191.【本物がいい】
長らくお待たせしてすみません。そして、いつも読んでいただき、ありがとうございます。200ptという夢のような数字を見て、スランプだろうが書かなければ!と思い立ち書きました。
取り敢えず、ウルガを好きになって貰えたら、作者的には嬉しいです。
彼は、いつも頑張り過ぎてしまう。
ただの無力な男の悪足掻きなら、それを哀れんでやることぐらいはしてやれる。しかし、力のある彼には、無理をするという事柄の大きさが、大きく異なる。
ミカミ・アキトとウルガ・マッカルトは、似ている。無論、ミカミ・アキトなどという矮小無価値、とまではいかなくとも、雑魚と表現していい彼と全く一緒という枠内に、ウルガという人間は当てはまらない。けれど、私の考える、持論では、ある一点で、彼らは似ている。
それが、『身の丈に合わない無理をする。』という所だ。
ファルナ様の場合、自分のいない時の損害を重々承知しているため、自分の限界を超える無理はしない。興都戦線のような異常事態がなければ。
しかし、その2人に至っては、隠しきれない苦しさを滲ませながら、誰に命じられたわけでもないのに無理をする。自分に命じられるままに、魂を削り続ける。そんな2人を憔悴させないように、ミカミ・アキトにはリデアが、ウルガさんには私がついている。
でも、1番は。私がそばに居たいからなのだろう。
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淡く輝き始める世界の目覚め。蝋燭に灯される弱々しい光のように、その世界は目覚める。
青い空。そう表現すれば、簡単であろう。しかし、私の文学脳が、それだけの味気ない言葉で片付けるのを拒む。きっと、それだけで表現できれば十分だと思う人もいるのだろうけど、私は、その美しさに報いるために、長く言葉を綴る。
世界にかつて降り注いだというマナ。それと同じように、世界に平等に降り注ぐ淡い光は、暖かさを孕んでいない。それはきっと、冷たい夜に近いからだろう。
冷たい世界が訪れる夜に1番近く、暖かな世界を迎える朝に1番近い。視覚的な冷たさと、暖かさへの心の期待。それが混ざり合って、冷たいながらも綺麗な情景だと、私は感じるのだろう。
冷たく美しいその情景のように在りたいと、私は感じるのだろう。
「っ・・・、もう・・・こんな時間。」
時刻版の円が周り、その情景の終わりを告げる。何者にも邪魔されない静謐な時間は、慌ただしい1日の始まりによって終結する。
かくいう私も、その慌しさに乗じて身支度を始める。
化粧はわざわざしない。するとしても、政務の時に最低限だ。
そうして、窓の外に見える輝く街並みを見て、確信する。
「また・・・ウルガさんは・・・」
きっと彼は・・・。
イグニシアを鞘へと収め、腰に装着。その重さがないと安心できないのは、騎士の誇りだ。
一通り終了した身支度。
きっと彼は、また夜通し作業しているのだろう。
何もしていない自分が、何かを成すことのできない自分が、かつて悪をなした自分が、この場所からはじき出されてしまうことが、きっと恐ろしく怖いのだ。情けないなんて笑い飛ばせるはずがない。きっと私でも、そんな不安に苛まれれば、彼のようになる。
けれど、私は不安を感じていない。なぜか。答えは簡単だ。彼のもたらしてくれた日々が、暖かく、素晴らしいものだと知っているから。彼がどれほどここに必要か、誰よりも知っているから。
ウルガさんは、きっと私を心配させないように、何事もなかったように仕事を始めてしまうのだろう。一睡もしていないのに。
興都戦線で、何もできなかった自分が、ミカミ・アキトの投獄に、何もできなかった自分が、ウドガラド興国のミカミ・アキトの損失に何できなかった自分が、捨てられるのが怖くて、何かをしていないと落ち着かないのだろう。
「・・・・・・」
そして、扉の前で開口一番をすっ飛ばしてウルガさんの胸に飛び込んでしまった私は、落ち着かないところではなかった。
「す、すみません!つい・・・じゃなくて、不注意で・・・」
「大丈夫だ。出てきたのは俺・・・私だからな。」
ああ、またその表情だ。無理をしているのを隠そうとして、空元気を貼り付けた、隠しきれていると思っている、弱々しい笑顔だ。
ミカミ・アキトは、リデアやレリィ、アミリスタにシャリキア。彼女らと接している時だけは、本当に笑顔でいる。しかし、ウルガさんだけは、本当の笑顔をあまり見せてはくれない。
「眠っていないんですか?」
「っ・・・そうだな、少し込み入った仕事があって」
「ファルナ様が、今すぐに行わなければならない殆どの事後処理は完了したと仰っていましたが。」
「・・・・・・全く恐ろしい後輩だ。」
そう言って、ウルガさんの手が私の頭を撫でる。
恥ずかしい。でも、嬉しい。こうして私に意識を向けてくれる時、ウルガさんは笑ってくれる。微笑んでくれる。その心の底からの笑顔に、私がどれほど救われるか、あなたは知っていますか?
心のなかで呟いても分かっては貰えない。でも、私は、この人が好きだ。
「きっと、ヴィーネは分かってくれているだろう?」
「・・・はい。分かります。」
人に弾き出されることは、不要とされることは、どれだけ辛いことか、どれだけ不安なことか、私は知っているから、分かっているから。この人がそれをどれだけ恐れているのか分かっているから、解っているのだ。
「ウルガさん・・・私は、貴方を必要としています。」
「・・・」
「貴方がいないと、私は何もできません。戦う覚悟も、人と上手く付き合っていくことも、お、男の人と話すことも、できません。だから、貴方がいないと、困ります。」
私は必要だ。貴方のことが、必要だ。
ずっと、求め続けている。そこにいることが当たり前になる時まで、そこにいないといけなくなる時まで、そこに揃わないといけなくなっても、求め続ける。
きっと、怖いくらいに強い恋心で。エコだろうか?それで構わない。
行動をエゴに置き換えてしまうのならば、エゴを行動に置き換えることも許されるはずだ。そうして置き換えて自己嫌悪に陥る心があるのなら、それは心優しい証だ。ならば、逆の置き換え方をしても、いいだろう。
「ミカミ・アキトがいなくなったのは、誰のせいでもありません。なにも出来なかったのはみんな同じ・・・なにもさせて貰えなかったのは、みんな同じです。それが、あの男の恐ろしいところで、あの男が皆に好かれているところでもある。」
「そう・・・なのか?」
「そうです。だから、ウルガさんが気に病む必要は無いんです。誰かが考えることは、しなくてもいいんです。だって、言ってたじゃないですか。きっとミカミ・アキトは帰ってくるって。」
かつて、ウルガさんは私に言った。アキトはそう簡単に死なない。確かに、しぶとさは随一だろう。
それに、そう言わせたのは、まぎれもないウルガさんだ。
「そう・・・だな。」
「はい。」
「なぁ、ヴィーネ。今日は、」
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「今日は、仕事を休まないか?」