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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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183.【こいつはてぇへんだ】

第1回小説執筆シャトルラン2回目。

立ちふさがる気味の悪い壁。

アイリスフィニカの目利きによって、大体の場所は分かっているが、この中に先ほどの悪魔が潜んでいるとなれば、自然と背筋が伸びるというものである。

現在。アイリスフィニカ率いるアキトは、そのビル群を探索している。ここさえ越えることができれば、このおかしい世界の事を知れるかもしれない。淡い希望かもしれないけれど、少年にできるのはそれだけだ。


「アキト、変な感じがするんだが、何か魔法でも使ったか?」

「お、俺がか?残念ながら火種の1つも作れな・・・!!」


そんな馬鹿な、と軽口を叩こうとしたアキトの口が止まる。それも、驚愕の表情付きで。

アイリスフィニカからの一応の警告をもってしてでも、そのイレギュラーに対して対応できなかった。いや、ポーカーフェイスを貫けなかった。


「お前、話せないんじゃ!?」


ーーーバルバロスではね。


中性的な声。明るい声。心底楽しんでいるような声が、今はほんの少しの焦燥を孕んでいるように思える。しかし、それを指摘するに至らない衝撃を受けるアキトに、282から語られる。


ーーー君たちは今、()()()にいる!


「おうふ」


そいつはてぇへんだ。アキトはゆっくりと思考するのをやめようとした。

ーーーーー


求めても。渇望しても。力を急に手渡されることなど、あるはずがない。何故か?ライラには、既に力があるから。今は使えないとしても、反則級の伝説武器を、その身に宿しているから。そしてなにより、精霊王はそんな面白くない展開など、望んではいないから。


「っ!」

「ここにいたのですか。あなた方はもう動けないものだと思っていましたが・・・我らはあなた方の実力を見誤っていたようです。」


満身創痍にガトリングガンをぶっ放した状態のライラの前に、オーバーキルがエクスカリバーを持ったような男、レイが立ちふさがる。

情けなどない。そんなにボロボロでも、どれだけ死に体でも、ライラは獲物だ。仕留めなければならない。


「もう一方の方々を相手にしている間に、あなた方に動かれてしまっては困る。急いで戻ってきたのです。感謝するのです。」

「な・・・にが・・・」

「もう、その痛みと向き合う必要は、ないのですから。」


その骨の表情は読み取れない。肉どころか、筋肉、皮だってないのだから、当たり前だ。それでも、分かってしまう。感じ取ってしまう。彼がどういう感情を抱いているのか。分かっていた。彼が、どのような人間か。

どの道に、歩いているのか。


死んだ獲物を優しく(めと)る、狩人。


猟銃の数段上の威力を持つ、骨の猟銃。骨弾を放つ彼の1番の武器。

装填される時間が、やけに短く感じた。まだ死ねない。そんな思いがあったからだろうか。奥歯を噛み砕くほどに力をこめる。肉を突き破ってしまうほどに、拳を握る。喉が張り裂けそうなほど、叫ぼうとする。

どれも、大した意味はなさなかった。


「サヨナラです。」


響く銃声。轟く断末魔。1番大きな叫びが、こだまする。


ーーーーー


「どういう事だよ!月って。というか、その場合、俺は異世界から帰還したわけで・・・」


別に、元の世界に帰ろうという目標を立てていたわけではないが、その世界が恋しいと言われれば、まぁそうだ。しかし、異世界に行く事で、アキトはゆっくりと考えた。そうして、理不尽な少女たちの試練に怒りを抱いた。助けたいというエゴを、行動に移せるようになった。

そんな事をしているうちに、元の世界に帰ろうなんて思う時間すらなかった。


「聞いてんのか!?」


ーーーああ、ここは


「ああああああああああ!!!!」


282が急ぎながらも、しかし、それを決して表に出さないように話し始めようとした時。

響く声は、誰の断末魔だ。ライラだ。それを成したのは誰だ。レイだ。

そんな状況を作り出したのは誰だ。


「俺だ・・・!」


アワリティアを倒した時、アキトがただあの場に居合わせた人間じゃないのなら、偶然の場面にいただけじゃないのなら。アキトは、その状況を作り出して、そこに至るまでの過程を足掻いた闘う者だ。ならば、ここにはアキトがいただけなのか?違う。ここでも、アキトは最善の状況を作ろうと足掻いたはずだ。ならば、この断末魔の元を辿れば、誰に行き着く。

考えなくたってわかる。アキトだ。


どうして単独行動を許してしまった。どうして憎悪を、嫉妬を、不満を、悪感情を切り離せなかった。どうして、何故。

後悔の自問自答が己を責め続け、最悪の想定がそれを大きくする。


「アキト!落ち着け、悔やんでる時間なんてない!」


歯噛みするアキトに一喝し、アイリスフィニカが森の方を指差す。

鬱蒼と生い茂るその中に、糸が集められて行くのがわかる。死に切れない少女を殺すための、第2の弾丸、骨弾。

アイリスフィニカだって282の声の正体、アキトが誰と話しているのか、そんな疑問の渦にいるはずだ。しかし、目指す眼差しは強い。


「アイリス、頼む」

「うん!勿論」


まだいける。(はず)

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