリスタの言葉の真意を知るのは、少し後のことだった。


ーーーーー





絶賛風邪ひきまくりの作者です。(辛い…)ろくに文章書くどころじゃないので、ちびちび200.を仕上げていく感じになります…すみません。

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