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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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188.【眠りたい。ずっと。】

ボロボロになったビル群を抜け。鋭利になった地面を歩き。枯れ果てた木々をまたぎ。

既に原型をとどめていない『狩人の宝石箱』から、アキト達は脱出した。


ーーーーー


焚き火を囲んで眠るアイリスフィニカ。そして、それに寄り添うように、感じたことのない暖かさを求めるように、ライラが同じく眠る。2人とも寝ているという状況は、アキトにとって好都合だった。

現在、レイの世界から逃れたアキト達は、またまた違う世界へと迷い込んでいた。レイの世界へと戻ろうとしても、道を戻ったところで何もなく、レイの世界とは比べ物にならないほどの大自然が、アキト達を囲んでいた。

しっかりとした地形は分かっていないが、大樹が立ち並ぶカーミフスのような世界では、しっかりと夜も訪れるようで、今までの疲れを癒すように、少女たちは眠っていた。


「話してもらえるか?この世界の事。」


ーーーもちろんだよ。すまないね、こんな事になって。


思念のように脳内に響く言葉。饒舌さを日に日に増しているその声は、アキトが異世界で初めて聞いた声であり、声でないもの。

感情を孕んでいないのにもかかわらず、音でないのにもかかわらず、何故だか感情がわかり、何故だか人物像が見えてくる。そんな、不思議ななにか。282に対する認識は、それくらいだった。


「こんな事・・・そうだな、あんまり良い終わり方じゃあなかったな。」


ーーー意外に落ち着いてるんだね?


「そうだな・・・。多分、まだ心が異常なんだろ。」


焚き火の淡い炎に照らされる顔に、弱った苦笑をにじませるアキト。

殺さなくても良いはずだった。しかし、彼は殺してほしいと願った。それくらいしか、狩りという執着に呑まれた男を救う方法は、無かった。

そんな死闘の後でも、アキトにはあまり心身の乱れは無く、安定している。

それらは、アキトの心が異常。色々な人から言われた言葉だ。それに従えば、当然のことだった。


ヴィネガルナに警告され、レリィに覚悟を決めさせ、アイリスフィニカに意思を問うた、アキトの今最大の問題。


ーーーまだ、心を取り戻そうと思わないのかい?


「っ・・・・・・。俺にとって心は、取り戻せないものだ。大事なのはわかってる。持っていないといけないものだって分かってる。でも、それを取り戻したら、俺はもっと弱くなる。」


ーーーそれは・・・


「恐怖を感じるようになる。不安を隠せなくなる。・・・立ち向かえなくなる。」


アキトにとって心は、少しでも戦えるようになるための、代償のようなもの。心を取り戻すことが出来れば、色々な物に対しての色彩が増える。感情が、世界が、大きく広がる。少女たちを傷つけることもなくなる。けれど、恐怖を感じるようになれば、アキトの足は震えるだけの部位に成り下がり、不安を感じるようになれば、アキトはただの一般人。代償を払わなければ、戦おうとすることさえできない。アキトの力は、それほどに弱いものだ。


ーーー君が守ろうとしているものを、傷つけるかもしれない。それでもかい?


「ああ。あいつらが傷つくのと、死ぬの、いや、俺が楽になるのと、あいつらが死ぬのは、天秤にもかけられない。」


アキトが心を取り戻せば、少女たちとの行き違いも無くなる。傷つけなくなる。けれど、戦うことのできなくなったアキトに、少女たちを守る術はない。どちらか選べと言われる状況に立たされた時、アキトは考えることなく、心を捨てることを選ぶ。

たとえリデアがアキトの変化に不安を感じていたとしても、レリィがアキトの心を取り戻してあげたいと決意しても、シャリキアがその身を案じたとしても、アミリスタが涙を流しても、アイリスフィニカが痛みに顔をしかめても。その決定が覆ることはない。

そう、覆ることは、ない。


「お前だって分かるんだろ?俺が考えてることぐらい。」


ーーー・・・そうだね。分かる、分かってしまう。でも、


そう前置きする声には、なにか強い決意が宿っているような気がする。感情なんて込められていないはずなのに、何故か分かってしまう。


ーーー僕も、彼女たちも、君のそんな姿を見たがってないよ。


「・・・俺はそんなに気遣われるほど、すげぇ奴じゃない。」


アキトは、アキトがいなくなったことで生じた悲しみを、歪みを、ズレを、涙の数々を、苦悩を、知らない。自分の過小評価も相まって、アキトの存在の消失は、そこまで大きくないと、本人が考えている。

アキトの辛そうな顔を見るたびに、少女たちがどれほど心配しているか、アキトの心の底からの笑顔で、どれだけの少女が安堵するか。喜ぶか。そんな事、知らない。心を落としてきてしまったから、知れるはずもない。


「お前がどうしてそこまで気遣ってくれるのか分かんねぇけど、俺には才能も、努力しようとする根性もない。」


ーーー嘘だ。だって君は、ずっと戦い続けてきた。ここでだって、吸血鬼に技を学んでいるだろう?


「成果の出ない努力は、努力とは言わない。俺の持論だが、向上心に満ち溢れてるだろ?」


どれだけ努力しようと、どれほど血の滲むような研鑽を重ねようと、苦渋の涙を流そうと、そこから何かが生まれなかったのなら、それは努力が足りていない証だ。努力したつもりになって、どうして努力をしたのに成果が出ない?そんな問いをしているのと変わらない。それほどに、成果は大事なもので、必要なものだ。

だから、失敗と成功が存在する不完全な屈縮術ができるようになったところで、アキトは努力へ至っていない。成果を得られていない。


「俺は、まだ努力をしたことがないよ。」


ーーーそれは・・・自分に厳しすぎるんじゃないのかい?


「・・・俺は、生まれてからどれだけの悪行を成したか分からない。自分で自覚していない罪もあるかもしれない。そんな償いのために、不幸は起きるんじゃないかと思ってる。」


生まれてきてから今日に至るまで。何度過ちを犯し、誰かを傷つけ、世界を壊して、罪を重ねてきただろう。そんな自覚のない罪を、自分から償えるだろうか?そんなはずはない。人間は、分かっている罪でさえ償うことのできない、弱い生物なのだから。では、その悪行と善行のバランスは、どのようにして取られるのだろう。

それが、不幸の返却だ。

自分がこれまでに犯してきた罪の分、なにかしらの不幸が自分に降りかかり、それを受け続けることによって、人は清らかになっていく。


「だから、そんな不幸に見舞われないように、自分から辛い道に進む。そっちの方が、いいと思わないか?」


選べない不幸が、選べないタイミングで、選べないものとして降ってくる。それよりは、自分への重圧を、自分で決めて、覚悟をもって、そっちの方が、幾分かマシなのではないだろうか?

今まで生きてきた中で、そんなことを思いながら生きてきた。けれど、アキトは何度も過ちを犯した。リデアを見殺しにした。

さて、その分の不幸は、いつ起きるのだろう。


「悪い。この世界のことは、明日話してくれ。もう今日は、眠りたい。」


ちょっとシリアスで切ったんですが、関係なしに作者の近況を話したいと思います。それはチョット…という方は飛ばしてください。

リゼロの2期が楽しみすぎて2日ぐらい眠れなかった、作者です。『リィンカーネイションの花弁』という漫画にハマりました。1番好きなキャラは『ヒトラー』です。裏表紙のポルポトとの漫画とか、あのシーンとか、超感動しました。人は選ぶかもしれませんが、是非読んでみてください。以上です。それでは、また明日。

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