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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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194.【異世界+無力=ミカミ・アキト】

どうしようもない現実。それは、この目の前に広がる樹林なのだろう。

そびえ立つこの木々も、レイヴンの作り上げた狩人の庭も、数え切れない技術の結晶の数々が、全てここに保管され、それをなしているのはたった1人の人間で、アキトと変わらない『月』の肩書きを持つもので。


ひたすら屈縮術の鍛錬を続け、朝焼けが頰を照らすのに気付いた。

結局夢魔から帰ってきた時にはまだ深夜のようで、こうして早朝と呼べる時間帯になる数時間、アキトは無謀な集中力で訓練していた。


「アキト、おはよう。」

「?ああ、アイリスか。」


背後から声をかけられ、振り向く。視界にはいる長い赤髪。2つに束ねられた鮮烈な赤は、朝焼けに負けることのない色を、アキトの眼球に叩き込んできた。それに少しだけ安堵して、それに少しだけ落胆して。微笑みながら言う。


「おはよう。」


鉄仮面をはめて、言う。それが、少し前のウルガの表情と重なっていると分かったのに、その考えを鉄仮面の中に押し込んで、悲しげなアイリスフィニカを見なかったことにした。


ーーーーー


「それじゃあここは、その『月』っていう奴の能力で作られた世界なのか?」

「簡単に言えばそうだな。ちなみに俺も『月』の肩書きを持ってるんだけど」


アイリスフィニカに把握した情報を話し、飲み込んだそれを確認する少女に、自嘲まじりにそんな事を言った。

この世界を作った月が誰なのか、むしろ、アカネとアキト以外に月がいるのか?いたとしたら何人いるのか。無論、興国史にのこっている12人と11人のどちらかでは?という説はあるが、アキトは知らない。


「アキト、月なのか!?こんな世界を作れるのか!?」

「うっ・・・やめろよ・・・俺の精神HPを削ってくるんじゃねぇ・・・」

「あ、ごめん・・・アキトが雑魚なの忘れてた。」

「ぐふ!」


アキトの精神HPが尽きる音に気付かず、アイリスフィニカが背後を見る。広がるのは、美しい緑、そこから差し込む暖かな木漏れ日。まだ早朝ではあるが、その光景は昼とそこまで変わらないだろう。アイリスフィニカの視線が指し示すそれらの景色。月の誰かによって作り出された、全ての能力の保管場所。

だとするならば、


「ここには、どんな能力があるんだろう・・・」

「・・・攻撃されてないって事は、まだ気付かれてないか、好戦的じゃないって事だ。別に、肉壁にくらいはなってやるから、心配すんなよ。」


アイリスフィニカが心配になるのもわかる。レイヴンの世界。彼の作り出した技術の結晶。その世界は残酷で、非情で、血であふれていた。ライラの痛覚が鳴らした鬼哭とも呼べる叫びは、今までアキトの挙げてきた慟哭全てを合わせても足りないほどだった。

もしここがまたそんな世界なら、ライラにだってアイリスフィニカにだって、そんな痛みは背負わせられない。アキトが生きていなければ、アイリスフィニカは脱獄を決行できない。だから、死ぬ事はできない。けれど、アキトが肉の壁となって、少しでも彼女らの痛みの咆哮を減らせるのなら、腕の一本や二本、喜んで差し出そう。


「アキトは・・・強いな。」


そんな言葉を、アイリスフィニカがしみじみと呟いた。

言葉を脳内で反芻するも、アキトは意味が理解できなかった。強いという言葉とミカミ・アキトという名称は、この世の果てと果て、対義語、それくらい縁のないものだから。


「俺は弱い。知ってるだろ?」

「ううん。だって、ずっと使ってるからな、『鉄仮面』。」

「・・・」


図星を突かれておし黙るアキト。元来、人間とはそういうもので、それはどう足掻いても、無言の肯定にしか成り代わる事はできない。


「アキト、その心構えを教えたのはアイだし、屈縮術を覚えたいのも分かる。でも、それは、」

「間違ってるか?」


カーミフス大樹林で、アキトは戦うために恐怖心を捨てた。無論、都合よくそれだけが捨てられるわけもなく、様々な事を感じ取る感受性を、アキトは心という入れ物に入れて捨ててしまった。そして、この監獄でも更に、鉄仮面という心構えを持ってしまったために、心のないアキトにも届くような強すぎる『感情』や『物事』を、完全に断ち切ってしまった。


「間違ってない・・・強くなるための道だ。だけど、アキトが強くなりたい理由は、もっと優しかった。」

「俺が強くなりたいのは、認めてもらうためで」

「違う!アキトは、もっと優しい理由で力を求めて、そのためにはもっと、優しい方法で強くならないとダメだ!」


息を乱すほどに叫んで、肩を揺らしてアキトをまっすぐに見つめるアイリスフィニカの視線。それを真っ向から受けて。


「それでも俺は、この力を使うしかないんだ。」


なにも持っていないから、なにも持たせてくれなかったから、なにかを掴み取らないといけない、なにかを昇華させないといけない。それをしなければ、アキトはなにも成せないし、なにも守れない。


まっすぐな瞳から目をそらして、その力の求め方の疑問に大きく心を乱した自分の感情さえも、アキトは鉄仮面の奥へとしまい込んだのだった。

だってアキトには、なんの力もないのだから。異世界とプラスで結ばれるはずの特別なものを、持っていなかったから。


アクセス数を三度見した、作者です。

『異世界+死なない』とか、『異世界+近代兵器』とか、異世界+の後にインパクトがある小説が面白いのかなと思います。その弱をこれに当てはめるなら、この話のタイトルになるんですよね。あれ、この小説インパクトなさすぎ?

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