172.【その斬撃は世界を切り裂く】
ばら撒かれる弾丸。リデアのように戦闘に精通し、幾多の『速さ』というものを脳裏に刻んできた中で、この圧倒的量の全てが、それらを圧倒的なまでに凌駕していた。
現代技術の結晶。酸素を取り込み、それを鉱石がひたすら固形へと変化させていく。混ざる弾丸はマガジンの中で増幅し、装填という隙を完全になくすという最強の武器を作り上げた。
そんな代物を異世界で絶賛ぶっ放しているのは、藍色夏希と名乗った男であり、それを必死で避けながら、ゲートでカウンターを刻むのがアカネだ。
もしリデアがその無装填式小機関銃に相対していたのならば、一瞬の恐怖すら感じることなく、脳天に血液を伴った風穴が空いていただろう。
重いという事が持たなくても分かるような重低音が響き、夏希が銃を下ろす。そこをアカネが逃すはずがない。開く視界の全域に展開されるゲートが、エルダーサンクチュアリに引けを取らない数で持って、今まで取り込んできた弾丸を吐き出す。
「壱。」
小さく呟いた夏希の手のひら、握られているのは一枚の紙。それを放り投げる。予測不能な動きで舞い落ちるそれに興味をなくし、ベルトにつけられていた本を手に取り、開く。
進む残像を伴った弾丸の数々は、舞い落ちた紙に触れ、見えない何かに叩き潰された。
舌打ち、そして、構えたキリファリカの切っ先を向け、無防備な夏希に突貫。それでも、アカネの刃は届かない。
弾丸と同じくして、キリファリカがアルミホイルのようにぐしゃぐしゃに潰される。全方向の空間全てに食らわれた刀。そんな刀への暴力は、アカネの右腕までもを呑み込んだ。
ひしゃげたアカネの腕から血しぶきがまき上り、滴る血の滝が地面に紅い湖を作る。
痛みを感じて喘ぐ暇すら与えず、全力で後方に跳躍してゲートを展開する。アカネを守るようにして開かれたゲートの数々が、同じく弾丸達を飲み込む。しかし、
「お前のゲートが吞み込める速さは、精々ファーリュウくらいだろう?銃弾ほどの速さには、対応できない。」
「あら、余裕なのね」
すり抜けた弾丸がアカネの足、腕、脇腹を貫く。一方、取り込んだ弾丸のカウンターが、夏希に向かって放たれる。
わかっているが、その銃弾とアカネの希望は、同じく先程のようにぐしゃぐしゃに握りつぶされた。
ただそれだけで終わりではない。滴り落ちる血を装飾に、右腕から左腕へとキリファリカの残骸を持ち替える。
「黒聖域」
展開される聖域が口を大きく開き、リデアの取り落とした金の剣を呑み込む。一度魔力へと変えられて、そのまま粒子となりながら形作られるそれは、ぐちゃぐちゃになったキリファリカの刀身を、弱々しいながらも、短刀ほどの大きさにまでなら修復していたのだ。
そして、それはゲートとて同じ。身体中を貫かれ続けているとは言え、キリファリカでの多少の防御が可能となったわけだ、ゲートの力も解放できる。
空間が、ひしゃげた。アカネのいたはずの場所には、血だまりと、それを踏みにじった靴跡。視界の端をかすめた黒いものがアカネだったのだとしたら、リデアには視認できていない。
案の定、それはアカネである。
キリファリカを振り下ろす。夏希とて大人しく斬られない。撒き散らされるアカネの血の中に、手帳ほどの紙を放る。
「ゲート」
禍々しい黒いゲートでそれを吸い込み、ゲートで目くらましになっていたキリファリカの斬撃を生み出す。
「ちっ」
己の防御を切り抜けられた事に少なからず苛立ち、手にした本をホルダーへとしまう。
そして、アカネのキリファリカの攻撃をいとも簡単に避ける。続く二撃目に入るアカネの腹部に拳を叩きつけ、くぐもった鈍い音が鳴り響く。
「がふっ!!」
そのままアカネの服を掴み、掲げる。そして、放り投げる。もちろんそこに、無装填式小機関銃の刃を突きつけて。
引いた引き金と呼応する銃弾。槍のごとく一点を貫くそれは、槍よりも一撃が重く、槍よりも手数が多く、なにより、非力な夏希にも簡単に繰り出せる。
連続する発砲音と空気に溶ける薬包が地面に落ちる音が途切れる事なく続く。それが途切れる時、アカネが地に伏せる音が聞こえた時、そのときこそ、アカネの敗北、夏希の勝利がもたらされる。はずだった。
引き金を引き続ける夏希の背後に、一枚の紙が現れる。黒く黒いゲートから現れる白の紙、そのコントラストこそ、アカネの絶望という今の状況にさした、一枚の希望と同じ。
「壱!?」
「気づいてしまったのね、残念だわ」
空中で回転。夏希の腕を跳躍点として飛躍、後方へと退避。その軌跡には、しっかりと紅いラインが描かれている。そのラインをたどっていけば、夏希の背中に触れる紙が、空間をひしゃげる音が聞こえただろう。
間一髪。夏希の腕の皮膚を、服ごと抉り取った紙の猛威。ただし、アカネにとってそれは、希望の光の糸口でしかない。希望の先、勝利を目指すための、囮。
アカネの血からゲートが発生。それぞれが全て夏希を向いており、幾多の多種多様な魔力が夏希に迫る。
「しぶといな。弐。」
再び、紙を放り投げた夏希。しかし、それは先程のように叩き潰すのではなく、不可視の壁を作り出しただけだった。
「!?」
不可視壁。激突する魔力がそれに反射して、アカネの元へと戻ろうと刃を向ける。
第一波、連なる魔力たちを大幅に移動しながら避け、眼前に迫った魔力を叩き斬る。アカネの進む先、そして、今まで走っていた場所、それら全てに、反射した魔力が波状攻撃として、アカネをその場に留める牢獄と成った。
「意地悪ね」
動けない。しかし、ゲートで吸収するには多すぎる。
おそらく、この異世界において、刀という特殊武器を1番上手く使いこなせるのは、アカネだろう。その特殊性になれるには、幼い頃からそれに触れ、同じ体として生きていくほどの鍛錬が必要だ。
つまり、剣先の見えない、刀身の残像すら見えているか危ういほどの速度。この防御方法は、1番美しい。リデアは、そう思う。
刀がとまる。白く濁った煙が立ち上り、魔力はアカネの背後を抉り壊した。
アカネを避けて。
「全部、斬った?」
悪魔という魔力浪費をなくしたアカネには、あの時の弱さはない。
まず、藍色夏希のマイページに行きます。そして、藍色夏希のブックマークのデレデレしてるやつを押します。読みます。
はい。作者のハマった小説のコーナーです。自分のような弱小作者が名前を出すのはなんだか違和感があるので、上の文に従って読んでみてください。完全にどハマりです。本当にありがとうございました。