181.【絶望、涙】
「い・・・たい・・・嫌・・・捨てないで、そんな目で、見ないで。」
ドロリとした気持ちの悪い感触が腕を撫で、それを血だと感じ取れるはずの脳がないから、半分以上がこっそりとえぐられている右腕でそれを触ろうとする。指がない。だから、触れられない。わからない。眼球がないから、分からない。
最後の記憶は、凄惨だった。何故か糸となってどこかへ移動したレイからの追撃があれば、ライラは死んでいた。
助けて、くれないのだろうか。あの少年とは同盟。仲間、仲間。
そんな思考ができるくらいにまでは回復した。しかし、未だ世界と自分の意識を繋げることができない。
心細い、助けてほしい。声をかけてくれるだけでいい。
ーーー君は、ライラを蔑まない、初めての人だから。助けてほしい。
初めてだった。自分を蔑まない人物は。だから、助けてくれるのではないか、そんな甘い未来予想。
わかっていた。分かりきっていた。
どうして少年は度々席を外した?どうして苦しそうに自分を見ていた?どうして別行動に対して不安を抱かなかった?
嘘のように沸き続ける問いの数々に、ライラは1つの答えで全てを収束させられる。
ーーーライラが、疎ましかったから。
「ふ、ふふ。馬鹿・・・みたい・・・」
ドロドロとした血液の流れる感触。ところどころが固まって張り付いて、乾いた笑みで動く頰が、それらを割る。それに上乗せするように、熱い何かが流れ落ちる。
「勝手に、仲間なんて・・・馬鹿みたい。」
絶望。
涙。
光は弱く。掻き消され、少女の声は届かない。
ーーーーー
何故。
282の脳内で爆発するその問いかけが反響し合い、消えることのない音量で警鐘を鳴らす。
バルバロスで、ほんの少しだけ少年と話せた。彼には、這い上がろうと足掻く理由と、戻りたいと思える感情の糸が、上の世界につながっていて、安心のはずだった。
ーーー何故邪魔をする!エゴロスフィニカ!
「なに、いいではありませんか。あなただって理解したはずですよ?シシュウという存在の消失によって、どれほど世界に影響があったか。・・・もうこれは、あなただけの問題ではない。私も容赦はしない。」
怒声を張り上げる282。その姿はおぼろげで、どこか神々しさを感じさせる。少年ほどの体格の靄が叫ぶ先。簡素な椅子に腰かけた男は、両手を組み、俯いたまま話す。
そして、その横に佇む老人。濃ゆい金に彩られる白髪。既に相当な年齢に達しているであろう。箱庭の『権限魔法』アーテラルド・ジオリル。
エゴロスフィニカを睨みつける282。拳を握り固めたそれに向かって、そっと手を伸ばす。決して、話さない。
顕現魔法『ヒーゼリア』
撓み、連なる輝きが竜となり、それが渦巻きながらジオリルの右腕に巻きつく。生じた2体目がそれらごと腕を喰らい、輝く右腕を振り上げる。
ーーー黙っていろ、傀儡。
パキ、と。いとも簡単に顕現魔法が崩壊。斬り刻まれたジオリルの腕から血が吹き出る。切り落とされるよりはマシ。しかし、そこに激痛が伴いことは変わらない。
思わぬ衝撃に後ずさるジオリル。
ーーーほんの少しの偶然に頼った男が無様に。『それ』を自分の力だと思うな。
顕現魔法、それは。
ーーーそれは、与えられた力だ。
作者考案の小説執筆罰ゲーム、『小説執筆シャトルラン』
全身全霊で魂を込めて小説を書き、2000字書くごとに投稿していき、もう無理というところまで書き続けるという罰ゲームです。ずっと座り続けて書くため、体に大きな負担をかける罰ゲームです。投稿サボることにやろうかななんて考えてます。
え?最近ずっとサボってた?
・・・第1回小説執筆シャトルラン開始!