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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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192.【破壊の騎士は恋する乙女】

なげ掛けられた言葉の意味が一瞬分からず、ヴィネガルナは首をかしげた。

脳がしっかり理解しているはずなのに、期待が怖い少女には、それが信じられない。それほどまでに、ヴィネガルナは人間不振で、それほどまでになるほどの才能を持っていた。

けれど、そんな注意深さの末に、悪い点を見つけきれなかった、無かったウルガを、ヴィネガルナは信じたのだ。

なら、信じればいい。その言葉の意味を飲み込んで、咀嚼して、理解すればいい。

きっとそれはただの、デートの誘いなのだから。


   ーーーーー


到底会話と呼べるものを行える技術などヴィネガルナにはなく、気まずい雰囲気のなか街を歩く。

ウルガとヴィネガルナがカップルに見えるのならば、それは美男美女と揶揄されるものであり、道行く人々に見られるのは当然と言える。


「気にしなくていい。彼らも、補佐官の私の顔など、覚えてはいないよ。」


それを、自分の立場のことを考えているとおもわれたのか、ウルガは優しく言う。

こんな時期に昼間から出歩いて、遊び呆けていたら、皇城勤務の人間への反感が強まる。ただ、皇の顔を覚えていても、補佐の顔まで人は覚えてはいない。


「い、いえ。その、どこにいくんですか?」

「ああ。最近は仕事もつまっていただろうし、少し息抜きになればなと。」

「息抜き・・・ですか・・・」


落ち着いた口調のウルガとは対照的に、ヴィネガルナの心中は大層穏やかではない。別に手を繋いでいるわけでもないのに、高鳴る鼓動が伝わっていないか気が気ではない。

赤くなった頬を隠すために前髪をいじり、その隙間からウルガの顔を覗く。

いつもの弱々しく、無理をしていそうな笑顔ではない。微笑と呼んでいい、穏やかな表情。


「そのままじゃ、味気ないと思うんだが。寄ってもいいか?」


そう言ってウルガが指差すのは、輝かしい装飾に、輝かしい笑顔で接客する店員、それらが彩る建物。ショーケースの中に入れられた人形は、宣伝用のものなのだろうけど、ヴィネガルナにとっては脅しに見えてくる。

『え?お前この店入るの?(引)』

ぐらいのとてつもない英断を強いられる。

簡単に言えば、女性用の洋服店だ。


「ウルガさんが選んでくださるんですか?」

「選ぶだけでは駄目だな。わた・・・俺が全部払うから、しっかり着てもらいたい。」

「そ、そんな!わ、悪いですよ、私なんかのために・・・」

「俺が着てもらいたいだけだ。いいだろう?」

「うぅ〜、わ、分かりました。今日は、お言葉に甘えさせていただきます。」


ーーーーー


1着目。

大きく胸元のひらけた、赤いドレスのような衣装。


「この人混みの中だと、少し厳しいかもしれないな・・・」

「気にするところが違いませんか!?」


2着目。

無地の白いシャツに、冒険者の装備を模した緑色のジャケットのような服。下はボーイッシュなショートパンツ。美しい太ももが眩しい。


「私は、これでいい気がするのですが・・・」

「いや、露出が多すぎるな、却下だ。」


3着目。

むしろビキニのような薄い布。露出度最強のコーディネートだ。


「誰がこのような卑猥な服を買うんですか!?」

「・・・それに関しては、良い言い訳が思いつかないのだが・・・」


4着目。

清楚な白い服。目立たない程度にフリルも付いている女の子らしいそれと、少しだけ長めの黒のスカート。胸元のピンクのリボンはヴィネガルナの髪色と同じだ。


「こんなに女性らしい服、私には似合わないと思うのですが・・・」

「いや、これにしよう。とてもよく似合っている。」


ーーーーー


「か、カップル限定商品か・・・奥深いな。」

「え!?た、頼むんですか?」


ーーーーー


「やはり、女性はこの演劇のような状況が好きなのか?」

「女性の総意は分からないですけど、私は・・・き、嫌いではないです・・・」


ーーーーー


「驚きだ・・・あの曲芸師、魔法をあそこまでうまく隠せるとは・・・」

「驚くところが違う気がするのですが・・・」


ーーーーー


一通り街を巡りあるき、すっかり空の輝きが赤に傾きかけた頃。商業施設の多く並ぶ商業区の最上区。商業区を一望できる高台。ウルガとヴィネガルナの今日の最後の逢瀬の場所は、そこだ。


「今日は、ありがとうございました。」

「いや・・・こちらこそ、付き合わせてしまって悪かったな。」


あまり人に笑顔を見せないもの同士、笑い合う2人の姿を誰かが見ていたら、反射的に理解してしまうだろう。その2人がどのような関係か。残念ながら、薄々感づきながらもそこまで至っていない、非常に初心な関係であるのが悲しいところではあるが。


「ヴィーネ。俺は、全てが終わったら、したいことがある。」

「全て・・・?したいこと・・・ですか?」

「ああ。」


疑問符を浮かべるヴィネガルナを微笑ましく一瞥し、商業区を照らす赤い輝きに目を細める。


「興都に何かが起こる。エリアス・ファードラゴンからの言伝だ。」


その言葉にヴィネガルナが目に見えて表情を硬めたのがわかった。

興都襲撃から一ヶ月少ししか経っていない。それなのに、さらなる脅威が、興都に及ぼうとしている。それを聞いて平然としていられるものは、この国には数えられるほどしかいない。

緑の大剣を担ぐ優男は、その数人のうちに入るのであろう。


ヴィネガルナの脳内で逸る思考。それは、ウルガと全く同じ反応だった。

突然ウルガの部屋を訪れたエリアスの第一声。それが、先ほど述べた言葉だ。そしてそれこそ、ミカミ・アキトの運んできた厄災。正真正銘、正々堂々、正面激突、アキトがぶち壊そうと考えた試練だ。

海龍ユルカナミシスの襲来。

それが、ウルガの言う全て。


「それは、今は考えないようにしている。いや、考えられないと言った方が正しいな。」

「・・・・・・」

「ヴィーネ。待っていてくれ。」


そっと、ウルガがヴィネガルナを抱き寄せる。

竜伐の中で『襲撃』の任を担い、破壊を模した力の権化。しかし、そんな騎士の少女も、好きな人の前では等しく乙女。抵抗する間も無く、すっぽりとウルガの腕に収まるヴィネガルナ。


「そうしたら、俺は。答えを出すから・・・。」


最近の楽しみは『世話焼きキツネの仙狐さん』作者です。これがなかったら生きていけない・・・。

長らくお待たせしてしまいすみません。ヴィネガルナの服は、『白聖女と黒牧師』のセシリア様お出かけバージョンの服だと思ってください。

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