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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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180.【切ない笑顔と燃えない炎】

(´∀`*)

空高く舞うレイ。輝きの降り落ちる不可解な世界の空を背負って、歪な影がアキトたちにおちる。

アイリスフィニカの血が、蠢き出す。生々しく、痛々しく、凄惨にぶちまけられていた少女の美しい血液たちが脈打ち始め、鼓動のように輝きが走る。

全てが、液体の雫へと劣化。その雫たちが、全てひとつひとつナイフのような刃へと変化。


不可逆的に働く力が消滅。少女から繰り出される斬撃の数々が、ナイフという殺傷力でもってレイに輝きを飛ばす。

空中では、避けきれない。


「残念ですが、ここまでのようです。」


破裂音が響き渡る。

アイリスフィニカの刃は空を切り、消え失せたレイの体は、地面に残った残骸だけとなった。


ーーーーー


「逃げられた・・・」

「お前はよくやった。しょうがない。俺を庇いながらやったんだ、充分すぎるぜ。」

「・・・ん。」


依然不満そうな表情は消えない。しかし、アキトが優しく頭を撫でれば、少しだけそれが和らいだ。


「・・・・・・」

「上の事、考えてるか?」

「っ・・・なんで分かったんだ?俺、そんな険しい表情になってたか?」

「ううん。すごく、優しい顔。」


眺める天上。少女達の待つ、その世界。

どうやら、そこに対しての寂しさではなく、思い出の楽しさが蘇っていたようだ。


「ここに落とされる前に、旅行に行ったんだ。」

「誰と?」

「一緒に住んでる娘とか、友人?とか。」


レリィやリデア、アミリスタにヴィネガルナ。シャリキアやウルガ達のことをどう説明すればいいのだろうか。迷いながら口に出す。さすがに、自分のことを好きな娘とか、自分が裏切った娘とか、そんな事は言いにくいから、友人という曖昧な領域へと逃げる。


「一緒に住んでる・・・む・・・」


それを聞いた少女が、少しだけ顔を背ける。怒っている、いや、拗ねているような印象を受けた。


「って、悪い。俺ばっかり・・・」

「べ、別に、そういう事じゃないけど・・・」


ほんの少しだけ、沈黙が落ちる。

想いはきっと、同じはずだ。呪いに縛られ続ける少女の、時間を燃やされ続ける呪いに抗いたかった少女の、その想いは、同じはずだ。

絶対に助け出す。そう決断して、そう心に決めて、絶対に助け出すと魂に刻んで。それでもなお、シャリキアの時は助けられなかった。あと少しで、手が届いた。そんな事はない。あの時の力の値に、そんな指先ほどの変化で済まされるような甘いものはなかった。剣を向けてでも、槍を突きつけても、たとえ弓を射ったとしても、届かなかった。

期待させて、それを砕く。そんな最悪な過程を、たとえどんな結果であれ、起こさせはしない。


そんな自己嫌悪に浸るアキトに、アイリスフィニカが言葉を投げる。


「ねぇ、アキト。上での事、教えてくれよ。」

「上での・・・事?」

「うん。アイが知らない世界の事。」

「・・・」


儚い瞳でアキトを見つめる少女。


「ああ。じゃ、座ろうぜ。」

「うん。」


アイリスフィニカは膝を抱えて座り、アキトはあぐらをかきながら両手を地面につき、体を支える。

レイが消えたこともだが、どのみちアキトたちに連戦は無理だ。ここで休息がてら話をするのも悪くない。


「そうだな・・・。どんな事を聞きたいんだ?」

「アキトの周りの女の子の事!」

「なんでそんな食い気味なんだよ・・・いいけど」


いざ聞かれてみれば、アキトの周りにはなかなかの環境が揃っている。よくよく考えて、自分があの中にいるのがどうしようもなく申し訳なくなってくる。けれど、確実に1人には、求められている。


「・・・俺は、影の世界の俺と戦ったんだ。」

「影の世界?」

「その人物の選ばなかった選択肢が反映される世界。そこから、あいつは俺を殺しにきた。」

「もう1人の、アキト・・・?」

「ああ。」


アケディア。現、ルーレサイトの能力。『怠惰』の大罪の力、影の世界。その人物の最大の選択肢の、選ばれなかった方が反映される、真逆の世界。

だからこそ、カガミはアキトを殺しにきた。


「それって、倒すの簡単じゃない?」

「ひどいな!・・・影の世界は、ようは真逆の世界。最弱の真逆。わかるだろ?」


もし影の世界からミカミ・アキトが現れたとして、興都侵攻を開始したとする。もしその場合、そこらへんにいた街の人に倒されて、あっけなくアキトは死ぬだろう。めでたくバカな侵略者として吊し上げられる。しかし、最弱の反対が攻めてきたあの戦いで、カガミは影の世界で最強だった。

つづりから奪い取った能力、『影砲』。そして、圧倒的な魔力適正。才能の塊である。


「どうしたの?それ・・・」

「倒したよ。もちろん、いろんな人に全部助けてもらってな。」

「じゃあ、アキトは英雄だな。なんでこんな所に?って・・・」

「お前には、前聞いてもらったよな。」


弱々しい笑みで頭を掻くアキト。失意に沈むアキトの言葉を聞いてあげ、そうして、優しく慰めてくれた。それが、呪いをかけられる必要なんてなかった、強くて優しい少女。


「まぁ、そんな時に、女の子に好きだって言われた。」

「んむ・・・。それで?」

「俺はなんつーか・・・友達として好きっていうか」

「嘘。アキト、その子の話する時、すごく優しい顔してる。好きだろ?」

「ぁ・・・、はぁ。そうだよ!悪いかよ!」


さっとアキトの表情から真理を盗み見るアイリスフィニカ。上の世界に行くまでは正直に行こうみたいな精神によって、これまで隠し続けてきた本心をさらけ出す。


「さも当然みたいに、俺を認めてくれた。」


アキトは偶然でアワリティアを倒したのではない。その場にいただけじゃない。その場を作り出したのは、アキトだ。そんな言葉を、当たり前だと、まるで常識を語るみたいに。そしてなにより、心細かった興都生活で、一番の楽しみを作ってくれた。惹かれないはずがない。周りを巻き込んで元気を振りまき、自分の事を考えない。そんな少女に惹かれないはずがない。


「でも、断ったんだろ?」

「断ったというか・・・えっと・・・」

「まさか、曖昧なまま済ませたとか、いや、そこまで全部あっちにやってもらっただろ!」

「う!」


アキトのヘタレ性を見抜いたアミリスタは、自分から答えを待ってくれた。

それに、旅行でのある一件から、アキトには気まずいこともある。


「なんでだよ。そんなに好きなら返事してやれよ。」


若干不機嫌そうに、そっぽを向きながらアイリスフィニカが言う。


「それは、できないんだ。」

「?」


これまでにないはっきりとした言葉を聞いて、アイリスフィニカが視線をアキトに戻す。

アミリスタのことは好き。しかし、そうであっても受け取れない好意。


「俺、好きな奴がいるんだ・・・。」


苦笑い、とでも言うのだろうか。切ない表情に、何も言えなくなるアイリスフィニカ。

もっと好きな人がいる。だから、中途半端なことはできない。現代社会で生きてきたアキトの、現実主義。


「て、どうでもいいな、すまん。」

「・・・い・・・や、そんなこと・・・」

最近2Bの絵を描くことにはまっています。作者です。

調子に乗って200.を少しだけ長編にしようとしていまして、本編と並行作業になってサボり気味です。あと20話ぐらい、短かったり、休むことがあります。すみません。見捨てないでください。

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