180.【切ない笑顔と燃えない炎】
(´∀`*)
空高く舞うレイ。輝きの降り落ちる不可解な世界の空を背負って、歪な影がアキトたちにおちる。
アイリスフィニカの血が、蠢き出す。生々しく、痛々しく、凄惨にぶちまけられていた少女の美しい血液たちが脈打ち始め、鼓動のように輝きが走る。
全てが、液体の雫へと劣化。その雫たちが、全てひとつひとつナイフのような刃へと変化。
不可逆的に働く力が消滅。少女から繰り出される斬撃の数々が、ナイフという殺傷力でもってレイに輝きを飛ばす。
空中では、避けきれない。
「残念ですが、ここまでのようです。」
破裂音が響き渡る。
アイリスフィニカの刃は空を切り、消え失せたレイの体は、地面に残った残骸だけとなった。
ーーーーー
「逃げられた・・・」
「お前はよくやった。しょうがない。俺を庇いながらやったんだ、充分すぎるぜ。」
「・・・ん。」
依然不満そうな表情は消えない。しかし、アキトが優しく頭を撫でれば、少しだけそれが和らいだ。
「・・・・・・」
「上の事、考えてるか?」
「っ・・・なんで分かったんだ?俺、そんな険しい表情になってたか?」
「ううん。すごく、優しい顔。」
眺める天上。少女達の待つ、その世界。
どうやら、そこに対しての寂しさではなく、思い出の楽しさが蘇っていたようだ。
「ここに落とされる前に、旅行に行ったんだ。」
「誰と?」
「一緒に住んでる娘とか、友人?とか。」
レリィやリデア、アミリスタにヴィネガルナ。シャリキアやウルガ達のことをどう説明すればいいのだろうか。迷いながら口に出す。さすがに、自分のことを好きな娘とか、自分が裏切った娘とか、そんな事は言いにくいから、友人という曖昧な領域へと逃げる。
「一緒に住んでる・・・む・・・」
それを聞いた少女が、少しだけ顔を背ける。怒っている、いや、拗ねているような印象を受けた。
「って、悪い。俺ばっかり・・・」
「べ、別に、そういう事じゃないけど・・・」
ほんの少しだけ、沈黙が落ちる。
想いはきっと、同じはずだ。呪いに縛られ続ける少女の、時間を燃やされ続ける呪いに抗いたかった少女の、その想いは、同じはずだ。
絶対に助け出す。そう決断して、そう心に決めて、絶対に助け出すと魂に刻んで。それでもなお、シャリキアの時は助けられなかった。あと少しで、手が届いた。そんな事はない。あの時の力の値に、そんな指先ほどの変化で済まされるような甘いものはなかった。剣を向けてでも、槍を突きつけても、たとえ弓を射ったとしても、届かなかった。
期待させて、それを砕く。そんな最悪な過程を、たとえどんな結果であれ、起こさせはしない。
そんな自己嫌悪に浸るアキトに、アイリスフィニカが言葉を投げる。
「ねぇ、アキト。上での事、教えてくれよ。」
「上での・・・事?」
「うん。アイが知らない世界の事。」
「・・・」
儚い瞳でアキトを見つめる少女。
「ああ。じゃ、座ろうぜ。」
「うん。」
アイリスフィニカは膝を抱えて座り、アキトはあぐらをかきながら両手を地面につき、体を支える。
レイが消えたこともだが、どのみちアキトたちに連戦は無理だ。ここで休息がてら話をするのも悪くない。
「そうだな・・・。どんな事を聞きたいんだ?」
「アキトの周りの女の子の事!」
「なんでそんな食い気味なんだよ・・・いいけど」
いざ聞かれてみれば、アキトの周りにはなかなかの環境が揃っている。よくよく考えて、自分があの中にいるのがどうしようもなく申し訳なくなってくる。けれど、確実に1人には、求められている。
「・・・俺は、影の世界の俺と戦ったんだ。」
「影の世界?」
「その人物の選ばなかった選択肢が反映される世界。そこから、あいつは俺を殺しにきた。」
「もう1人の、アキト・・・?」
「ああ。」
アケディア。現、ルーレサイトの能力。『怠惰』の大罪の力、影の世界。その人物の最大の選択肢の、選ばれなかった方が反映される、真逆の世界。
だからこそ、カガミはアキトを殺しにきた。
「それって、倒すの簡単じゃない?」
「ひどいな!・・・影の世界は、ようは真逆の世界。最弱の真逆。わかるだろ?」
もし影の世界からミカミ・アキトが現れたとして、興都侵攻を開始したとする。もしその場合、そこらへんにいた街の人に倒されて、あっけなくアキトは死ぬだろう。めでたくバカな侵略者として吊し上げられる。しかし、最弱の反対が攻めてきたあの戦いで、カガミは影の世界で最強だった。
つづりから奪い取った能力、『影砲』。そして、圧倒的な魔力適正。才能の塊である。
「どうしたの?それ・・・」
「倒したよ。もちろん、いろんな人に全部助けてもらってな。」
「じゃあ、アキトは英雄だな。なんでこんな所に?って・・・」
「お前には、前聞いてもらったよな。」
弱々しい笑みで頭を掻くアキト。失意に沈むアキトの言葉を聞いてあげ、そうして、優しく慰めてくれた。それが、呪いをかけられる必要なんてなかった、強くて優しい少女。
「まぁ、そんな時に、女の子に好きだって言われた。」
「んむ・・・。それで?」
「俺はなんつーか・・・友達として好きっていうか」
「嘘。アキト、その子の話する時、すごく優しい顔してる。好きだろ?」
「ぁ・・・、はぁ。そうだよ!悪いかよ!」
さっとアキトの表情から真理を盗み見るアイリスフィニカ。上の世界に行くまでは正直に行こうみたいな精神によって、これまで隠し続けてきた本心をさらけ出す。
「さも当然みたいに、俺を認めてくれた。」
アキトは偶然でアワリティアを倒したのではない。その場にいただけじゃない。その場を作り出したのは、アキトだ。そんな言葉を、当たり前だと、まるで常識を語るみたいに。そしてなにより、心細かった興都生活で、一番の楽しみを作ってくれた。惹かれないはずがない。周りを巻き込んで元気を振りまき、自分の事を考えない。そんな少女に惹かれないはずがない。
「でも、断ったんだろ?」
「断ったというか・・・えっと・・・」
「まさか、曖昧なまま済ませたとか、いや、そこまで全部あっちにやってもらっただろ!」
「う!」
アキトのヘタレ性を見抜いたアミリスタは、自分から答えを待ってくれた。
それに、旅行でのある一件から、アキトには気まずいこともある。
「なんでだよ。そんなに好きなら返事してやれよ。」
若干不機嫌そうに、そっぽを向きながらアイリスフィニカが言う。
「それは、できないんだ。」
「?」
これまでにないはっきりとした言葉を聞いて、アイリスフィニカが視線をアキトに戻す。
アミリスタのことは好き。しかし、そうであっても受け取れない好意。
「俺、好きな奴がいるんだ・・・。」
苦笑い、とでも言うのだろうか。切ない表情に、何も言えなくなるアイリスフィニカ。
もっと好きな人がいる。だから、中途半端なことはできない。現代社会で生きてきたアキトの、現実主義。
「て、どうでもいいな、すまん。」
「・・・い・・・や、そんなこと・・・」
最近2Bの絵を描くことにはまっています。作者です。
調子に乗って200.を少しだけ長編にしようとしていまして、本編と並行作業になってサボり気味です。あと20話ぐらい、短かったり、休むことがあります。すみません。見捨てないでください。