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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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193.【どうしようもない現実へ】

短いです。すみません。

夢を見ている気がした。

ただひたすらに、優しい夢。

美しい弦の音が流れて、叫ぶような歌声と、それに込められた感情と、込めすぎて溢れ出してしまった慟哭と、掠れるほどに一杯一杯なのに1番好きな歌声。絶対に、生涯忘れることのない、多くの人には評価されない、歌声。


孤独を叫ぶ、その人の歌声。


ーーーーー


「こんばんは、アキトさん。」

「よう。なんか久しぶりな感じがするな。悪いな、ちょっと諸事情で連絡できなかった。」


愛おしい声に心を踊らせ、それを鉄仮面が打ち砕いて。その声の主レリィ・ルミネルカの前でさえ、アキトは感情の起伏をゼロに近づけ続ける。


「諸事情・・・ですか?」


疑わしそうな表情で、少し怒ったような表情で、愛らしさの変わらない少女の声が耳朶をうつ。

きっと、気づかれてしまっているのだろう。あわよくば隠そうと思っていても、いくら鉄仮面をかぶっていても、レイヴンとの戦いのことは、話さなければならないのだろう。この少女には、レリィには、隠し事は通用しないのだろう。


「悪い・・・ちょっとだけ、命を賭けた。」

「やっぱり、そうだと思いました。」

「ごめん・・・だけど」

「分かってますよ。」


頰を膨らませて、可愛く怒る少女に謝罪を重ね、弁解を差し出そうとした時、優しい言葉の抱擁が、アキトの声を縛った。

そうしてやっと、己の肩に力が入っていることに気付いた。

殺した。自分の意思で。選択できたのにもかかわらず。けれど、


「必要なことだったんですよね?」

「・・・ああ。」

「なら、しょうがないです。許してあげます。」


まだ不安は残っているだろうに、アキトの事を案じてだろう。レリィはそれ以上追求しなかった。

夜の暗闇に支配された世界で、美しい水色が、やけに眩しく見えた。


「アキトさん。その・・・あの・・・私、すごく、心配しました。ずっと待ってたのに・・・」


それもそのはずだ。アキトを待っていた時間は、レリィにとっては気が気ではなく、心配で仕方なかっただろう。

頰を染めて、人差し指でベッドをなぞり、上目遣いでレリィがアキトを見る。


「その・・・抱きしめて欲しいっていうのは・・・ダメ・・・ですか?」


うるうると瞳を涙で揺らしアキトに問いかけるその姿に、不覚にもドキリとしてしまう。

そのまま、何も言わずにレリィの元へ。優しく、壊れてしまわないように、そっと抱きしめる。


「はぅ・・・」


ぐるぐると目を回して、恥ずかしさに真っ赤になりながら、やっと落ち着いたレリィが抱きしめ返す。

少しだけ大胆になれたのは、疲れて羞恥心が鈍っていたからだろうか。なんにせよ。それがアキトの活力となったのは、いうまでもない。


ーーーーー


消える。消える。消える。


何もかもが消えて無くなる。胸に穴が空いたかのような喪失感。不安。そんな中で、消えることのない焦燥感と、なにかを成せるわけでもないのに落ち着かない心が、心臓の動きを加速させる。


消えて、消えて、無くなって。


ミカミ・アキトは帰還した。仮初めの幻想から。信じたくない、どうしようもない現実へと。

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