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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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197.【傷つける方と殺す方】

龍が見えた。

一太刀の龍は彼の右腕を飲み込み、一太刀の龍は刀へと成り替わり、一太刀の龍は全てを包み込む戦鎧となった。

美しき色合いのコントラストが奏でるそれら3つの顕現魔法は、龍を模した圧倒的な力だった。

そして、輝く光弾がそれらを照らし、アキトの視界を潰したところで、爆音が鳴り響く。世界を轟かすその轟音に訝しげに顔を歪め、刀を構え直す男。


幾多の光の柱とともに降りてきた男は、黒い髪をしていた。


「俺・・・!?」


思わず声に出てしまった言葉は、己の口から再び耳朶へと叩きつけられ、ぐるぐると回る思考に拍車をかける。

そう、誰とも知らない成れの果てに、己の姿さえ写り込んでいる。このまま生きていたら、自分がどうなるのかを描いた世界が、目の前に広がっている。

湧き上がる感情は、未来を知れたことへの喜びでも、未来の己の姿への飽くなき好奇心でも、282に対する感謝の心でもない。

ただ1つ、不安だった。


このまま死ぬ未来を見たらどうする?


アキトがたとえどれだけこの世界で生きようと、強くなれるはずがない。ここまで死の沼に足を突っ込んで帰還した割には、大した能力だって授かっていない。なら、未来の自分は、この暴力の化身、顕現魔法の武器庫に、勝利の刃を突き立てることができるのだろうか?


『アーテラルド・ジオリル、で、間違いないな?』

『・・・・・・』


くぐもったような、ぼやけたような、言葉の輪郭戦が曖昧な音が、静かで何もない、真っ暗な空間に木霊した。

脳が拒否しているからか、はたまた、そのような仕様なのか。言葉の内容ははっきりしない。アーテラルドと言われた人物の言葉に至っては、話しているのかすらわからない。

しかし、ある程度の雰囲気は分かるわけで。

その場の空気が一気に凍るのを、アキトは簡単に感じた。


『顕現魔法、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!』


未来のアキトが、腰に携えた剣を引き抜く。舞い降りる光の柱に照らされて、宝石のように輝く黄金の刃。それは、つい数日前まで手元にあった輝き。つい数日前まで、未来を夢見た宝剣。

しかし、その様は大きく風変わりしており、刀身の根元には1つの円状の穴があり、その上には数個の魔法陣が施されている。そして何より、ミカミ・アキトが、それを何の気なしに振り上げた。()()()

両腕で振ることしかできなかったのに、そんな疑問も束の間。アキトの周囲に舞い落ちる土煙を切り裂いて、輝く宝剣がアーテラルドに牙を剥く。


一方、何もせずに待っているほど、その敵は甘くはなかった。

その腕に携えられた一太刀の龍。鋭さの全てを終結させたような刀が、アキトを迎え撃つ。


『・・・・・・・・』


依然、声は聞き取れない。しかし、剣同士の削りあいの咆哮だけは、やけにはっきりと聞こえた。

空に高く冴え渡る剣尖の音色。たった一度のそれが、大きく音を引き延ばし、アーテラルドの刀の爆裂により幕を閉じる。その勢いのまま振り切り、アーテラルド爆裂の一手が、アキトの胴体を爆ぜ斬る。


黒煙に揉まれ、空中を彷徨うアキトへ、アーテラルドが右腕に装着した籠手のようなものでアキトを指す。

黒煙が晴れる、再び剣を構えて、金の輝きを散りばめながら地面に向かうアキトを、籠手から放たれた龍が襲う。

真っ直ぐにアキトに狙いを定め、風のように俊敏に、嵐のように熱烈に、砲撃のようにぐちゃぐちゃに。そのアキトの肉体へ、分不相応のオーバーアタックが進む。


『・・・・・・る・・・』


アキトの握りしめていた宝剣が、ほんの少しだけ光った気がした。


黄金の斬撃が龍を迎え撃つ。筋肉を引きしぼり、全ての力をそこに込め、厳かな龍のそのドタマを、嘘のように速い剣筋が切り裂く。そして、斬り付けられた龍の横顔を、先ほどアキトに起こったような爆撃の殴打が襲った。

凄惨な甲高い音を残して、龍がガラスのようにひび割れて消える。その破片を踏みつけながら、アキトもそっと地面に着地。剣を持ったままの両腕を地面に向け、手のひらをつける。


『音・・・撃』


警戒を露わに、アーテラルドが跳躍、アキトの首を掻き切らんと刃を掲げ、その土埃の中を疾駆。しかし、遅い。地面に大きく展開された魔法陣は、アキトの宝剣に記されていたものと同じであり、その輝きもまた、同じだった。

地面で燻っていた魔法陣がそれを離れ、アキトを守るようにして立ちふさがる。そして、音の濁流が、アーテラルドを吹き飛ばした。


ハウリング、ノイズ、そんな不快音、不協和音を盛り合わせ、ごちゃ混ぜにしながら大爆音で叩き鳴らすそれは、もはやただの音ではなく、音と言う名の暴力を備えた、立派な殴打力。破壊。


アーテラルドの吹き飛んだ好機、屈縮術で到底人間には放つことのできなかった膂力が解放。アキトの背景を世界が流れ、前髪を撫でる風に瞳を見開く。無表情を貫くそれは、まさしく。


「鉄仮面を、使ってる・・・?」


今のアキトの表情と、何ら変わりはなかった。


いつしか、掻き消えたアキトの姿はアーテラルドの前にあり、その一太刀は首筋へと死のタイムリミットを嫌という程伝えていた。


『・・・・・・・・・』

『いいさ。これくらいしか、強くなる方法はなかった。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『無情?いいさ。あの娘たちを傷つけるのと、殺すの。俺は、傷つける方を選んだんだ。』


最後の会話は、聞こえなかった。

聞こえないふりをした。だって鉄仮面が、通してはくれたかったから。

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