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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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182.【力を求める。ー少女ー】

第1回小説執筆シャトルラン。1回目。


「まぁ、そう怒らないでください。彼も僕の護衛という立場だ。少しだけはやまってしまった。」


そうして話してはいるものの、彼の脳内ではひたすら思考が行われている。絶えることなく、一瞬の余白もなく、ずっと、ずっと。

この、2000年。ずっと。


それを人は命題と呼び、彼には分からないものがない。全てを考えついてしまうから。いや、考え続けて、全ての可能性を考え尽くしてしまうから。どこかに必ず正解の思考がある。その数打ちゃ当たる方式の、一見効率の悪い能力。しかしそれは、ここから動かずとも、世界の全てを知ってしまえるということだ。


ーーー君は分かっているはずだ。逆らったらどうなるか。


「・・・。僕は考え続けて分かってしまった。あの炎の夜に聞いた世界の真実。あれを成したのが、いったい誰か。」


三日月のように鋭く口角を歪め、エゴロスフィニカが笑う。

光の宿っていない暗い目だ。生気の感じられない声だ。狂気だとしか思えない生き方だ。正気ではない、男だ。


「逆ですよ。逆らったらどうなるのか分かっているのは、あなただ。」


ーーー!


「世界の進む方向に逆らえば、かつてのシシュウの惨劇の二の舞だ。分かっているでしょう?」


ーーー


「だめなんです。逆らっては。例えこれが、あなたの作り出した世界だとしても。」


ーーー僕は、信じることにするよ。ミカミ・・・いや、アキトを。


ぼんやりと輝く淡い少年の姿が消える。

残されたジオリルに、その高度すぎる会話は、理解できなかった。


ーーーーー


ズルリ。

そんな擬音が、いや音だけが、脳内を支配していた。支配して、恐怖に縛り付けて、消えることのない暗闇に、混沌を混ぜていた。

むせ返るような血の匂い、聞きたくもない内臓、肉、血の滴り落ちる音。視界に入れたくもないその惨状。

今、頭はどれほどあるだろうか。こうして木に当てている手は、どれほど形を保っているか。そもそも、これは手か?体はあるのか、もしも死んでいたとしたら?


中途半端に回復が進んだせいで、嫌な想像力だけが増幅される。嫌気がさす。


痛い。苦しい。死にたい。不安だ。怖い。悲しい。

吐き出される声。人より何倍もいきていると言っても、精神年齢はそこらの少女と変わらない。ここまで生きてこれたのは、その強い精神力のおかげだ。

だけれど、どうして。悲しいという感情があるのだろう。

こんな感情は、捨てたはずだ。痛くて苦しくて辛くて死にたくて。なのに、どうしてそんな余計な感情に思考を割いている。

疑問符。分かりきっているけれど、わざとらしく分からないふり。乾いた笑みがこぼれる。


知っている。

無理をしていたのを、知っている。いつも拳を握り固めていたのを知っている。その中で、爪を突き立てていたことも知っている。知っている。知りたくなんてないけれど知っている。

でも、怒りの原因だって、知っていた。


ライラへの苛立ち、怒り、憎悪。悪感情としてひとまとめにされる感情の数々。それらが向けられていることを知っていた。それを向けてしまう自分にも、そんな罪を課した存在に怒っていたのも知っていた。

ミカミ・アキトがそういう人間だと知っていた。

だから、裏切られたのが辛い。いや、裏切られてなどいない。もとから大した関係ではなかったのだから。

でも、最後に。

血にまみれた少女は願う。


「せめて・・・たすけ・・・に・・・なりたい・・・・・・」


少しでも、あの白い悪魔に、深手を負わせなければならない。


骨を砕けば山脈を守るようにそびえ立つビルから補充され、壊された分を回復する。それと同じように、武器を作り出して攻撃を仕掛けてくる。本気になれば、ライラの前から消えたあの時のように、自分の体全てを糸に変えて、そのまみどこかに逃げることだってできる。

それを、あそこまで疲弊した2人に任せるのは、絶対にだめだ。ライラの脳が、そう叫んでいた。


だから、助けにならないといけない。たったひとときでも、仲間というものを教えてくれた少年の助けになるために。たった少しでも、悲しみを思い出させてくれた少年を。

本当は裏切ってなどいない少年を、たすけないといけない。


チスニプリウムを召喚するには魔力が足りない。顕現魔法の中でもトップクラスの能力をもつそれは、並大抵の魔力では召喚できない。ファルナであっても、召喚には時間がかかるだろう。それに、召喚できたところで、精霊まで願いを届ける霊力を使い切った後では、助けを求められない。霊力道具での回復もままならない状況で、チスニプリウムを使うなど、無意味以外の何者でもない。

かといって、レヴィアタンに助けを求めたとして、彼とは連絡すらつかない。拒絶結界シヴィルファフリー、彼の能力、どれを取っても力がない。

残っているとするならば、心配そうにライラの右足に寄り添う精霊だけ。精霊王に仕えるような大精霊ではないが、そこそこの力をもった立派な精霊だ。しかし、それだけで戦えるほど、ライラの傷は浅くない。

どうして。力がない。


少女は、力を求める。


腰がやばいです。

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